06.結実 3
昼を食べ終えたら、子供たちはすぐに遊び始めた。ココリの木の下で、今は追いかけっこをしている。アミシャもナートも、子供たちと駆け回っていた。
「こうして見ると、ふつうの子供だな」
子供たちを眺めているフェロルが、その中の誰のことを言っているのかは聞かずとも明らかだ。普段ココリなど果樹の世話をしているフェロル親子が、間近でナートを見るのは、今日がほとんど初めてのはずだ。
「ええ、そうですね」
「アミシャも、昔と変わらないね」
そう言ったのは、息子の方だ。アミシャが封印役として眠りについた当時、彼はまだ十歳にもなっていなかったはずだが、アミシャと遊んだことを覚えているようだ。
「〈災いの元〉だなんて言われていたが、何かの間違いだったのかねえ。あの子が目覚めてしばらく経つが、別に不吉なことも何も起きていないし」
「なんで封印されていたんだろう。ナートはふつうの子供なんだよね? アミシャみたいな感じて、ずっと眠っていたってこと?」
「眠っていたのは間違いないけど、俺も詳しいことはよく分からない」
ナートがふつうの子供と変わらないのはいいことだ。だがならば何故、そんな子供が〈災いの元〉として封印されていたのか。リアノスの母が抱く疑問は、ティサの多くの者も抱いているだろう。
だが、何も災いが起きないのならば、詳しく追求しなくともいいのではないか。ナート自身、もしかしたら理由を知らないかもしれない。知っていたとしても、無理に聞き出すよりは、自分から話すのを待つ方が、ナートにとっても皆にとってもいいように思えた。
「何も起きないなら、それで十分だよ」
フェロルは立ち上がり、服に付いた草を払い落とす。
「リアノス、子供たちを集めてくれ。そろそろ帰ろう」
ここでの今日の作業は終わりらしい。リアノスは走り回る子供たちのところへ行き、帰るぞ、と声を掛ける。
「まだここにいたい」
「遊びたいよ」
楽しくしていたところを邪魔され、子供たちはいたく不満そうだ。だが、ここの管理者であるフェロルたちが帰るのだから、リアノスたちも帰らねばならない。
「帰ってから遊べばいい。ここで遊ぶのは、もうおしまい」
ぴしゃりと言うと、まだ不満そうではあったものの、はーい、という返事がもらえた。
「ココリの実がなったら、また来たいよ」
キーヒャが言うと、他の子供たちもそうだと口をそろえた。子供たちの気持ちは分かるが、収穫の忙しいときに押し掛けるのは、さすがに邪魔ではなかろうか。
「手伝ってくれるなら、来ていいよ」
フェロルが笑いながら言うと、子供たちはやったと歓声を上げる。
「次は、大きな実が生っているのを見られるのか」
ナートも楽しみにしている目で言う。
「そうだな」
「その時は、また弁当を持ってこないといけないな」
そう遠くない未来に、またこの一行を引き連れて行くことになるようだ。
「はやく実が生るといいね」
キーヒャはナートの手を握り、期待に満ちた目でココリの木を見上げる。
その次の瞬間、ココリの木に、一斉に赤い実が付いた。子供たちにさんざん見せていた小さな実が、一気に成長したかのように。
子供たちが、わあ、と今日一番の歓声を上げる。
「ココリの実がなった!」
「わあ、すごい!」
大はしゃぎして実の下に群がり、なんとか取ろうと飛び跳ねる。
そんな子供たちを――いや、ココリの木を、リアノスたちは愕然と見ていた。
どうして突然ココリの実が成長したのか、さっぱり分からない。ふつうではないことが起きたのは明らかだった。ノハリア神が気まぐれを起こして実りをもたらしたのか。いや、そんなはずはない。これはまるで――。
リアノスは、恐る恐るナートを見た。
まるで、キーヒャの願いが叶ったようではないか。では誰が、その願いを叶えたのだろう。
「……これが僕の力で、〈災いの元〉と呼ばれる所以だよ」
ナートは悲しみのにじむ笑顔で、さっきまでキーヒャに掴まれていた手を見ていた。
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