”脱出玉”の誰も知らない真実

うざいあず

脱出させ隊①

「「「「「ギギギギガガガガガガッ!!」」」」」

 蜘蛛のようなモンスターが八本の足を犇めかせながら、奇怪な声を上げる。

 モンスターに対面するは勇者一行。

 僧侶、魔法使い、戦士、勇者の四人――バランスの良いパーティではあるが、既に皆ボロボロになっており、死屍累々といった雰囲気だった。

 強敵との対峙で、彼らの士気は下がりに下がっている。


 場所は洞窟。

 岩肌は苔むして、色とりどりの大きなクリスタルが照明代わりとなっている。

 幻想的な風景とは反して、周囲に人影はなく、誰かが助けに割って入りそうにはない。

「くそっ……ここまでか」

 勇者らしい恰好をした少年が苦虫を嚙み潰したような表情をして、地面を殴る。

 そして布製のバッグから一つの宝玉を取り出した。


 丸く灰色で、中には何やらキラキラとしたものが入っており、まるで宝石のよう。

 そのアイテムとは『脱出玉(980ゴールド)』。

 使えば特別な戦闘以外必ず逃げられる、アイテム屋で買えるアイテムだ。

 値は張るがいざというときに重宝する冒険者たち御用達の代物だった。

 それを勇者は惜しげもなく地面に叩きつけ、割ってしまう。

 瞬間、真っ二つになったその玉からは勢いよく煙幕が噴射する。

 不透明な大気はあっという間にモンスターと勇者の視界を遮った。


「「「「「ギガギガガッ!?」」」」」


 モンスターたちは突如目の前に現れた煙幕にたじろぎ、動揺したような鳴き声を出した。

 その隙をついて、勇者たちは一気に逃げ出す。

 勇者は魔法使いの肩を担ぎ、戦士は僧侶を背に抱えて。

 深手を負っている勇者と戦士の動きは鈍く、二人を支えていることもあってかなり緩慢である。

 しかし、


 彼らの頭の中には自分たちを命の危機にまで追い詰めたモンスターたちから逃げることしかないのだから、それを疑問に持つことは難しいだろう。

 仮に理論を思考したとして、痺れ草や眠りゴケがあの煙幕に混ぜ込まれていてモンスターたちの動きを封じる程度にしか考えない。

 ならなぜ自分たちには効かないのだろうか。

 痺れや眠り等の状態異常にならないモンスターもいるというのに。

 

 もしここまで真実に行きつける者がいるとするなら、その人はきっと彼らに勧誘されるだろう。

 アイテム屋裏組織『脱出させ隊』に。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る