電話
キヨハラ
01
トイレットペーパーをもう2ロール使いきったと、彼女は話した。僕はまだ2ロール目の半分ぐらいだった。
彼女との同棲を解消してから1カ月。最後の日の朝に「良き友人に戻りましょう」と言って、部屋のドアが彼女を隠してしまうところを見つめた。
好きになりそうな予感はずっとあった。好きだと確信に変えたきっかけを、誰に話したこともない。
なんでもくれる彼女だった。何かあるたびに、何もなくても、僕にお菓子をくれた。ジュースをくれた。消しゴムをくれた。ボールペンもくれた。「もうあげられるものがないから、私をもらって」と言った。考えさせてほしいと言ったのに、次の日には、僕は彼女のものだった。僕が彼女を好きだと言ったことになっていた。それでもいいかと思った。多分覚えていないだけで、言っちゃったんだろうな。
こんな夢を見た。2日かけてこの物語を、僕は夢で作り出していた。朝目が覚めた時の衝撃と興奮は、彼女に夢中になるのを助けた。
ふたりで街に出かけた。なんでも与えてくれる彼女は、クレープ屋さんで小さなチョコのクレープをごちそうしてくれた。ベンチで食べながら、次はどこへ行こうかと話した。言うまでもなく、デートだった。
これもまた夢だった。3夜かけて僕は彼女と恋人になる物語を見た。本能で彼女を好きだと思った。
ずっと僕が特別のような気でいた。彼女は人気者で、男女問わず友達が多いことも知っていた。けれど、毎日話しかけて、何かなくても来てくれるのは僕だけだと思っていた。だから、僕がいる場所で、僕に気が付かずに他の奴と話している彼女を、独り占めしたいと思った。これだけで、恋を確信する理由は十分だった。
風のうわさや、直接耳に入ることから、彼女もどうやら僕のことが好きなようだった。だけど、どうにかなりたいと思っていたわけじゃなかったし、積極的に恋人を作っていいような状況ではなかった。彼女が何も言わないのなら、そのままの関係で良いと思った。
12月24日、彼女は当たり前にそこにいた。いつものように話をして、クリスマスプレゼントだと言って、飴玉をくれた。彼女が何か僕に言うのなら、この日だと思っていたので、何もないことが、これからも何もないことを示すのだと思った。
12月25日、休みの日だった。メッセージが来ていた。「この後、〇〇に来て。」
僕は、わかったとだけ返事をした。何もないと思っていたので、びっくりした。期待しながら指定された場所へ向かうけれど、まったく別な用事かもしれないと、必死に言い聞かせた。
僕を見つけた彼女は、笑って「メリークリスマス」と言った。「メリークリスマス」と返した。少し沈黙が流れて、彼女は口を開いた。
「気づいてると思うんだけど、好きです。」
「…僕も、好きです。」
「その、君が大変な時期だとわかってるし、邪魔にはなりたくないから、すごく迷ったんだけど、付き合ってくれませんか。」
本当に、告白の言葉は「好きです、付き合ってください」なんだな、ということが一番最初の感想だった。僕は、一番に恋人を優先できないかもしれないと断りをいれて、彼女の告白を受け入れた。そのあと、どうすればいいかわからなくて、「どうしたらいいかわかんない」とそのまま言ったら、「ね。」と笑ってくれた。
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