空っぽ人間は青春しない
さとうまんず
第1章 そしてまた感じるこの感情
ワイワイガヤガヤという教室の雰囲気の中俺は思考する。
よく「自分の人生は自分が主人公だ」という人がいる。それは正しいのだろうか?これは俺の見解だが、主人公とは1日1時間1分1秒輝き続けている人のことを言うと思う。ただ主人公というのは単なる視点であってそれ以上のものではない。というのが俺の意見だ。
まあ、正直これを言う俺はその主人公の取り巻きという立ち位置で高校生活を送っているわけだが、それはかなり不自由なく生活している。陽キャ、リア充と言ったグループに所属しているだけで過度なイジリ(嫌がらせ)も受けることはないし、かと言って楽しくないわけでもない。いい高校生活だ。俺はこのまま後2年この立ち位置を楽しみ中途半端に流されていくのだろうなと考える。だが俺はこれで十分だ。
では青春という言葉であればそれはどうなるのだろうか。3年間恋愛という男子と女子が成長しきらない心を時にはその喜びに跳ねらせ、時にはとてつもなく傷つき成長していくもの、ラノベや漫画、アニメを見ながら友達と語り合い時には名作と出会い一生忘れられない思い出を作るもの、部活動で汗を流し、毎日毎日自分を追い込み、大人になった後でも思い出すもの、そして最後に何も残らない空っぽなもの。
もちろん俺は後者であろう。一度諦めた主人公という名の役には向いていない。俺は生まれた時から主人公を引き立たせる脇役だ。常に周りを見渡し主人公にはできない汚い役回りでもする男だ。
だが、俺はそれを変えたいだとか自分も青春したいとかそんなことは思っていない。今の俺の目標は諦観するものとしてこいつらの青春を目に焼き付けることぐらいだろうか。
青春という言葉の定義は曖昧だ。
・・・・・・・・・
冬が明け満開の桜が咲き誇っている。俺たちは2年になり、一週間が過ぎていた。俺たちの通う高校は県内でも有数の進学校で東大や京大などに進学する生徒も多くいる。部活動もそれなりに力を入れているからサッカー部や野球部は毎年ベスト8とからしい。スポーツから離れてからはあまり興味がない。そう考えていると主役が登場する。
この学年で主人公している大石海斗が生徒会の仕事を終え朝の朝礼5分前に教室に戻ってくる。カイ(海斗)はそれはイケメンで運動神経も良くて性格も真っ直ぐで俺とはほぼ真反対に位置するであろう人柄だ。中学では野球でバッテリー組んでた。県でも有名な投手だったが怪我やその他諸々の理由で高校ではやっていない。そのため理由を知らない野球部員たちが一年の時毎月のように勧誘に来てた。ちなみにイケメンは好かんがこいつは許す。
「みんなおはよう」
「おっはー海斗!」
海斗の挨拶に最初に返事を返すのは夏目瞳。クラス内外を問わず男子と女子両方から人気がある女子力高めでさらに性格までいい根っからの青春組だ。彼女はその誰にでも分け隔てないその姿から多くのものに愛称で呼ばれている。呼ばれ方はメメ。ただ単に名前の漢字にある目が二つあるからメメらしい。ちなみに俺は苗字呼びだ。
「おはよう大石」
次に挨拶をしてきたのは佐野緋紗子。スタイルで言うとボンキュッボン。性格で言うとお母さんと言ったところだろうか。みんなは「緋紗子」とか「ひさ」とか呼んでいるが俺は苗字で呼んでいる。
「ナツもおはよう。今日は遅刻しなかったんだな」
「おう。まあな」
そして今話しかけられたのはこの俺、白洲司。カイ(海斗)とは幼馴染であるために物心がついた時から俺はナツと呼ばれ、俺はカイと呼んでいた。なぜ俺は名前と全く関係のないナツというあだ名になったのかはわからないがな。
それとなぜ今日は遅刻しなかったんだなと言われたのかというと、俺は毎日カイに起こしてもらっているからであった。家が近所の俺たちは小中高と同じ学校に通い一緒に登校してきた。今日のようなカイが生徒会などで先に学校にいく日の半分近く俺は遅刻する。というのも両親ともども高一に上がった頃、共働きであったため二人とも単身赴任でどこかへ行った。行き先は国内なのか国外なのかもわからない。(反抗期だったからとは言えない)毎月の仕送りやたまにカイの家で夕食を頂いたりして暮らしている。
「おはざーす!いやぁまじ朝練きちいわぁ」
「おはよー。てかそれはあんたがもう一本言うて20本もやるからやろがい!」
べしっと。佐京詩が滝塚孝太郎の背中を叩く。
ワハハッと俺たちは盛り上がる。
まず佐京詩。彼女はサッカー部のマネージャーで小麦色に日焼けをした可愛い女の子と言った印象だろうか。まあ誰か気づいているかは分からんが孝太郎に好意を寄せている。俺は側から見ている人間なので他の人よりか人間を見る観察力はある。(他人に限る)ちなみに苗字呼びだ。
そして今背中を叩かれ少し涙目になっているこいつは滝塚孝太郎。2年でサッカー部の主力メンバーで熱血系。真面目だがバカなのが残念。この高校自体偏差値は県内でも高めだと思うのだがこいつはバカだ。そしてバカでもイケメンは好かん。
