アンドゥ出来るセーブスロット(4000文字程度の短編)

夕奈木 静月

第1話 絶望

「うわあああああっ!!しまったあああ…!!なんで、なんで上書きしちゃったんだああっ!?」


 ひどい…なんてことだ…。僕に限ってこんなこと…絶対しないと思ってたのに…。


浩紀ひろきっ!なに夜中に大声出してるのっ!近所迷惑でしょ」


 誰…?もう記憶も何もかもどっかいったよ…。

 今の僕は生きる屍…。立ち上がることさえできない…。

 ああ…ほんの数分…数分でいいから時間よ…巻き戻ってくれ…。

 どうして…どうして現実は…たった数分を戻せないんだっ!?

 ロケット打ち上げる技術力をもっと違うところに使ってくれよ…。


「終わった…。僕の500時間は水泡に帰した…」


「浩紀っ!何してるの?」


 誰の名前?そういえば僕の名前は?

 頭が真っ白でぼおっとして…涙でにじむ景色…

 あれ…ここどこだ?



「あなたが消してしまったデータはこちらの1179時間プレイのものですか?」

 声のする方を見るが、真っ白で眩しくて…直視できない。


「いえ、違います」


 金の斧&銀の斧パターンだな。自分でも不思議なくらい落ち着いて答えられた。

 眩しさに目をそらすと、現実にはありえない周りの景色。

 橋脚のない橋が架かり、空には太陽と月が並んで浮かんでいる。

 取り乱さずにいられるのは、データを失った喪失感からか…。

 さあ、次に僕のデータをピックアップしてくれるはずだ…。


「それではこちらの2051時間プレイの方ですか?」


 えっ?違うんだけど…。でも…二択なんだよね、この質問。

 どっちか選ばないと…早く、早くっ!


「2051時間の方です!」


「そう…そうなのですね…」


 光が弱まり、声の主がはっきりと見えてきた。

 女神様?なのかな…。荘厳な衣装に装飾品、ファンタジー世界そのものの格好。


「分かりました…。ではこちらの508時間プレイのものではないと?」


「あっ、そ、それです!すみません…。二択から選ばなければいけないと思ってつい…焦ってしまって…」


 憂いに満ちた表情で「私…悲しいです…」と訴える女神様。


「えっ?」


「一度選択したものは、残念ながら取り消すことは出来ません…」


「そ、そんなあ…。何とか、なんとかなりませんか?僕、なんでもしますからっ!」


「何でも…ですか?」


「はい…。どんなことでも、です」


 取り戻したい…。夢中になってキャラを育成して一緒に冒険したあの日々を…。

 他の誰かのものじゃなく、他ならぬ僕のセーブデータを!

 そのためならどんな困難だって乗り越えてみせる。


「分かりました。あなたの言葉を信じましょう。では…」

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