魔法下手な私たちが魔王先生の指導で一流魔術師になる話っ!
結坂有
一年生編
第一章:私たちの学級
ぶつかって、転んで、入学ですっ
春ですっ! 新生活ですっ! 魔法学院ですっ!
心の内でそう叫んでみた。
晴天の下、大声で実際に言ってみたい言葉ではあるが、私はぐっとこらえて心の内だけに留めておいた。
理由としては……単純にはた迷惑といったところだ。
私の周りには私と同じ服を着た人たちでいっぱい。少し手を伸ばせば三、四人ほど捕まえることができるほどに密集している。
私たちはちょうど電車から降りて、駅を出たばかり。そして、同じ服を来ている人たちというのは制服を着た生徒たち。
私が彼らとともに向かう場所は同じ、魔法学院なのだ。今年度から新しい教育指針になるということで私たちの制服も以前とは違い一新されているらしい。
改めて自分の服を見てみるとやはり美しいと言っても過言ではない。自然をイメージさせる深緑の生地に淡い青色のラインが体の輪郭をはっきりとさせる。
以前から変わっていないというのは校章のみだそうだ。シンプルなデザインながらも高級感が漂ってくるのは使われている素材がいいからなのだろう。初めてこの服に腕を通したとき驚いたことだ。
そんな美しい服から視線を外して私は歩き出す。今日は入学式だ。楽しみで仕方ない。
もう密集していた人だかりはそれぞれに散らばっているようだ。
すると、私の横からとある生徒たちの話し声が聞こえてくる。
「楽しみだねっ」
「うん……でも、貴族の人たちと一緒ってちょっと怖い」
「大丈夫よっ。貴族も平民も垣根なく教育するってここに書いてあるでしょ?」
そう明るい声の女子生徒がパンフレットのようなものを取り出しながら言った。
「……怖いものは怖いわ」
「心配ないって。この先生なんて若くてかっこいいでしょ? この人、貴族出身って言うわけでもないのよ」
「それがどうしたの?」
不安症なのかロングヘアーの女子生徒が恐る恐る尋ねる。
「つまりは平民でも強くなれるってことでしょ? それに軍なんかはそういった差別も区別もされていないみたいだし」
「……そういうものなのかなぁ」
そんな話を続けて彼女たちは私の前を歩いていった。
私もパンフレットを取り出して内容を見てみる。さきほど言っていたかっこいい先生というのはこの人のことだろうか。
癖のある茶色の髪に端整な顔立ち、そして筋肉質というわけでもなく、その容姿からは知的とすら思わせる。
「えっと、名前は……ひゃっ」
名前の欄を見ようとした瞬間、私の後ろから強い衝撃が伝わった。
「ってぇ!」
突然のことで受け身を取ることができず、そのまま地面に叩きつけられた。そして、少し遅れて大柄な男の人が同じように倒れ込んできた。
どうやら彼が私にぶつかってきたようだ。
「……大丈夫か?」
何事かと頭を整理しているとその男子生徒がそう話しかけてきた。
第一印象として熱血を思わせるその髪色は真紅と言っていいほどに赤い。しかし、その赤い髪に混じって黒毛も主張している。
「大丈夫ですっ。あの、怪我は……」
「おい、落ちこぼれ魔法剣士」
私の言葉を遮るかのように背後から声が聞こえてくる。その声にその熱血生徒が私の頭上へと視線を向ける。
「落ちこぼれって誰のことだっ」
「お前以外いねぇだろ。魔法が使えねぇって噂の」
「使えなくて悪ぃかっ」
「魔法の使えない魔法剣士なんて必要ねぇってことだ。どうせお前なんかが魔法学院に入ったところで無意味なんだ」
私を挟んで背後から大声で目の前の彼に話し付ける。一体何のことだか全くわからない。
それでも彼が喧嘩に巻き込まれているということだけはわかる。いや、私も巻き込まれている身なのか。
「これでも魔力はあるんだ。魔法は使えるってことだろっ」