最初からいた佐野さんと今来た佐京さんは2年になってからクラスメートになった。というのもうちの高校はベタな話だが2年に上がると文理の選択をしなければならない。このクラスは文系コース。その中でも平均評定の高い生徒が多い(孝太郎を除く)人で構成されたクラスだった。なんでもいい成績のものを固めるのは悪いものに引っ張られないようにするためだという。孝太郎は学業は少し残念でも部活での評価が高いのだからと考える。
そしてまたワイワイガヤガヤとメンバーが集まったことでみんな話し出す。まあその2、3分後に朝礼が始まるのだが。
ガランッと教室のドアが開けられる。
入ってきたのは、先生ともう一人謎の女の子がいた。
その女の子は、どこか東洋の貴族を思わせる容姿を持ち合わせ、その瞳の中には少しの不安と大きな興味が写っているような印象を受けた。
まあ、転校生だろう。こんな学年が一つ上がって一週間という短い時間しかたっていないのにどうせなら始業式と同時に転校してこいよと思うがまあどうでもいい。一週間と言えど、一度できたグループにまた新しく入るというのは少し難しいとも思う。なので少し可哀想に思った。
「えー、なんだ、転校生来たからみんな仲良くしてやってくれ」
「・・・」
「「それだけかよ!」」
ツッコミを入れるのはカイと俺。
驚いたか。俺は一様陽キャグループで生きていくためにキャラというものを作っているのだ。
「はぁ?こっちはつかれてんだぞぉぉう」
俺たちの担任である向井先生(みんなからはムカちゃんと言われている)はなしながら欠伸をした。ちなみに俺はしっかりと向井先生と呼んでいる。
どうせまた一人でビール飲んで夜中まで騒いでたんだろうな。
向井先生は酒豪としてかなり有名であった。その飲みっぷりからテレビに出たこともあるとかないとか。
「まあ、とりあえず自己紹介してもらおうか」
「はい」
その金髪で美しい中世的な顔立ちをしたその子は一歩前に出る。
「本田・シェアリー・美奈で〜す!日本に帰ってくるのは4年ぶりだけど分からないことがあったらどんどん聞くね。えっと、今16歳で誕生日が10月の4日で、あとは」
「はい。そこまで〜。本田さんそれは個人情報出しすぎかな〜て先生思うよ」
ウぉぉ。男子が吠える。それはインキャ陽キャ関わらずだ。
はい。合格。
これだけ初対面の大勢の中、しかも四年ぶりで日本語ペラペラ。それに天然っぽいなこの子。俺のさっきまでの感情を返して欲しい。すぐにカイとか夏目さんとかと仲良くなりそうだな。
少し気になったのはほとんどの男子が雄叫びをあげる中、俺の斜め前の男子生徒だけ本気で顔を赤らめていたことだ。それはやめておいた方がいい。生まれてから俺は傍観者がお似合いだと思い始めてから人を見てきたが高い理想に飛びつくのは哀れだぞ。
「ん〜じゃあ俺に文句言ってきた白洲と大石がこの子に学校のこと教えてあげて」
「せんせーい。僕放課後も生徒会ありまーす」
ニコッと俺の方を見てカイは笑う。
こいつ逃げやがったな。俺が初対面の女子ほど嫌いなものはないと知ってやってるぞ。
「せんせい。俺も今日、遅刻し忘れたんで寝足りませーん」
「その言い訳はキツいだろw」
カイが言う。
他からもクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「そうか、そりゃ残念だな〜。ってなるか」
「ですよね〜」
「じゃあ本田さんは山田の隣空いてるからそこ座って放課後とか移動教室とかはあの後ろにいる髪の毛ボサボサのやつに聞いて頼むわ」
いや、今日は結構ちゃんと髪の毛セットしてると思いますけど。
これで朝礼は終わりますと向井先生は教室を出て行こうとしたが出る前に止まって再度忠告してきた。
「白洲もし放課後逃げたらわかってるな?」
おいおい。今のご時世でその発言はよろしいのですか先生。まあこれ以上逃げても仕方ない。カイもどうせ生徒会だしちょうどいいか。
えっと、一時間目は国語で、2時間目が数学、三時間目が体育、四時間目が情報処理か・・・体育の後にパソコン教室はきついな。流石に俺じゃ時間的に案内しきれないから佐野さんに頼んどくか。
この時いつもより盛り上がりの声が小さかった。普段ならばこう言った特別なことがあるとこの声量の3倍ぐらいの声が学校中に響き渡るのだが後ろでいびきをかいている孝太郎をみて俺は納得した。
・・・・・・・・
とりあえず案内役になったんだし挨拶しとくか。
俺は挨拶をすべく本田さんの席へ行こうと立ち上がるが、本田さんは隣の山田くんにあれこれ聞いている。大変な役回りだな隣の席も。
俺は挨拶を諦めとりあえず佐野さんに今日の3限と4限の移動教室を頼むに行った。
「あの、佐野さん」
「ん、どうしたの?」
「今日3限体育あって4限も情報処理の授業で移動だからさ転校生の子の案内とかお願いできるかな。その時間的に男子にはきついかなと思って」
