第49話 親愛なる献慈へ
四人が集う夕食の席はちょっとしたお誕生会の様相を呈していた。
「うん。美味しい」
「よかったぁ。最近お料理する機会なかったから、ちょっと不安だったの」
そう言って、
ライナーとカミーユも慣れた手つきで箸を運んでいる。
「いやはや、ミオさんは剣だけでなく料理の腕まで達者とは」
「ホント。あたしぶきっちょだから尊敬しちゃうよ~。誰かから教わったりしたの? お母さんとか」
澪は苦笑交じりに答える。
「ううん、村でお風呂屋さんやってるお姉さん。うちのお母さん大雑把だし、たまに作ってくれるごはんも何ていうか、
「面白そうな人たちだね。ミオ姉のお母さん、会ってみたかったな~」
「カミーユとは気が合いそう。生きてたら紹介したかったんだけど、ごめんね」
「……ん。あたしこそ」
カミーユは気まずそうに、隣で黙々と箸を進めるライナーの方へ視線を泳がす。
「さて、私の話はこれぐらいにして……今日は献慈が主役なんだし、ね?」
澪の一言で場の空気は和やかさを取り戻す。カミーユのテンションも元どおりだ。
「ってかケンジ、何気にあたしの一コ上かー。これからは『お兄ちゃん』って呼んであげよっか? それとも『お兄』? 『にぃに』のほうがいい?」
「気色悪ッ!」
「ンだとコラァ! せっかくこの超絶美少女妹キャラが出来損ない兄貴の誕生日を祝福してやろうってのによぉ!」
「自分で妹キャラ言っちゃってるし……まぁ、気持ちは有り難く受け取っとくよ」
「あっそ。やっぱケンジは妹よりもお姉ちゃんに祝ってほしいってさ」
カミーユの目配せに澪が反応する。
「茶化さないでよ、もう……はい。献慈にあげる」
「あ、ありがとう」
千代紙で折られた小さな袋から、献慈はプレゼントをそっと取り出した。音叉型のトップをあしらった、いかにも手作り風なペンダントであった。
「前に街で見かけて……献慈、音楽好きだから」
「そっか。これは……組紐?」
「
「いや、嬉しいよ。大事にする」
そう言って袋へ戻そうとした飾りをカミーユが横からかっさらい、問答無用と献慈の首に装着した。
「ドォ? 似合ウカナァ?」
「俺そんな声してる!?」
「似合ってるよ。ね? ライナー」
「そうですね。とても……お似合いです」
献慈と澪を交互に見つつ、ライナーは目を細めていた。
「さぁて、ウチらもケンジに一曲贈るとすっか」
「ええ」
楽器をかき鳴らすライナーに合わせて、カミーユが歌い出す。
「♪~
献慈、そして澪も拍手で応える。
「素敵な曲をありがとうございます」
「あぁ、この曲は西洋で誕生日を祝う一般的な歌ですよ」
「なるほど、ハッピーバースデートゥーユーみたいな……あ! えっと、ハッピーバースデーというのは俺の故郷の風習で……」
献慈は取り繕いながら、同時にそれがあまり意味のない行為であると察してもいた。
澪の言葉が一押しとなる。
「もう隠さなくてもいいんじゃない?」
「そう……だね。二人とも聞いてください。実は俺、ユードナシアから流れ着いたマレビトなんです」
「へぇー」「やはりそうでしたか」
「今まで話すタイミングがなくて、遅れ……――えっ?」
献慈の告白は平然と受け入れられた。
「仮にも吟遊詩人ですからね。訛りを聞けばどことなくは察せます」
「シルフィードも言ってたし。ケンジの霊体がヘンテコな形してるって」
(それはどうなんだ……)
「お気遣いは無用ですよ。そもそも僕たち烈士は流れ者の集まりなのですから」
ライナーたちの見識と度量を見誤っていた。献慈は己を恥じるとともに彼らへの信頼を新たにする。
「いえ、逆に気を遣わせてしまったみたいで申し訳ないです」
「ケンジ君の不安はもっともです。僕たちにできることは多くはありませんが、話し相手ぐらいならいくらでもなりますよ。例えば……そう、音楽の話ですとか」
「音楽――といえば! まずはメタルについて語らなければいけませんね!」
献慈は考えるよりも早く、自分のギターを引っ張り出していた。
「おぉ、たしかケンジ君が好きだと言っていた……」
「よくぞ憶えていてくれました! ヘヴィメタル――その名はすなわち破壊と創造、アンビバレントな感情のほとばしりを等しく内包した深遠なる大宇宙の産声にして断末魔ッ!!」
「それは実に興味深い! ぜひともご教示を願いたく!」
にわかに熱狂する男たちを、女たちは冷ややかに見つめていた。
「もう……明日早いんだから程々にね?」
「さっき散々言っといたし。放っといて寝よ寝よ」
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