リアルマン。

首領・アリマジュタローネ

リアルマン。


 女の子が好きだ。女の子とエッチなことをしたいと思っている。毎日毎晩毎朝妄想を繰り広げている。仕事で疲れて眠ったときに見る「腕のない女の霊」が、どうしてか私の腕を握っていてどんどんと近づいてくるような悪夢を見ていたとしても、朝目覚めたときに自分の腕の上に女の子が眠っていたとしたら「ああこれのせいか」と納得することができるのに。痺れている腕をゆっくりと外して、彼女を起こさないようにして長い髪に自分の指を流し込んだのちに、ググッと自分のほうに身体を引き寄せて、再び眠りにつくのである。


 そうしたら仕事なんて行かなくてもいいし、行く気もなくなってしまうに違いない。

 だが、現状、そうはなってはおらず、ただ寝相の悪さで右腕が身体に押しつぶされていて痺れる体勢になっていたせいで、そんな悪夢を見ていたのかと、いきり立ったブツと睨めっこをしながら全てが夢オチだったと嘆くのである。

 カーテンの隙間からは日差しが入ってきていている。

 背中には汗を掻いてて、シャツはベタベタだ。

 心地よい目覚めとは程遠い。

 汗臭い枕にファブリーズをする。


 歯磨きをしているときも、隣にパジャマ姿の女の子が立っていてくれて「おはよー」と言ってくれるのだ。

 口が臭いのでキスはできないが、パジャマ姿からうっすらと浮かび上がっている胸の形を確認しながら、自分の髭面の汚い顔を鏡で見て誤魔化して、べーと舌を磨くのである。

 汚い洗面台は水が詰まっていて、髪の毛が落ちている。

 自分の穢れだ。


 スーツに着替えて、会社に出社するために電車に乗るとき、毎度のことのように可愛い駅員さんがペコリと頭を下げているのである。


「おはようございます。いつもありがとうございます!」と大体20代前半の大学卒業したばかりくらいの女の子に声をかけてもらうだけで、私の心はときめいてしまう。まだ若いからか、コスプレ姿のようにしか見えないあたりも最高に興奮してしまう。いっそのことを手を握って、白の手袋のまま、一緒に電車に乗り込んで、どこまでも旅をしたい。満員電車の中で汗だく状態で抱き合いたい。「困ります……お客さまっ」と耳元で呟く彼女に向かって「お客様は神様だろ?」と言うのである。これは別にコンビニ店員でも使える。だが、行きつけのコンビニには「お客さまから従業員に向かっての連絡先交換等の声かけは禁止されています」という文字が、区切られたアクリル板の下の方に表記されている。それならばいっそ、顔を見せないように上のほうをモザイクにして声だけで接客すればいいのに。声と手だけで接客してもらったら余計に興奮してしまって、ついつい強盗をしてしまうかもしれない。


「おい、動くな。強盗だ!そこのJD店員。今すぐここで服を脱げ!さもなければ撃つぞ!」と脅したい。涙目になっている店員の服がはだけてゆくのを眺めながら、写真を撮って、下着だけ盗んで消えたい。もしくはコンビニの服を着たまま「下着だけ脱げ!」と脅して、下に何も履かせない状態にさせノーパンノーブラのユニフォーム姿で業務を続けさせたい。私がコンビニ業界を牛耳る力を持っている権力者になったのならば、そうなりたいものである。


 だが、当然ながらそういうことはしてはいけない。

 イヤホンを耳に突っ込みながら、スマホを開くと「香川照之がセクハラで番組降板!」というニュースが飛び込んでくる。あそこまで地位を確立した人間でさえ、いっときの快楽に身を任せて行動してしまい、全てを失ってゆくのだ。

 だからそういうことはしない。

 ああイエスに誓おう。


 電車をジーッと眺める。金髪のギャルの白シャツのボタンが一個だけ外れている。全部外してやりたい。

 女子高生が足を広げて、友達と談笑している。見えそうで見えないし、見えたとしても中にジャージか何かを履いていることだろう。電気アンマでもしてやりたいものだ。

 隣にはマッチングアプリを開いてメッセージのやり取りをしている女の子がいる。ここに出会いたいおじさんがいるよ?と、ベロチューでもしようよと思うのだが、グッと堪える。鞄を抱いて、眠たくもないのに目を瞑り、音楽を爆音で流す。時々目を開けると、目の前の女子高生が長い脚を組んでいた。白くて長い脚。内側から舐め回したい。ゆっくりと上がってゆきたい。指をそわしたい。口に二本の指をいれて、舌を摘みながら「今日は何を食べたの?」と尋ねたい。