体育の男女の着替え場所は男子は体育館の2階のギャラリー、女子は女子用の部室等となっている。部室等と体育館はほとんど真反対に位置しているのでさすがに少しの休憩時間じゃパソコン室への案内はできない。
ちなみに情報処理という授業は、これからのIT化に伴い一通りのパソコンの使い方は知っておく必要があると言われたらしく前年度から始まった授業らしい。
「あー、そっか。おっけわかったちゃんと案内とかしとくよ。」
「ありがとう」
「こっちこそありがと。仲良くなるきっかけくれて」
そういうと佐野さんはちょうど山田くんと本田さんの会話が途切れたタイミングで挨拶しに行った。
なんてタイミングがいいんだ。
・・・・・・・・
結局俺は本田さんと話すこともないまま4限が終わり昼食の時間となった。俺たちはいつも通り学食へ向かう。だが今日はメンバーにもう一人加わっていた。
「改めて本田・シェアリー・美奈でーす。呼び方はなんでもいいよ。ひーちゃんとはすごく仲良くなったからみんなとも早く仲良くなりたーい」
「こっちこそよろしく。シェアリーって呼ぶよ。俺は大石海斗。俺も呼び方はなんでもいいかな」
「じゃあ、かーくんて呼ぶね」
「おけい。よろしく」
そしてハグする。あーこれが海外のスキンシップというやつですかい。ほうほう。俺は絶対騙されねーかんな。
「おう。じゃあ次俺な俺は孝太郎。気安く孝太郎って言うてくれ!」
お前に関しては声がでけぇ。さっきの時間爆睡してただろうが。
「わかったー孝太郎よろしく〜」
おー!またいったー。孝太郎それは佐京さんに殺されるぞー。
「ちょっとながい!」
ばしーんとまた孝太郎の背中に一撃が入る。まあどんまい。
そして次は・・・
みんなの視線がこちらに向く。あーそっか!女子は体育も一緒だったし移動も一緒だったからもう自己紹介終わってるわけね。
「あー。俺は白洲司。まあ一様カイのせいで放課後の案内役任されてるからよろしく。本田さん」
「よろしくエンドおねがいねー」
よし心の準備はできてる。どんとこい。俺はどんだけ髪の毛いい匂いしようが屈しないぞ。
「あー!学食きたかったのー」
そのまま本田さんは学食へ走り出す。
・・・
俺の右肩がポンポンと叩かれる。
「まあ、あんまり気にすんなよナツ」
ニコッとまたバカにしてくる。
『ちっ違うから!俺別に期待してたとかじゃないから!ほんとそういうのじゃないからー!』とラブコメで内心ではして欲しかったけどされなかったことを必死で誤魔化す負けヒロイン的発言をしてしまうところだった。危ない危ない。
なにが危なっかったんだろう?
その後、もう俺たち専用になっているテーブルに座る。なぜか2年の最初の学食の日に俺たちが使ってから常に空いているらしい。本当に脇役の俺としては申し訳なく思う。ありがとう。
今日のメニューは、Aセットがとんかつ定食、Bセットがカツ丼と非常にシンプルなトンカツデーであった。たまにある〇〇デー。これは学食のおばちゃんがたまに量を間違えて発注した時に起こる怪奇現象だ。去年も1度起こった。去年の場合はカレーだったから、二週間ぐらいBセットカレーが固定だった。まあそれなりに人気だったけど。特に孝太郎は二週間全部Bセットだったな。
ちなみに俺、佐野さん佐京さんはトンカツ定食。カイ、孝太郎、本田さん、夏目さんはカツ丼を頼んだ。孝太郎はカツ丼2個頼んでる。これは通常運転だ。普通に考えてトンカツ定食の方が多いんじゃないかと思う人もいるだろうがそれは違う。トンカツ定食はみそ汁や野菜もついてくるがご飯の大盛りができない。それに比べてカツ丼はご飯大盛り無料で卵もとろっとろで普通にうまい。まあ栄養面で考えると俺はトンカツ定食を取るけど。
「「いただきまーす!」」
1番に席についてから昼食にかぶりついたのは本田さんと孝太郎。
「んーおいしい〜」
満面の笑みでカツをもぐもぐしてる。流石に俺でもちょっとキュンてなった。
俺は一瞬で隣にカイがいることを思い出し、通常モードに戻る。あいつは俺の変化に鋭いから気をつける必要がある。さっきのハグの時みたいに。
「やっぱり昼は学食が一番だよね〜」
「いやまじそれな」
「なんかもう一個いける気がするわ〜」
「それメメ毎日言ってるじゃん」
「そうだっけ?でもそんぐらい美味しいよね〜」
やはり夏目さんは一人仲間が増えようが自分を曲げない性格なんだなと改めて思う。普通という言い方はアレだけど、普通の人ならば転校初日の特に学食なんかは転校生の本田さんにみんな質問責めとかするんだけど夏目さんがいるだけでいつも通りの空気になる。もちろん悪いことじゃなくて普通の人間なら自分だけ質問攻めされたりすると会ったばかりだと少なからず嫌悪感を抱いたりする人もいると思うから夏目さんのような存在がいれば空気が悪くならない。まあ本田さんなら逆にもっと質問してきてよ的なアンサー帰ってくるかもしれないけど。
「5限ってなんだっけ?」
そうもう食い終わってる!?孝太郎が聞く。お前2個頼んでたよね?
