第13話 婚約破棄作戦、第二弾始動!

 

 翌日。

 私の部屋に飾られた一枚のノートを見つめ、彼女に問いかける。


「早速だけどジュネ、次は何をするか分かっているわね?」

「はい、勿論です。お嬢様」


 元気な声が部屋に響いた。


「婚約破棄後、お嬢様を幸せにしてくれる相手を見繕うですね!」

「その通り」


 婚約破棄作戦第二弾の開始である。


===


「本当はここまでは必要ないと思ったんだけどね」


 私達は宙を見上げた。

 広くて大きくてしっかりした造りの建物。

 ここはお馴染みレクターの屋敷の前だった。


「婚約破棄された後の衣食住については、完璧に確保していましたからね」


 婚約破棄されると分かってから、初手の段階でその後の生活については準備を完了させていた私達。

 住む場所、出ていくために使う馬車、果ては婚約破棄の見届け人として役所の職員に至るまで、その準備は万全だった。そんな私達の準備で唯一用意していなかったものがこれ。


「この準備は不要だと思ったのよ」


 婚約破棄後に自分を幸せにしてくれる存在だった。


「だって別に一人で暮らしたって、幸せになれるでしょ?」

「まあそこはそれ。万が一の時にお嬢様を連れ去ってくれる王子様も必要でしょう?」


 そんなものだろうか。


「って訳でネイ……」

「やらないからな!」


 聞き覚えのある声が即答と言わんばかりに返ってきた。

 それを聞き、不満にジュネが口元を尖らせる。


「まだ何も言ってないじゃん」

「知ってるよ、一緒に計画を見たんだから」

「そういえばそうだった」


 彼女はポンと手を叩いた。


「はぁ……どうせ次は『セイラお嬢様の婚約破棄後の相手を見繕う』とかいうんだろ?」


 そう言ってネインは力なく呆れたように肩を落とした。


「うん、まあ」

「で、その役目を僕にやらせようって腹積もりなんだな」

「あーうーん……」

「ほらやっぱり」


 煮え切らないジュネの返事。

 彼女の真意を言い当てたネインは、得意げに彼女に向けて指をさした。


「先に言うけど今度こそハッキリ断る。今回こそはお前の話に絶対に乗らな……」

「待った」


 ピッと手のひらでジュネが彼の言葉を止めた。

 困っているかと思いきや、表情は何故か穏やかだ。


「?」

「ネイン」

「な、なんだよ」

「……君が本当にお嬢様のお相手を務める存在であると? 本気で君はそう思っているのかね?」

「!」

「君は言った、『その役目を僕にやらせようって腹積もりなんだな』と。それは自らが、セイラお嬢様の隣に並べる人間だと自覚していなければ出ない言葉だ」

「そ、それは」


 可哀想に。

 全然その認識で問題ないだろうに。よりにもよってジュネは真面目な彼の一番弱い部分に付け込んでいる。


「さあ答えなさい。本当にお嬢様が君を認めていると思うのかを」

「う……」


「こらジュネ」


 私は遂に二人の間に割って入った。


「認めるも何も、私達は彼に、お願いするつもりで来たんでしょ? 図星だったからって揚げ足取らないの」

「いや、だってこいつ、偉そうにやらないとか言って……」

「ネイン君、どうかしら」


 ブツブツ言っているジュネを押しのけて、私は彼の前に出た。


「婚約破棄後のお相手として一芝居付き合ってもらうっていうのは」

「…………お嬢様が、それでよいと言うのであれば」

「決まりだわ」


「何だかんだ丸め込んだお嬢様が一番怖い」

「ジュネ、黙って」


 こうして私達は、次なる作戦を開始したのだった。

 

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