焼きたてのパンには小麦色の魔女が棲んでいる

彼女はいつも強力粉をふるいにかける音とともに現れる



ボウルの中身を泡立て器で混ぜていると、


そばかすの多い魔女は軽量カップの残りのきび糖を掬おうとして中に落ちかけた



手繰り寄せるように生地をこねると


横で見ていた橙のリボンを結んだ魔女は


真似るようにくるくると回っている



真白の塊をビニールで結んで


ついでに濃紺の帽子の魔女にハンカチを掛ける


彼女はそのまま眠りについた



ビニールのヴェールを剥がすとふたつぶんにもなった生地に粉を打つ


黄色いワンピースを着た魔女は黒い靴を鳴らしながら跳ねている



ブルネットを三つ編みにした魔女が濡れタオルに潜って遊んでいるとき


ガウスの見つけた正多角形ぶんの時間が経って



あたたかな黄金の歓声の響く台所で


小麦色の肌をした魔女が


さくり、


とブールを小さく噛んで


そっと鼻梁を近づける




そうして彼女は微笑んだ




焼きたてのパンには、小麦色の魔女が棲んでいる

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