第11話 この物語に特殊能力はいらない

 

「こんなこと言うのもなんですが、お嬢様ってお嬢様にあるまじき能力持ってません?」

「そうかしら?」

「そうですよ」


 ふとジュネがそんな言葉を漏らした。


 十二人の男達がおとなしく地面に伏せている。


 私達を襲ったゴロツキ達は皆全て、私からの命令に従い体を地面に押し付けていた。


 残るは後始末をするだけ。

 とは言っても別に彼らを殺すわけじゃない。

 周囲を散策し、ナイフが落ちていたら、それを彼らにお返ししてキチンと家に持ち帰って貰うだけ。


 だって子供が見つけたら危ないものね。


「私やネインは練習して身に付けた技能ですけど、お嬢様のそれって天性の能力ですよね……っと」


 ジュネは草の隙間に落ちていたナイフを蹴り上げながら言った。ナイフは一人のゴロツキの眼前に転がる。お見事。


「元から備わっていたかと聞かれれば、YESと答えるわね」

「いいなぁ~、命令通りに相手を動かせる能力」


 そう言ってジュネは空を見上げた。

 どうやら本気で羨ましがっているらしい。


「私は別にいいとは思わないけど。だってネインさんの魔法みたいに、相手の感情までは探れないし。ただ、命令通りに相手を動かせるってだけよ」

「でもお嬢様の場合、一切魔力は消費しないんですよね」

「ええ、そうね」


 物心つく頃から持っていた、この力。

 基本乱用することはないけど、使ったからといって疲れを感じることは確かになかった。使おうと思えばいつでも無限に使える気さえする。


「ちなみにその力って、レクター様は知ってるんですか?」

「知らないわよ」

「えっ、そうなんですか」


 意外そうに口を開いたのはネインだった。

 そんなに驚くことだっただろうか。


「?」

「あ、いや……そんなに凄い能力があれば、レクター様だって婚約破棄なんて言いださないんじゃないかと思って」


 私の困惑に気付いたネインは、すぐさま会話に説明を加えた。


 凄い能力には従うはず。

 なるほど。

 そういう考え方もあるか。でも……。


「言うつもりはないわね、だって怖いじゃない」

「そうですか」

「こんな得体の知れない力なんて、私だったら逆に敬遠しちゃうわ」


 命令通りに相手を動かせるなんて聞いたら、自分もそのターゲットになるんじゃないかって不安になってしまうだろう。

 だから私は言うつもりは無い。

 たとえそれを言う事が自分のメリットになるとしても。

 あと、なんとなくだけどレクターはそれを聞いても、婚約を左右させるタイプじゃないと思う。


「な、なんかすみません」


 差し出がましい発言をしてしまったと思ったのか、ネインは縮こまって頭を下げた。素直だ。


「別に悪いことは言ってないわ。私がただ、そんな力は抜きにして、私は一人の人間として彼と付き合いたいだけ」

「お嬢様カッコいいー」

「はいはい、そういうのはいいから」


 ジュネの冷やかしを適当にあしらって、私はゴロツキの前にそっと屈んだ。


「え、お嬢様、何をする気で……」

「はいこれ、治療代。売ればそこそこのお金になるはずよ」


 そう言って私は自分のイヤリングを外し、彼らのうち一人のポケットの中に忍ばせた。

 それを見てネインが疑問をこぼす。


「悪いのはこいつらでしょう? 別にそんな物いらないのでは?」

「うーん、でもこの人達だって、お金に困ってこんな事しているんだろうし、このくらいはね?」

「まあ、お嬢様が良ければいいんですけど」

「じゃあいいわね。さ、そろそろレクターが心配するわ。戻りましょ」


 こうして私達は建物の中へと戻った。


===


 セイラ達から見えない反対側の影。


「レクター様?」

「ん」

「どうしてコソコソしているんですの。真正面から話を聞きに出て行けばよろしいのに。何なら私が言って差し上げ……」

「ああっ、待った! エリーナ」


 レクターはエリーナを小声で呼び止めた。

 少女は不思議そうに振り返る。


「?」

「いいかい、俺達は呼ばれていないんだ。だから無暗に出て行っちゃいけないよ」

「それは仲間外れってこと? 酷い……」

「うん、酷いね」

「? そう言ってる割には、笑ってる。レクター様、不思議」

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