テールライトは夜のみ輝く
譜久村 火山
第1話
秋のカラッとした風が、あたりを覆う。山の上にある、とある高校。生徒も教師も帰宅し、誰もいない。あたりは静寂に包まれていた。
そのとき、音楽室から妖艶で悍ましく、それでいてポップな響きを持つ美しいピアノの音色が響き渡る。その音は、ある確かな目的を持って輝いた。
「ヒューゥ」と「ザザザー」という音が、朝から止むことがない。どうやら今日は台風らしかった。
夏休み前はいつも晴天が広がっていて、窓際の席が当たって良かったと思ったものだ。しかし、二学期に入ってから雨の日が続いている。
外のどんよりした雲に嫌気が差して、北川優花は鞄からスマホと有線のイヤホンを取り出し、ピアノの動画を再生した。
美しく洗練された音色が耳を癒してくれる。
一曲聴き終えて、次の動画を探していると、演奏者の生い立ちに関する動画が表示された。
優花はサムネイルをタップする。
動画の序盤では、幼い頃の体験や学校での思い出を語っていた。しかし、中盤から語気が強まり。終盤には動画の中のピアニストは涙していた。そして、彼は嗚咽を交えて語る。
「人は誰でも輝ける場所を持っています。そこへいくためには、行動するしかないんです」
そこで動画をそっと閉じたとき、スマホが手から離れ、イヤホンが強引に耳から取られた。
気づくと、横に担任の横川先生が立っている。彼は体育教師らしいゴツい体と、生徒指導部らしい強面で優香を睨んでいた。
「没収な」
横川先生は吐き捨てるように言い、去っていった。この学校では学習面以外でのスマホの使用は禁止されている。
でも、優花は、みんな遊びに使ってるのになんで私だけ、と思った。
目の前をバスケットボールが通過していく。
頑張れば届きそうだったけれど、優花は手を引っ込めた。
「ピピーっ」
すぐに横川先生の笛が鳴る。今は体育の授業中だ。最近は夏休み明けでも暑さがひどいため、みんな半袖の体操服を着ている。
男子はネットを挟んだ向こう側で、楽しそうにバレーボールをしていた。
「北川ッ、ちょっと来い!」
優花はコートを出て、得点板の横にいる先生の元へ行く。
「さっきからなんだ。あのやる気のないプレーは」
横川先生が男子たちにも聞こえるほどの声で、優花を叱る。
「すみません」
それに対して、消えいるような声しか出なかった。
「で、でも。指を怪我しちゃったら、ピアノに支障が………」
「そんなの関係ないッ‼︎学校が第一や!」
横川先生は眉間に力を込めて、足元のボールを拾い上げた。そしてそれを優花目掛けて、投げつける。
男子たちを含め、体育館中の視線が優花に集まっていた。
ボールは顔に向かって真っ直ぐ飛んできた。咄嗟にかわそうとしたけれど、間に合わない。
優花は思わず、一歩退く。
「キュッ」
とシューズが体育館の床と擦れる音が無常に響いた。
気づけば優花は倒れている。だが、顔に傷はなかった。その代わり………。
右手の人差し指が、強烈に痛んだ。無意識のうちに手でボールを防いでしまったらしい。
横川先生の怒号が遠のいていく中で、人差し指を曲げようとする。
しかし、指はピクリともしなかった。
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