「5限は芸術じゃない?」
「ああ、選択か」
佐京さんもカイもそろそろ食べ終わってきている。本田さんと夏目さんのさっきまでのスピードは何処へと思うほどに二人は食べるのが遅い。
芸術教科は美術と音楽で選択することができる。俺は美術。
「シェアリーはどっち取ってる?」
「え〜っと・・・あ!美術美術!わたし絵ー描くの得意なんだ!」
本田さんのテンションが少し上がる。
ここ別に美術の学校じゃないんだけどななんて思うがそういえば一つ上の学年に賞取ってる人いたような・・・
「ほんとー?めっちゃシェアリーの絵たのしみ!」
音楽組は孝太郎、佐京さん夏目さん。
美術組がカイ、佐野さん、本田さん、俺。
芸術選択は入学前に決めているためこのメンバーはいつもバラバラになる。
「じゃあ本田さん。昼休憩13時10分までだから急いでね」
俺が少し急かした。でも今は12時55分。トイレなどの時間を考えるとそろそろ食べ終わって欲しい。ちなみにいつも通り佐京さんが夏目さんの分の半分食べてあげてる。すると本田さんが、
「もう食べれなーい。お腹いっぱーい。ツカサくん食べて?」
上目遣いで俺を見ないでくれ。その角度のそのあざといまでの瞳を輝かせるその姿は天使を彷彿とさせるようなものだった。
負けるな俺。気づけば右腕がピクピクとその美少女のプルリンとした唇に先ほどまでついていたスプーンに手を付ける。ちらっと横を見ると俺の葛藤を見ていた黒い組織が・・・
「すすみません」
というかなぜカイと孝太郎俺に内緒でひそひそとトイレ行ってやがる。
・・・・・・・・
あの後本田さんの残りは佐野さんが全部食べた。・・・残念なんてオモッテナイヨ?
結局ギリギリになったので佐野さんからかなり怒られていた。
今日会ったばっかりの女子に怒られたせいで本田さんは半泣きになっていたけどそれはまた別の話だ。簡単にいうと佐野さんが聖母に見えた。
俺たちは5限の美術の授業を受けていた。
美術の授業は特に厳しくやると言ったガチガチなものではなくみんなに美術の魅力を知ってもらおうというのがこの授業の目標らしい。
なので席順は特に決まっておらず、俺たちはいつも通りの席に座る。
別に雑談をしたりしていても基本は怒られないし、ここは聞いておくようにと言われた時だけ静かにしておけば大丈夫という自由な授業だ。
「はーい。じゃあクロッキー始めますよー」
「せんせーい。今日はナツ、じゃなくて白洲くんがモデルでいいと思いまーす」
「そうね。じゃあ白洲くんお願いするわー」
「先生。僕この前の授業でもやった気がするんですが」
「え?そうだっけ。まあでも白洲くんは絵が得意だからクロッキーする必要もないでしょー」
適当だなおい。まあ俺は趣味である漫画やラノベなどを見ていくうちにたまに趣味で絵を書いてみたりすることがあるからそれなりにちょっとうまい程度にはできるけど。
美術はクロッキーという鉛筆だけでモデルを描くことを毎時間始まりの挨拶と同時にする。大体は先生の指名とかだけどたまに俺が二週連続で選ばれる。あんまり目立つのが得意じゃない俺に取っては嫌な役目だ。
その後7、8分のクロッキーを終え先生が採点をして回る。評価は三段階で普通の丸、二重丸、花丸というふうに先生が評価をつけていく。まあ大体の生徒はこの一年で二重丸もらう程度にはなっているから、メガネ忘れたとかコンタクト落としたとか起こらない限り普通の丸になる生徒はいない。
「うそ!?すごい!」
先生が大きな声でそういうと生徒たちの視線がそちらに向いた。
「本田さん!絵めちゃくちゃ上手ですねー」
「先生ありがとうございます。わたし絵書くの得意なんだー」
「でもこれ本気でじっくり書けば賞とか取れるレベルですよ〜」
「本当?俺にも見せてよ」
「いいよ。みんなに見せる」となぜか俺がモデルのクロッキーが本田さんから順番に回されていく。
『やめて!あんまりジロジロ見ないで』なんて俺は決していう男ではない。
「めちゃくちゃうまいじゃんシェアリー。」と佐野さんは本田さんの頭をなでなでしてる。
「うぁ!めっちゃうまいじゃん!でもこれちょっと美化しすぎじゃない?」
「おいこらカイ、誰がブサイクじゃオラ」
「え?なんか違ったりする?w」
クスッと少し周りから笑われる。
まあこれが俺の役回りだから仕方ないけど。
「っていうか俺にも見せてくれよ」
笑いが収まった後俺は自分の描かれた本田さんのクロッキー帳を見せてもらった。
「うま」
ついつい言葉が出てしまうほどの美しさ。滑らかな背中の曲線やしっかりと足まで描かれた細かい絵。クロッキーってこんな絵だったっけ?いや違う。クロッキーというのはババっと輪郭やそれらを正しく把握できているかの確認のようなものだと俺は思っている。まあ空間把握能力を鍛えているという言い方もできる。例えるなら、ファッションデザイナーの下書きみたいな絵をモデルを見て描いているみたいな感じだと思う。(俺の意見)
「まあ、でも確かに俺はこんなイケメンじゃないかもな〜」
「それは確かにそうかもー」
本田さんは俺の顔を覗き込みながら真剣な顔をしている。
おい。本田さんそれはジョークというものであってですね・・・
「シェアリー、そのくらいにしといてあげてナツが結構落ち込んでる」
「ん?」
本田さんにはまだ自虐ネタは難しいらしい。
・・・・・・・
美術の授業はあの後も本田さんの無双が止まらなかった。これまで必死に絵を描いてきた美術部の生徒や先生まで感動して涙を流すような超大作を描いたらしいけど美術の例えばモナリザの絵のよさが一般の高校生ではいまいちピンと来ないように普通に綺麗な絵だなという感情しか起きなかった。