 なにを食べたかにそれほど興味はない。


 鼻息が荒くなってゆく。ブツがどんどんといきり立ってゆく。マスクをしていてよかった。だが、逆にマスクのせいで世の中の女性がみんな可愛く思えてきてしまっている。弊害である。いきりたったブツを誤魔化すために鞄で隠す。懐かしい。学生時代の頃もそうだった。プール終わりに濡れ髪のクラスの女子たちと「あつーい」とバタバタさせているシャツの隙間から見えたピンクのブラを見てしまったせいで、次の時間の国語が全く頭に入ってこなかった。とてもとてもブツがいきり立ってしまったのに、先生に出席番号順で当てられてしまったときはわざと膝の軟骨を緩めて、机の影を利用して、勃起を隠したものである。



 抗いきれない性欲という化け物を己の中に飼っている。「男が嫌い」というフェミニストの気持ちが痛いほどわかる。自分達でも自分達のことを気持ち悪いと思っている。だが、睾丸を摘出して、女性ホルモンを打ち込むほどの勇気はない。気持ち悪いとは思っているが、そこを正当化させようとしているフシもある。ネットの連中なんて特にそうだ。何度まとめサイトで吉岡里帆のグラビア写真を見たことか。あまりにも吉岡里帆を見てしまったせいで「吉岡里帆」という文字にすら興奮するようになった。吉岡里帆を見ると身体が反応してしまう。健康的な裸体、挑発的な顔、豊満な胸、ギリギリの水着、、、嗚呼あゝ女神である。神である。自分が絵描きなら恐ろしく繊細な絵で吉岡里帆を描けていただろうし、音楽をやっていたのなら吉岡里帆への愛を歌っていただろうし、兎にも角にも吉岡里帆という存在を、現代の日本のエロのシンボルともいえる彼女を、妄想の中で何度も何度も犯しながら、私は今日も生きているのである。


 酒を飲ませて同意のない性行為をおこなう大学生や、強姦事件を見るたびに悲惨な気持ちになるのだが、それと同時に不思議とある種の興奮を覚えてしまう自分もある。女性が身体を弄ばれて殺害される凄惨な事件ほど、現実味がなさすぎて興奮する。だが、もちろんそれを世間に発信したりはしないし、顔を見せたりもしない。「可哀想だ」「同じ男として軽蔑する」という一般論を並べながら「いやまぁ気持ちはわかるけど……やりすぎだよなぁ」とある種の共感じみた擁護の気持ちを持ちながら、軽蔑したフリをするのである。


 犯罪者の中には動物を殺害することで性的な興奮を覚える人種がいる。性的興奮と知的好奇心と衝動性と倫理の欠如が産んだ弊害だ。大半は発達障害や精神疾患を持っていたり、過去に虐待をされていたりしている。ごく普通の人間にも圧倒的な性欲を持て余している依存症気味なやつもいる。彼らが社会的に成功していて、容姿に恵まれていれば、なんら我慢することなく、Twitterの裏垢なんかを使って、好きに女の子を抱くことができるが、それを持ち合わせていない弱者男性の場合はキツい。ただただネットの隅っこで吉岡里帆を見つめながら自分を慰めるだけである。いつこの爆弾が爆発するかもわからない。性的興奮を抑える薬を飲んだりしたとしても、それはきっと役に立たないだろうし、立って欲しくないだろうし、飲みたくもない。治すものではないからだ。実際に被害が出ているわけではないのだから。人間も動物と同じであり、快楽に身を委ねてしまう。だからこそ、抗い続けるしかない。いつか加齢により、バイアグラを必要としてしまう枯れ果てた男になるまで、今はこの欲情を机の引き出しにしまっておく。時々、妄想という形で出力して、我慢をする。ストッパーを外してはいけない。それで失敗した人間がどれだけいるというのか。ガーシーが多くの人間の弱みを握っているのは、それだけアテンドを欲する欲に負けた男たちがいたからである。需要があるから成り立っている。


