乗っ取られたプラモデル・1

 ピーポー……ピーポー……

 小学校の裏手にある森へ、たくさんの車が吸い込まれていく。

「あそこの森は、私有地だからなあ。地震兵器でもあったりしてな」

 よく冷えた麦茶をグイっと飲んで、父さんは一息つく。

 森の所有者は、10年くらい前に死んだという、がんこじいさん。

 今は、お孫さんが管理しているそうだ。

 孫といっても、その人は大人らしいけど。

 ううん、違う。 大人というより、100年くらい生きている魔女かもしれない。


 だって、あそこは【魔女の森】なんだから。


 もしかしたら、しわくちゃの顔にぼさぼさの白い髪をしていて。

 歯の抜けた口で、きみわるく笑うのだ。

 家の中には大きなお鍋があって、へんなものを毎日、ぐつぐつと煮こ んでいる。

 見たことはないけど、そうだったら面白いのにな。


 母さんはため息をついて、麦茶を飲み終わったコップを父さんから受 け取った。

「お父さん、くだらない事を言わないで。海斗は早く寝なさい」

 せめてパトカーを見たかったが、叶わない。

 窓の外を見ようとしていた海斗の背中を、母さんがとんとんと優し く叩いた。

「はあい……」

 もともとウミネコのせいであまりねむくなかったけど、これ以上怒ら れるのもめんどうくさい。

 海斗もコップ半分くらいの麦茶を飲んで、二階の部屋に戻る。

「おねしょしないでちょうだいね」 だなんて言われたけど、もう小学校4年生なんだ。

 母さんは、いつまでオレを幼稚園児だと思っているんだろう。

 ちょっとマンガの本でふみ台を作れば、部屋の窓から森が見られる。

 でも、夜もだいぶ遅い。

 そういえば、さっき落っこちたジュスティジャーのかけらは、全部拾い おわったっけ?

 部屋の床を、四つんばいで一周して、確認をおわらせる。

「作り直すのは、土曜日にやろっと」

 空き箱にプラモデルをしまうと、机の上にそっと置いた。

 シャツを脱いで、パジャマに着替える。

 電気を消して、ベッドにもぐりこむことにした。

 ねぼうして朝から怒られるより、早く寝た方がいいだろう。

 ついこないだ、ほかのプラモデルを夜遅くまで作っていたのが父さんに ばれてしまい、登校前にお説教をくらったばかり。

 最悪の朝ごはんだった。

( また遅刻しそうになるのはいやだなあ……)

 とっとと寝よう。それがいい。

 明日はきっと、クラスの話題は、あの火事で持ちきりになるだろうか ら。

 ウ ミネコは静かになっていた。

 だけど、やっぱりドキドキは収まらない。

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