異世界に迷い込んでしまった少年の冒険譚!
キャラクターの目的がはっきりしている一本道の構成で、道中の成長を楽しみながら読むことができます。
ヒロインとの出会いから旅立ち、様々なキャラクターとの交流はまさに王道と言えるでしょう。またシリアスとコメディのメリハリがついていて読んでいて楽しかったです。
異世界転移モノというと、別世界まで行く過程は割と簡素なイメージが多いですが、当作品は「どのように異世界へ来たのか?」という根本的な部分にもアンサーを出しており、かつ物語を語る上で重要なポイントにもなっています。
異世界へ来た主人公がどう考えて、そして真実を知った後、どう向き合い進むのか? 心情描写が丁寧な印象。特別強いわけではないというところもいいですね。
あらすじにもありますが、ハッピーエンドなのも個人的におすすめポイント!
笑いあり恋愛ありの異世界和風ファンタジー、ぜひご一読ください!
主人公にとって帰りたい場所とは?
異世界転移先で出会った、愛しき人と影響し合いながら成長していく物語。
【物語は】
主人公が転移先である女性に遭遇するところから始まる和風ファンタジー。
初めは言葉も通じなかった二人だが、主人公が彼女の家に世話になることになり段々と心を通わせるようになる。そして彼女の過去を知った時、主人公はある決断をするのであった。
【向け、層に関しての個人的な見解】
この物語は舞台は異世界。ラブコメ×戦闘ありの冒険譚。
ただどんな層に奨めるかとなると非常に断定し辛い。
この作品でのコメディ部分は『異性に恋愛感情を抱く男性向け性表現』と『匂わせの同性へ性表現』というものが多い。前者はフェチなども感じるが、後者は同性同士がイチャイチャするようなものではなく、『勘違い下ネタ』のようなもの。
なのでタグの『微H/微百合/微BL』というのは性表現の方向性を指し示しているのであり、一般的なそれらとは全く印象は異なると解釈している。
あくまでも主人公(男性)とヒロインが主役の物語なので、それらは一要素に過ぎない。なので『BLを含むのか』と二の足を踏んでいた方はこの期に読まれてみてはいかがでしょうか。
【主人公の魅力】
主人公の献慈は異世界に来た時、身一つ。ヘヴィメタルを愛する心は失ってはいないものの、それ以外の何かを所持しているわけではない。
なので転生先で敵に遭遇しても戦うすべを知らないのである。
これは現代の日本人ならほとんどの人に言えることだと思う。徴兵制度があるわけではないし、日常的に武器を持っているわけでもない。そして筋肉バキバキの人なんてそうそういない。
そんな彼の最大の魅力は優しさにあると思う。自分に自信がないからこそ、一歩引いて優しさで接する部分も多く見受けられる。その彼が、心身ともに成長していく様がこの物語魅力の一つでもある。
【ヒロインの魅力】
ヒロインの澪は初めは強くて美人という印象が強いが、旅に出る頃には『よく食べるなあ』という印象がプラスされる。
しかし彼女の運動量は半端なく、その場面では『アーティスティックスイミングはめちゃくちゃカロリーを消費する為、一日一万カロリーを接種する』という話を思い出させるほどだ。
そんな彼女の魅力は『勘違い』(ボケツッコミのボケにあたる)と主人公が危機にさらされると感情も行動も暴走するところにあると思う。
確かに情は深いのだけれど、他の者が危険に晒されていて(もしくは敵など)動くのと主人公に対しての守りたい気持ちから来る言動は違うように見える。
それは『彼を無事に元の世界へ帰すため』という責任とも違うように感じるのである。その理由については物語を読んでいくと明確になっていく。
【物語の魅力】
この物語は総合するとコミカルに描かれてはいるとは思う。しかし物語の【核】と感じる部分は非常に重く、心に訴えかけるものがある。
ヒロインは過去を乗り越えるために、主人公と巡礼の旅を始めるが目的はそれだけではなかった。この旅の中で二人は彼女の宿敵とも言える相手に再会もするし、主人公はこの世界の理を知ることにもなる。
異世界転移ものは異世界転生(元からその世界が存在する)や異世界召喚(存在する世界から呼ばれる)とは全く違うものだと感じている。
例えば召喚ものや転生ものであれば、その世界は初めから存在しているので、成り立ちなどを深く考えたりはしないと思う。召喚であれば、呼んだ人がいるから自分はそこへ移動したと考えられる。
しかし転移の場合『どうやってそこへ行ったのか?』とても気になる部分だと思うのである。
この理由については作中で明かされており、それを知ることにより主人公は自分がどうしたいのかはっきりと決めることが出来たのだと思われる。
他にも魅力の一つとして戦闘シーンがあげられると思う。
最初の戦闘シーンではかなりコミカルに描かれているが、宿敵と戦う場合などは笑ってはいられない本気勝負。
戦闘シーンでのコミカルとシリアスの変化は緊迫感も表現しており、シリアスになればなるほど生死に関わるほどこちらが押されているとも受け取れる。
余裕の相手と全力で向き合わなければならない相手とでは全く構成も表現も変わってくるということである。
この表現(場面を作る力)の幅の広さこそがこの作品の最大の魅力ではないだろうか?
この物語は二人が結ばれて終わりではない。(恋人になって終わるという意)いろんな問題にぶつかり、それをどうやって乗り越え、成長していくのか。この物語の結末をあなたもぜひその目で確かめてみてくだいね。
お奨めです。
(備考:第78話まで読了でのレビューです)
リアリティ抜群の情景描写と豊富な語彙から繰り出されたるは、現代日本とは何処かかけ離れた和風異世界でのヘヴィメタル劇場……!?
やや難解な表現が随所に見受けられながらも、それがかえって古風な和の雰囲気を醸し出すアクセントとなっていて、ほとんど咀嚼する時間を要することなく、いとも簡単に感情移入することができる作品です。地の文と会話文のバランスも良く、物書きとして、是非とも参考にしたい文章だと感じました。
何故だろう、数年前に読んだ畠○恵先生の『しゃ○け』シリーズを思い出しました。
ヒロインの守部に名乗り出た主人公のヘヴィメタル愛と特殊能力の片鱗が、今後どのように物語の展開と関わっていくのか、注目していきたいと思います!