 己の中の対策として女性目線の作品や映画を見ることで「相手の気持ちを考える」という意識づけをつけようとしている。エロを現実だと捉えてしまうと、途端に世界は壊れてしまう。女性からしてみれば見ず知らずの男から向けられる性的な視線は恐怖でしかない。だが、その恐怖を我々は体験できずにいる。「え、でも女性だって嬉しいじゃないの?」と捉えてしまう。確かに見られることで性的興奮を覚えてしまうマゾヒストさを持っている人だっているし、かわいさや若さを売りにしている承認欲求さの肥大化を利用した動画がTikTokでは大きくバズったりしている。妄想を掻き立てることで男性の支持を集めようとしているケースもあるが、ある種危険と隣り合わせだ。男性の性欲の強さは度々事件になっているほど。というよりも、これを抑えることはできない。法律がどれだけ縛ろうともできない人間はできないのだ。人間はそこまで強くはない。麻薬にも似た快楽を覚えてしまい、一度ストッパーを外したら何度も感度も繰り返す。


 女性はエロい。抱きたい。触りたい。舐めたい。嗅ぎたい。動物的な本能と格闘しながら、どうにかそれを抑えて生きる。弱者男性にとってそれは麻薬をしたくて我慢しているシャブ中のようである。もちろんそこには「彼女を作る」という解決策があるが、ただ「彼女=性欲処理」というのも変だ。だから多くの人間は風俗に逃げる。風俗では身体を売りにした女性たちが自分達に優しくしてくれるのだから。だが、忘れてはいけない。彼女たちは仕事でやっている。我々は肉体的快楽を手に入れたいだけ。そこに精神的な安堵なんてない。愛は性欲の言い換えではあるが、本当の愛は風俗では手に入らない。酒に酔うだけ。我々が働いたお金が風俗嬢たちにいき、高い鞄などにお金を払って、そうやって経済は回ってゆく。


 なんのために働いているのかはわからない。

 筋トレをするのも、出世するのも、賢いと思われるために努力をするのも、全ては綺麗なお姉ちゃんと一夜を共にするためなのかもしれない。一人で生きるのが怖いから家庭を築く。もう自分と寝てくれなかった妻と子供のために働く。そんな刺激のない生活に一体なんの意味があるというのか。つまらない。退屈だ。毎日毎日同じことの繰り返し。サブスクやソシャゲーやギャンブルや酒に頼って日常を誤魔化そう。ああダメだ、まだ足りない。足りない足りない。満たされない。まだ欲している。女の身体を欲している。抱きたい、慰められたい、ご奉仕してほしい、調教されたい、自分のものにしたい、遊びたい、ハーレムを築きたい。


 私の欲は止まらない。

 内側にいる怪物は──妄想だけじゃ収まらない。


 わかっている。ダメなことはわかっている。だが、なんでもかんでもセクハラだと謳われている時代で、この閉塞感溢れる時代で、黙って働くだけが正義だなんてふざけるな。足りない足りない足りない。女が足りない。少子化だというのから終わらせてやりたい。おかしい、おかしい。なぜみんな恋愛をしないのだ?それなのに何故、不倫や浮気がこんなにも溢れているのだ? 内側にあるエロは、私の中にある本能が欲している。女を欲している。もう自分で自分を慰めるだけの生活は飽き飽きだ!頼む!どうにかしてくれ! 頼む、頼むから。私の前でエロさを出さないでくれ。これ以上、私を誘惑しないでくれ。壊れてしまうから。ストッパーが外れてしまうから……!!




「おはようございます!今日も朝早いですね笑 いつもお疲れ様です♪」




 可愛い駅員さんが挨拶をしてくれた。

 私はジーッと名札を見て、名前と顔写真をチェックして、無愛想に頭を下げて、改札を通ってゆく。




 よし、決めた。

 近日中にあの子を──犯そう。


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└→シリーズ完結作品【有害。(18禁注意)】

https://novel18.syosetu.com/n9354je/

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リアルマン。 首領・アリマジュタローネ @arimazyutaroune

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