そして時は放課後、俺と本田さん以外のみんなはそれぞれ部活や生徒会の仕事に向かい俺は本田さんと二人になった。
佐野さんは家庭科部、夏目さんは女子のバレー部に所属している。佐野さんはめちゃくちゃしっくりくる。夏目さんはバレーになると目の色が変わるらしい。カイはたまに練習試合とか見に行ったりしているらしいが俺は家でグータラしてるからその辺はよく知らない。
「とりあえず本田さん。興味ある部活とかある」
まあ放課後に学校回るって言ったら興味ある部活とかそういうのを見てまわったりあとは屋上とか立ち入り禁止だよとか教えるだけでいいだろう。昨日読んだラノベ『転生勇者は砕けない』の続きが気になって放課後読もうとしてたからできるだけ早く終わらせたい。
「ん〜・・・みんなの部活見てまわりたい!」
「えっ?あーおっけー。美術部とかあるけど行く?」
「時間があまればでいいよ」
あ、そんなに美術に思い入れはないんだ。なんか天才みたいだな。
天才とは自分のやりたいことに素直に飛び込む。たとえすごい才能があったとしても飽きたらやめるし、気づけばまた新しい才能を開花している。俺にはわからない世界だ。
「了解。じゃあ佐野さんの部活から覗いてみるか」
「うん」
俺たちは家庭科部のある家庭科室に向かった。
・・・・・・・・・
「ひさ〜。あいにきたよ〜」
「ちょっとはやいな。さっきまで一緒だったのに」
そう、まだ放課後になってから十分もたっていないぐらいじゃないか。それはそうと今日初めて会った女子を手懐けている佐野さんはとてもすごいと思う。普通ここまで1日で甘えることもできないのにできている本田さんも十分不思議だけど。
「そういえば白洲。なんか孝太郎もサッカー部見にきてくれーって言ってたよ」
「まじ?流石に男子サッカー部に行く必要ないだろ」
「なんか「女子が見にきてくれると俺のプレーは2倍上手くなる!キリッ」とか言ってたけど」
「おいおい、それはさきょ・・・・」
「ん?なんて」
「いやなんでもない」
危ない。こいつらが気づいていない秘密を暴露するところだった。でも実際に今言われた『女子が見にきてくれると・・・』を佐京さんにちくるとあいつこう言われそうだな。『私は女じゃないってことかこのばかよろう!』とゲンコツ喰らうのが目に見えてる。まあそれもありだし行ってみよっ♪
そんなことを考えていると佐野さんはやってみる?と本田さんに聞き、ミシンで何か作っていた。
じゃあ俺はあの辺で座っとくか。
俺は家庭科室の奥の方にあった椅子に座りこんなこともあろうかと透明じゃないブックカバーをつけて持ってきていた『転生勇者は砕けない2』を読むことにした。
まああんまり美少女たちのキャッキャウフフの会話のせいで大したほど読むことができなかったのだが。
その後30分ぐらいミシンとか裁縫を使っていた本田さんがこっちにきた。
「みてみて!これ可愛いでしょー」
そう言い、バッと差し出された物はフランケンシュタインのようにいろいろなところが縫いまくられた正直言ってこれぽっちも可愛くない蝶々の小さなぬいぐるみだった。
「これ30分でつくったの?すげーじゃん」
「でしょ!でかわいい?」
おい。なぜそこだけ聞いてくる。
「ん〜まあ見方によっては可愛く見えるよ」
「やっぱりー!」
そう言い佐野さんの方へ戻っていく。多分その会話は『司くんも可愛いって言ってくれたよ』と本田さんが言い、『うそー!?絶対おかしいよこれ』と佐野さんが言っているはずだ。
すると次は本田さんが佐野さんに頭を下げて二人とも俺の方を向く。
「司くん次の部活行こー」
「あ、ああ今行くよ」
俺は読んでいた『転生勇者は砕けない2』に購入特典でついてきたしおりを挟み直す。まあ、キャッキャウフフが気になって20ページしか読めてないけど。
そして家庭科室を後にする前に止められる。
「白洲」
「ん?」
俺は振り返る。
「あの子危なっかしいから体育会系の部活の時は目を話さないであげてね」
「おっけい。わかった。しっかり見とくよ。それと部活頑張って」
さすが俺の中のあだ名聖母だ。しっかりと子供のような無邪気な本田さんを心配している。さすがだと感心してみる。
次に向かったのはバレー部が使っている体育館だ。
・・・・・・・・・
俺と本田さんは体育館のギャラリー(2階の応援席)に腰掛けた。
下ではバレー部がスパイクの練習をしている。
そこでやはり一人だけ圧倒的に動きの違う選手がいた。夏目さんだ。身長はバレーをする上ではお世辞にも高いとはいえないごく一般の女子高生の平均ぐらい(平均は自分の感覚)だが、スパイクを打つたびに驚かされる。
「す、すごい」
隣の彼女も夏目さんがスパイクを打つたびに感嘆の声を漏らしていた。
そう、夏目さんは跳躍の高さが桁違いだった。夏目さんよりも10センチほど高い選手がいるがその選手より高い打点で打っている。さらにブロッカーの子の腕を吹っ飛ばすほどのパワーもある。
元スポーツ経験者から見れば明らかに狙ってサイドギリギリにスパイクを打っているように見えた。正確なそのスパイクを受ける選手たちはもうボロボロだ。
すると隣でまたもや不穏な声が聞こえてくる。
「・・・たい」
「ん?なんか言った本田さん?」
「私もあれやりたい!」
あれ?今俺の聞き間違いじゃないよな?流石に練習に入るとか言わないよな?
