老人と女性
渋田ホタル
老人と女性
どこにでもある普通の一軒家。家は築年数を重ねていることがわかる。そしてこの家は、住んできた人に大切にされてきたことわかる風格をしている。そんな家の一室で、十畳ほどの和室。
その部屋には電動ベッドが置かれ、そこには年老いた男性が静かに体を横たえている。そしてベッドサイドには、青い髪をした女性が椅子に座っている。
その女性は老人と話している。祖父と孫娘の微笑ましいやりとりのように見える
「今までありがとう」
男性が話を区切り、優しい目をして女性に言った。
「こちらこそありがとう」
ふたりは、とても優しい雰囲気で包まれていた。
「僕は君と出会ったとき、本物の天使に出会ったと思ってドキドキしたんだ」
「その話、何回目?」
男性から何度も聞かされ、うんざりしている彼女であったが、その表情はとても穏やかで、それでいて嬉しそうにしていた。
「怖い?それとも寂しい?」
心配そうにしている彼女からの問いかけに、男性は少し驚いたような表情をした。
「そんな風に見えるか?」
男性の問いかけに、女性は小さく首を振る
「ただ心配になっただけよ。どうすることもできないけど、話を聞くことはできるわ」
その答えを聞いた男性は、安堵を感じて表情を緩めた。
「何にもないよ。ただ、天国っていうのはどんなもんかなと思うけどね」
「これといって特別なことはないわよ。でも自然が豊かだし、おすすめの川があるの。昔、神様に連れられて行ったことあるけど、私いっぱい釣ったの。ちなみに、神様は一匹も釣れなくて拗ねちゃって大変だったのよ」
「そんなことがあったのか。そんな神様だと親しみやすいな」
「そうよ、神様も他の天使たちもとても優しいよ」
そんな風に穏やかで楽しそうな時間をすごしているふたり。時間がゆっくりと経過していく。その時間が過ぎていくほど、男性の返事に間ができはじめた。
「向こうに行ったら、案内の天使がいるからね。その指示に従えば、迷うことはないわ」
「…………あぁ」
だんだんと男性の返事が、ハッキリとした言葉にならなくなってきた。その様子を感じ取った女性は、片手で優しく手を握り、もう片方の手で男性の頭を優しくなでた。
「行ってらっしゃい。また、向こうで会おうね」
女性は声を震わせて、目を涙でいっぱいにして言った。
男性は女性の言葉を聞いていたのだろうか。男性は大きく深く、息をゆっくりと静かに吸った。そして、男性が静かになった。
それを見守った青い髪の女性は、静かに泣いた。そして、いつの間にか女性も家から消えた。
家は静寂に包まれた。
老人と女性 渋田ホタル @piroshikifu-wax
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