「どうだかね。お前みてぇな雑魚はいくら教育を受けたところで雑魚だってことだ」
「てめぇ、少し魔法が使えるからって調子に乗んなよ」
「はっ、その髪色からして混血だろ。貴族の血を汚したお前の親は……」
「黙れよっ!」
とても強い声でそう彼は怒鳴った。
彼だけでなく、彼の親まで侮辱したのだ。平民の私でも到底許されないことだとは理解できる。彼が怒るのは当然だ。
「……入学式早々、遅刻はできねぇからな。まぁ今日は精々頑張ることだな」
「あ?」
「知らねぇのか? クラス分けの試験があるって書いてあるだろ。一から五組まで今日の成績をもとに分けられる」
そういえば電車の中で今日のスケジュールに関してじっくりと読み込んでいた。
入学式が終わるとすぐに魔法の適性試験があるようだ。詳しい内容までは書かれていなかったが、クラス分けに大きく影響が出るということは容易に想像が付くだろう。
そして、その結果は翌日、つまり明日に発表される。
「……」
「頑張ったところで雑魚は雑魚か。じゃあな」
そういって私の背後から男が立ち去っていった。
怖くて手も足も、口も出なかったけれど、なんとか立ち去ってくれたようだ。
「……いつまでぼけっとしてんだ」
「え? あっ」
「なんだ、巻き込んで悪かったな」
「い、いえ、私の方こそパンフレットを見ながら歩いていたので……」
目の前の彼は疑問符を浮かべながら私の顔をじっくりと見る。すると、気付いたように口を開いた。
「怪我してんだろっ。立てねぇほど痛いんだな。見せてみろっ」
一気に立ち上がったかと思うと私の方へと近寄ってくる。
「怪我はしてませんっ。その、気迫に圧倒していただけですっ」
「きは……なんだって?」
「その、大丈夫ですから」
私はさっと立ち上がると彼はどうやら安心したように胸を撫で下ろした。
「そっか、遅刻するとあれだ」
「そう……ですね」
落としてしまったパンフレットを探そうと視線を落とす。
しかし、周辺にはそれらしきものは見当たらない。それなりに分厚い冊子だった。
さっきの衝撃で見えないところまで吹き飛んでしまったのだろうか。いや、そんなわけはないはずなのに。
「あの、私の……」
そう視線を上げて彼に話しかけるが、もう彼はいなかった。走って学院の方まで向かっていったようだ。
頑張って探すこともできるが、遅刻すると何があるかわからない。それにパンフレットは必須の持ち物でもない。ここは諦めて学院に向かうことにしよう。
私も鞄を背負い直して急ぎ足で向かった。
学院へと到着する。まだ生徒たちは多くいるようだ。時計を見てみると間に合った様子。
少し乱れた金色の髪を整える。肩口ほどに切ったことで整えるのは簡単だった。
「よしっ」
思わず出てしまった声に羞恥を覚えたが、私のことを見ている人は幸いにもいなかったようだ。
それから私は堂々とした足取りで学院への門をくぐる。
なんて、ちゃんとした生徒らしいことをしてみたかった。
「新入生の方はこちらでーす」
そう声の聞こえる方へと視線を向ける。生徒たちが集まって大きな会場のようなところへと案内されている。
その前に受付で名前を言うことになっているらしい。
私はその受付の方へと向かう。
「新入生の方ですね。お名前と入学証を見せてください」
私は鞄から入学証を取り出して受付の人に渡すと彼女は名簿へと視線を落とした。
「セルフィン・アルンドールですっ」
はっきりと伝わるように少し大きめの声でそう彼女に自分の名前を伝える。
「……元気ですね。あちらの会場で入学式が始まります」
受付の彼女はそう笑顔で伝える。
待ちに待った入学式、緊張と期待、夢や希望を胸に私はその会場へと向かうことにした。
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