「私もあれやりたい!」
だめだこりゃ。
「あ、危ないけど大丈夫かな〜」なんて言ってみる。
「うん!私こう見えても頑丈なんだ」
「本当に?本当にだいじょうぶ?」
「うん!早く下に降りよー」
うん。わかってたんだ。この子は真っ直ぐだなって。もう階段降りてるし。
とりあえず俺が先生に聞いてみて判断を仰ごう。
「本田さん、俺が先生に聞いてくるからちょっと待ってて」
「わかった」
俺は本田さんを体育館の入り口前で待たせステージ前で指導をしている先生のところへ向かう。ちなみに今日はバレー部が体育館を使用する日。周期で何曜日はバレー部が使う、でその次の日はバスケ部が使うなど、室内スポーツは体育館を曜日ごとに交代で使っている。それ以外の日はトレーニングや高校の外周など身体強化に努めている。いやぁ本当にすごいキツそうなトレーニングばかり。
体育館の端を歩きながらバレー部員に誰こいつ?みたいな目で見られ少し視線が痛いが我慢してステージまで向かう。夏目さんはプレーに集中しすぎて俺らがいることにすら気づいていないらしいけど。
「先生」
「ん?なんだ今は練習中だから英語の課題提出などは職員室の私の机に置いていてくれ」
「いや、そうじゃなくて」
「そうか。要件があるなら早く言ってくれ」
いやいま言おうとしてたじゃん。アンサーはやくね?
「えーと、先生転校生はもうご存知ですよね?」
「ああ、一様職員室で聞いたな」
「今その子に学校案内をしていて、ちょっとバレーを見てたんですよ。ほらあの入り口に目をキラキラさせている子」
俺は体育館の入り口にいる本田さんを指差す。
「あの子がバレーやってみたいって」
「ああ、そういうことか!」
急に声のトーンが上がった。
「いやはや、バレーに興味があるとはあの子も見る目があるなぁ!」
バシッバシッと俺の背中を叩く。
なぜ俺を叩く。
「体操服に着替えさせてこい。端っこでちょっとやらせてあげるから!」
もうとまんねぇーな。この先生。
俺は先生から体操服に着替えて来させろと言われたのでそれを本田さんに伝えた。
「本田さんやらせてくれるって。その代わり体操服に着替えて来いだとさ」
「ほんと?やったー!着替えてくる!」
そう言うと本田さんはダッシュで体操服を撮りに教室まで行った。
その後、5分もたたないうちに着替えて体育館まで来た。いや、はえーな。
「着替えてきたよ!」
ふんがふんがと荒い息を立て早くやりたいと言う目で俺を見つめてくる。
「じゃああのステージのところにいる先生に挨拶してバレー大好きですと言ったら多分大丈夫だ」
「わかった!いってくるね」
バッと走ってコートの横からステージに向かっていった。
「あ、あと!怪我しないようになー!」
一様忠告はしとく。佐野さんもとい聖母に言われたからな。
わかったーと走っていくその姿は不安しか残らなかった。
そして挨拶をしているのを遠目に見ていたが先生は上機嫌そうだったので再びギャラリーに上がりたまーに怪我をしてないか確認しながらラノベの続きを読むことにした。
・・・・・・・・・
私は司くんに言われるがまま先生に挨拶とバレーは大好きですと伝えた。
「こんにちは!私転校してきた本田と言います!」
ちょっと緊張して声が裏返る。でも先生は満面の笑みで挨拶を返してくる。
「こんにちは。バレー部に興味があるの?」
「はい!えっと、バレーが大好きです」
これでいいのかな?
「ほんとか!じゃあバレーやろうか!」
なんか先生の印象が少し変わった?
そう思いつつバレーの練習に入れてもらえることになった。
「メメ!」
「はい!」
「今日はちょっと飛ばしすぎてるからスパイク練習終了しなさい!」
「まだ打ち足らないんですが・・・」
「今週強豪とやるんだ。その時に準備満タンで挑みたい気持ちはわかるだろ」
「・・・」
「だから今日はこの子にバレーを教えてやってくれ」
「・・・あ!シェアじゃん!来てたならいってよ〜」
「メメちゃんめちゃくちゃ真剣だったから声かけたらダメ?と思って」
「ん?なんだ知り合いなのか」
「はい。同じクラスで今日仲良くなりました」
「そうか。じゃあこの子にバレー教えてやってくれ」
「わかりました」
とメメちゃんが私のところまでやってきた。
「バレー好きとか聞いてないよ!好きなの?」
「う〜ん・・・メメちゃんのすぱいく?を見てたらウォーってなってやりたくなった」
「ルールとか知ってる?」
「それもわかんない」
「ん〜そうだな・・・まあバレーを簡単に言うと私がさっきやってたみたいにスパイクを打って、そうそう今やってるように6人で相手コートにボールを落とす競技なんだ」
メメちゃんはそう言って他の人たちの練習しているところを指さした。そこでやっていたのはネットを挟んで6対6になってぼーるを打ち合っている。少し見ていたらメメちゃんのようにすぱいくが決まった。
「おぉ〜」
「でしょ!おぉってなるよね!」
メメちゃんはどこか嬉しそうだ。バレーやってる人はみんなこうなのかな?
