脱出させ隊②
勇者が脱出玉を割った瞬間、アイテム屋洞窟前支店のバッグヤードに警報が鳴り響く。
『脱出玉の使用確認!脱出玉の使用を確認!座標を送ります!!』
バッグヤードには四人、種族バラバラの人々が集まっている。
目つきの悪い少年はそのけたたましい音量に驚き肩を震わせ、エルフ耳の少女は機嫌悪く舌打ちをし、狐の面を被った青年はちらりとスピーカーを見て、大男は大きな欠伸をする。
「ちょっと!この音量どうにかならないわけ!?いっつも耳がキーンってなるんだけど!?」
「おらはこれくらいがちょうどいいけどなあ。緊張感があっていいど」
「緊張感という点においては賛成ですが、さすがにこのボリュームはありませんね」
「ぼ、僕もこれはちょっと大きすぎるって思います。何とかならないんでしょうか?」
彼らはそんな言い合いをしながら、慌ただしく準備を済ませる。
数十秒も経たないうちに装備を終わらせると、彼らは裏口からすぐさま出て行ってしまう。
「地下四階層のイノハ泉の奥……地下四階層のイノハ泉の奥……」
先陣を切るのは目つきの悪い少年。
ものすごいスピードで走りながら、彼は座標を忘れないよう繰り返し呟く。
洞窟の中を走る少年の前には無数の虫型モンスターが現れ、少年を見るや否や襲い掛かる。
「あーもう!忘れちゃうのでやめてくださいよ!」
少年はからかわれているかのような調子で、モンスターたちを双剣で切り裂き、真っ二つにしてゆく。
脳天から尻まで直線に通る刃はあっという間に虫共の骸の山を完成させた。
少年を追いかけるようにエルフ耳の少女が続く。
少女が持つのは巨大な両手斧。
黒く鉱石の艶が見られるそれはどうみても一級品であり、軽々と運べるような重量ではない。
なのに文字通り、目にも止まらない速さで走る少年に追い付けるようなスピードで走っている。
少年が殺し損ねた残党を無言で叩き潰し、異色の血液をあたりに飛ばす。
少女は狂気に満ちた笑顔で虫を殺していった。
狐面の青年と大男はそれよりずっと遅く、会話をしながら歩いていた。
「どうして彼らはいつも表の道を使うんでしょうねえ。時間のロスになるし、モンスターも湧く。いいところなんて何一つないのに」
青年は少年や少女が飛び込んでいった洞窟の本来の道とは別、関係者用に掘られた裏道を下りながら言う。
「そりゃあおらたちより速くて、おらたちより強けりゃ表を走りたくもなるど」
「ごもっともだ。けど君は彼らと同じくらい強いでしょう?一体なぜ」
大男は青年の後ろを歩きながら言う。
「おらが速く走れるように見えるのかい?」
「見えないな」
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