レオン・ナイトレイの甘い誘惑(2)
夕陽を映し取ったレオンの瞳がきらりと揺れた。
「一目で惚れた……それが俺の事実」
——微笑む顔が可愛い。いや、あれは尊いと言ってもいいだろう。
すぐ転ぶ。頑張ってはいるが救いようのないドジだ。そういうのも全部、いちいち愛らしい。
レオンは穏やかに、くすりと微笑う。
ひどく緊張していたエリー・ロワイエはもう忘れてしまっただろう——この学園にやって来て、初めて笑った時のことを。
カチコチに固まった彼女の緊張をほどこうと、レオンが幻の蝶フレイアを出現させたことも。
レオンの心の内を知らぬエリアーナは当然ながらあからさまに拒絶する。
「やめて……。みんなにそんな冗談を言って揶揄っているのでしょう?! 私の反応を見て、面白がっているのでしょう……!」
レオンはきょとんと目を丸くした。
「そんな事をして何になる? 第一、時間の無駄だろう」
「あなたは自分に
——本気で言っている? 彼女は自分が可愛いって知らないのか? 眼鏡かけてても髪引っ詰めててもメチャクチャ可愛いってことに気付いてないのか……?!
息を吐き、レオンは小さく「わかった」と呟いた。
「わかってくれたのなら……私の眼鏡と髪留めを返してくれるわね?」
エリアーナはほっとして頬の緊張を緩める。だがレオンの胸の内はエリアーナの理解とは程遠い。
「……俺が本気だってことを、態度で示そうか?」
ぐい、と腰元を引き寄せられ、驚いて顔を上げれば——エリアーナの額にレオンの柔らかな唇がそっとふれたのだった。
「髪留めと眼鏡は、いつか……ちゃんと返すから」
*
アレクシスは怪訝に目を眇め、レオン・ナイトレイの姿絵を見返した。
ジルベール生徒会長の思惑通りに「(もともと無いのだから)探しても絶対に見つからぬ」本を諦めていなければ、レオンはまだ書庫室にいるはずだ。
学園長への挨拶を手短に済ませたあと、久々に訪れた母校の風情を懐かしみながら書庫室に向かう。
放課後の回廊は人気がまばらで閑散としていた。
エリアーナにすぐにでも事情を問いたかった。だが学園の校内はアレクシスが妻に詰問をする場ではない。
——話し合いは屋敷に戻ってからだ。
そう思った矢先。
回廊に差しかかれば、見覚えのある後ろ姿に遭遇する。
——エリー?
後頭部に小さくまとめ上げた灰紫色の髪、その隣を歩くのはエリアーナと一緒にいた赤毛の女生徒だ。
どうやら彼女らも書庫室に向かうようで——目的の場所が同じだとはいえ、気付かれないように距離を取りながら歩いた。
書庫室に入ると、赤髪の女生徒が二階に駆け上がって行く。残されたエリアーナは本棚に沿って歩き、何かを探しているように見えた。
——俺もレオンを探さねば。奴の顔を見ておきたい。
「……ン?」
そこに現れた一人の青年がエリアーナを追って本棚の影に消える。
不意に胸騒ぎを感じて、アレクシスも導かれるように後を追った。
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