「自分でできるようになったらもっとおぉってなるの。まあでも最初からあんなにはできないと思うからレシーブからしよっか?」
「れしーぶ?」
「うん、レシーブっていうのはちょっと難しいけどまああのスパイクを受け止めて次に自分のチームがスパイクを打ちやすいようにするの」
「やってみる?」
「やってみる!」
メメちゃんが私にボールを渡してくる。
「じゃあ、ちょっと投げてきて」
「うん」
私はメメちゃんに向かってボールを下から投げた。
メメちゃんは両手を合わせて少し高く楕円を描くボールに対して正面に入った。そして落ちていくボールがメメちゃんの腕に当たったかと思えば、ふわっといつの間にかボールは私の手の中に収まっていた。
「こんな感じ!わかった?」
「おぉ!?」
「わかんないけど、ボールがふわっとして上がってメメちゃんの腕にふわっとなってシーンてなって気づいたら戻ってきてた!」
「擬音のクセ!」
メメちゃんが何を言っているのかはわからなかったけど、興奮してばれーやりたくなった。
「メメちゃん私もやりたい!」
そう言って腕で掴んでたボールをメメちゃんに渡した。
「じゃあいくよ」
受け取ったメメちゃんは私にさっきと同じような楕円を描くボールを投げてくる。
さっきと一緒、メメちゃんと一緒。
さっきのメメちゃんの動きを真似しようと正面にはいってボールがくるのを待つ。
来た!
「っえい!」
ボンっと音を出したボールはメメちゃんに返すどころかコートの近くにいた先生の頭に当たった。
「あれ?」
「ヤバっ!」
その後先生にお前らは最後まで居残りだと怒られた。
・・・・・・・
ラノベに熱中して本田さんの状況を見ることを一切忘れていた俺だったが、気づけば7時手前になっていてコートを見ると何やら清掃をやらされている本田さんと夏目さんを見つける。
あれはなんかやらかしてた系かな?でも気づかないのは仕方ないじゃん『転生勇者は砕けない』のこれまでにない超細かい伏線たちに心躍らされてたら普通女子バレーの練習なんてみるわけないだろ。
とコートをモップがけしている二人をギャラリーから見ていると
「つかさっちおわったよー!」
夏目さんが俺に手を振りながら言ってくる。俺、つかさっちなんて呼ばれてたっけ?なんて思ったりもしたがとりあえず反応する。
「わかったー。じゃあ俺校門前で待っとくわ」
「おっけー着替えたらいくねー!」
俺は手をあげて了解みたいな感じで体育館を後にした。
・・・・・・
本田さんや夏目さん校門前で待っているとらいんが届く。
『ごめん!(手を合わせる絵文字)生徒会の会議長引いててまだ遅くなりそう(手を合わせる絵文字)よかったら先帰ってて!』
あいつも大変なこった。
『おけ。今終わったところだけど帰っとくわ』
『あ、ちゃんとシェアリー送ってやれよ(親指立ててる絵文字)
めんどくさー。まあ今日だけだしいっか・・・・あれそういやまだ部活二つしか回ってなくない?うわぁ・・・俺の放課後が少なくとも後1日奪われるのか・・・明日はカイに送っていかせよう。そうしよう。
『あーはいはい。送っていきますよー』
『生徒会がんばって』
『おう!』
カイとのらいんのやりとりがちょうど終わった時に本田さんと夏目さんが歩いてきた。
「なんかれしーぶした時腕がジンジンした」
「あーそれはあんなにぶっ飛ばすとさすがにいたいよw」
「それともっと下半身で受け止めたり、あとは慣れかな」
めっちゃ仲良くなってんな。さすが陽キャ女子。コミュ力パネェ。
「おつかれ」
「おつー。あれ海斗は?」
「あー生徒会遅くなるから帰っててだって」
「あ、そうなんだ。じゃあどうする?」
「ん〜どうって言っても夏目さん家どっち?」
「えっ?私?」
「うん本田さんと同じ方向なら送っていってあげて欲しいななんて」
「そういうことか。でもつかさっち楽したいだけでしょ」
チッバレたか。
「そんなんだからいっつも海斗に女の子とられて彼女いないんでしょーw」
「いや別に欲しいわけじゃないけどな」
バカにされるように笑う相手には無の顔(真顔)で接する。それが陽キャのコミュニケーションだ。
「wwマジで図星じゃんw」
こうすることで多少のダメージを喰らいながらもこれ以上何も言われない。
「まあとりあえず本田さんはどっちの方向」
「家はあっち」
まあ少しフラグを立ててしまっていた俺が悪かったのかもしれないな。もちろん本田さんが指を刺した方角は俺の帰る方向とおなじわけで。でもフラグは立ちすぎてしまった。
「私もあっち」
「えっ?奇遇ですね。僕もあっちです」
ああ、しまった。ついツイッターで初めてやり取りする時のような話し方をしてしまった。
だってめんどいんだもん。
俺が二人の女子を送ることになった。もしかすると?もしかしなくても俺のラブコメが始まるかもしれない。わーいわーい。
・・・・・・・・
「・・・・」
「・・・でさ、ひさがごつんってゲンコツ入れてて・・・」
結論を言うと期待してたラブコメでよくあるハーレム展開など起きるはずがなかった。前を女子二人で歩き少し離れて俺が続いている。女子二人は何やら盛り上がっているようだが後ろを歩いていたらあまりその声は聞こえない。まぁ聞こえるとするならば、夏目さんの笑い声。なんか一人で喋って一人で笑ってない?
