立花くんは助けたい。
放課後、立花はボランティア部を訪れた。
ボランティア部は校舎から少し離れた三階建の旧部室棟にある。新しい部室棟は体育系の部活が占めていて、多数の文化系の部活動がここで行われていた。
「…C組の愛想作った子でしょ? 確かカップルで来たわよ」
「…」
昼休みに聞いた早川の事を理森に聞くと、どうやら本当らしかった。
よく見れば、机の上にある三角錐の置物に恋愛相談所と彫られていた。
「一応きちんと依頼に沿ったからね? まさか付き合うとは思ってなかったけど。多分あの作ったちゃんが、我慢出来なかったんじゃない?」
「作ったちゃんって…まあわかるけど…でもなんであんなやり方を…?」
理森は数多くの恋愛相談を聞いてはアドバイスをし、割と成就させてきた。
対価は落としたい相手を思う気持ちと同程度の自身の持ち物や秘密で、これを元に学校での不動の地位を確立していた。
魔女はその特性から自己愛高めのコミュ症が多い。それが理森には我慢ならなかったために始めたと言う。
伴侶はだいたい付属品か種馬扱い。しかも早逝する場合が多く、理森はそういう部分が気に入らなかった。だから人の恋愛相談でいろいろなケースを学んでいた。
そして、数多あるWEB小説からも。
「ほら、ここに書いてあるでしょ?」
「………ほんとだ…頭おかしんじゃないかな」
理森がスマホで見せてきたサイトには、早川が起こしたことと、ほぼ同じ行動が載っていた。
まさかリアルで提案し、受理する奴がいるとは。立花はそう思ってつい口を滑らせた。
自分も似たようなことをしていたが、幸い記憶を失っていた。
「そんな言い方しなくてもいいじゃない。後悔する女って割と好きなんだから。馬鹿可愛いよね」
「酷いな……あれ? …誤解したまま嫌われて…主人公に別の彼女出来ちゃう…と、か…誰かに似て…え、あ、あ! もしかしてこれ…原さんも相談来てる?」
短編だったから話自体は短かった。そして最後まで読むとわかった。裏で網をかけてたのは原さんだった。決して主人公に胸の内を見せず、寄り添い支える献身的な態度。その女の子が勝者だった。
立花によって背中を押されたが、追いかける側と追いかけられる側が逆転している点は同じだった。
「…守秘義務がありますので」
「言ってるじゃん…にしても…」
短編なので、勝者は原さん風女の子になって終わっていた。今後はどうなるかわからないけど、頑張って。立花は心の中で早川にエールを送った。しかし、いらないことさえしなければ、普通に早川さんが吉木君と…
チラリと見られた理森は可愛く首を傾げ唇に人差し指を当てながらニヤリとした。
ニヤリだけが合ってない。
どうやら……原さんの方が対価を多く差し出したようだった。
「……」
「これから一緒に頑張りましょ❤︎」
「う、うん、頑張ろう頑張ろう」
今日から立花はボランティア部の部員になった。なぜこの人数で部を名乗れるのかわからなかった。理森曰く、教師の弱みをいろいろと握っているから。らしい。
すぐさま退職に追い込めるくらい。とは理森の小さな呟きだった。
それを拾った立花は深掘りしないことにした。
「ところで朝あったことなんだけど、聞いてくれないかな」
◆
「それは…おかしいわね」
朝の女の子は、どうやら元カノの一人で合っていた。一年A組の女子生徒、安曇杏子だと言う。
理森は少し難しい顔をしながら疑問を口にした。
「彼女達って記憶があるの。だいたいは自分も周りも傷つけていたことに気付いて狂うの。もちろん最愛の人を裏切り続けていたことが一番だけど」
「……」
「過去の文献やレポートを見ると、たかが2、3日でそんなことをした例がないわ。自責の念に駆られたり罪悪感から自傷したり最悪の選択をしたり…」
「自傷…」
「まあ、精神負荷を和らげるためにお守りは渡したけど、それでもおかしいくらい早い」
「そうなんだ」
朝の感じを見ると、立ち直るというより何かに突き動かされているように立花には見えた。
危ういというか、儚いというか。
おぼつかない歩き方はまるで夢遊病者のようで、胸は強く締め付けられた。
「あるいは…最初から壊れているか、ね」
壊れている。
そう、そんな表現がピタリと嵌ったことで、立花は意を決した。
「……大島さん。頼みがあるんだ」
真っ直ぐに理森を両目で見つめ、立花は願った。
その時、無意識に左目を開けていたのは、最悪魔眼を使ってでも言うことを聞かせようとする、立花の意思の現れだった。
そのことに立花は気づいていない。
「❤︎…彼女達を……助けたい?」
「ああ。僕は…彼女を、彼女達を助けたい」
だけど、理森には通じない。彼女はもう立花にとっくにやられていて、ただただ彼の心配をしているだけなのだ。
だから脅す。
「…普通には戻れない。日常を楽しめないかもしれない。人生の終わりに大きな後悔をするかもしれない。それでも?」
普段は眠そうで怠そうで疲れている立花。
それゆえに絡まれることも多かった。
それは長年に渡り虚弱にさせられてきたからだった。
でも今は違う。
「元々彼女たちと僕が付き合って、須藤が奪った…んでしょ? はは。まったく記憶はないんだけど…でもさ、その須藤は僕の唯一の友達だったんだ。だから───」
その時、決意を胸にした立花の左目に、薄らとハートマークが現れた。
「───けじめるよ」
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