そう思ったりしているとハーレム展開は起きなかったがまさか本当にラブコメ展開になるようなテンプレが起きた。
少し歩いていると前の二人の足が止まる。何事かと思い前を見ると本田さんと夏目さんの前に立っていたのはいかにもこのラブコメを進める上で必要な設定のチンピラだ。
一人はいつの時代やねんとツッコミを入れたくなるリーゼント。もう一人はあ〜いるいる。ラブコメのチンピラでこう言うやつといったやつ。それも金髪バージョン。この辺の高校とかあんまり知らないけどこんなチンピラみたことねぇ。ってことは本当にラブコメの神様、俺にチャンスを!?本当はさっき夏目さんに言われたカイばっか女の子にモテて俺だけ実は彼女いない歴=年齢のことを実は多少重く捉えていたから?
まあ俺は彼らをチンピラAとBと呼ぶことにした。
そのAの方(リーゼント)が話し出す。
「よう、今二人?俺らとちょっといいことしようよー」
完璧なるテンプレ発言だったが少しの懸念があった。
それは、文字という媒体で今呼んでいる君たちにはわからないと思うが、このリーゼントA、じゃなくチンピラA・・・声が可愛いじゃねぇか。
俺はそのチンピラAから発せられるオラオラオーラと萌え萌えボイスのギャップに新たなジャンルを開きかけるがチンピラBのナンパ師のような声によって現実に戻った。
「いいじゃん。なぁにいいことだよ。怖くない怖くない」
危ない。もし二人とも可愛いボイスだったら完全に二人諦めてたわ。
首を振る二人に徐々に近づく二人を見る。
「怖くない怖くない」
チンピラBが下をぺろぺろさせながら二人に近寄っていってる。
それは流石にホラーでしょ。
「あの、一様連れとして男いるんですが見えてました?」
少し離れて歩いていた俺も二人が止まってから少しずつ近づきチンピラAが話し出した頃には後ろにいた。
「ああん!文句あんのかよこら!」
やめてAはもう話さないで!その表情とその声のマッチングは流石にアウトだからw。
俺は少し俯いてニヤッとなってしまった表情を整える。眉間にしわよせて怒っているように・・・いくぞ!
ボコっ!
「へっ?」
俺が顔を上げいざラブコメに参らんとしたとき、なんの音?と言う変な音がした。
「いたぁ!」
この声を聞くと作り直した表情も緩くなるがラブコメには起きちゃいけないことが起きてしまう。
「キャーキャーうるさいんですけど」
チンピラAは地面に転がっており、チンピラBは「えっ?」みたいな顔をしている。それもそのはず、この俺が颯爽と女子二人を助けて青春ラブコメ開幕という場面だったが、チンピラAを吹っ飛ばしていたのは夏目さんだった。強烈なビンタ。おそらくバレーのスパイクだろうか。これまでバレーボールを何千何万と打ってきた彼女の平手は常人の威力を逸脱していた。音もおかしい。こちらも常人では折れていたかも。多分設定上のチンピラは毎日牛乳飲んでんだろうな。
まさかの助けようとしていた女子が吹っ飛ばす展開なんてのは想像してなかったがやはり相手も設定上の存在(仮)だ。あのビンタを食らっても立ち上がった。
「いや、やめてー!」
「あんた、シェアを離しなさいよ!」
バトルものでよくあるそれはもう見たみたいな感じで夏目さんの腕をチンピラAが掴む。ビクッと夏目さんの体が震えたように見えた。いくら強がっていたといっても女の子だ。その一瞬の夏目さんの震えと本田さんの叫びで一瞬だけ頭に血が上った気がした。
「さっきはよくもやってくれt」
瞬間、俺はああ、いつものやつかと腑に落ちる。
その姿はいつの日か追っていた背中で、でもその背中は遠くてずっと眩しく追いつけないと気がついてしまったあの日からただすごいとしか思わなくなった姿。
勢いよく走ってきた彼は夏目さんを掴んでいたチンピラAにその拳をぶつける。走ってきた勢いが加算され物理演算が間違ってないか?というほどに後ろに吹き飛んだ。そして本田さんの腕を掴んでいたチンピラBも突然の乱入者に引けを取りあっけなくストレートが顎にはいる。チンピラAは意識は飛んでいないが強烈な痛みに苦しんでおり、チンピラB に関しては完璧に落ちていた。
「大丈夫か!メメ!シェアリー!」
ヒーローは遅れてやってくる。その言葉がこれほど似合うのは現実では俺は知らない。
「ナツ!今のうちに逃げるぞ」
「ああ、ついてくよヒーロー。俺はやっぱりお前には敵わねぇ。」
俺は卑屈な笑みを浮かべ思った。
またこの感じか。もうわかってる。
もうこいつの隣にいて何十何百回と感じてきた。もうわかってる。
そう、これは劣等感という感情だ。
空っぽ人間は青春しない さとうまんず @Satouman1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。空っぽ人間は青春しないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます