第41話 研究員たちの到着
公爵様やフィルさんが来て食中毒騒動の後は何事も無く、順調に計画が進められ秋の中盤に差し掛かっていた頃。
町の東側に大きな宿と食堂ができた、宿はそれまでやっていた町の宿の店主に、食堂はこれも食堂の店主に任せることにしていたので、両方の建物の引き渡しの契約を済ませると店主や従業員は嬉しそうに元の宿や食堂から新しい建物に引っ越しの作業をはじめた。
そんな慌ただしい引っ越しを手伝っていると、東の畑の方から子供たちが数人大慌てで走ってきた。
「そんな慌ててどうしたんだ?」
慌てて走ってきた子供たちに水を渡しながら俺が聞くと水を飲んだ子供たちは我先にと口々に、馬車が来たという。
「そりゃ今のこの町なら馬車くらい来るだろう」
ここ最近この町にはマッツォ商会以外の行商人の馬車が増えていたので馬車なんて特に珍しいものでもないだろうと聞き返した。
「ちがうんだよ、それがいつもよりいっぱいの馬車が来たんだよ」
子供たちは俺の言葉に首を振り、大量の馬車が来たと口々に騒ぎ出す。
それを聞いて貴族が来たのだろう、それも大量の馬車を引き連れてだと上位の貴族だろうと考え、そばにいたケビンに領主館に居るベックに出迎えの用意をするよう伝言を頼み走らせた。
俺はアリサと引っ越しを手伝っていた騎士団見習いの数名を連れて東の入り口に行き畑の先を見ると、パッと見て20台以上の馬車がゆっくりと進んでくるのが見えた。
「これは・・・、流石に多いな」
「だろ?だから急いで伝えに来たんだぜ」
「ああ、ありがとな」
俺の言葉に着いて来ていた子供達のリーダー格の子が言うので頭を撫でてお礼を言うとドヤ顔で胸をそらしていた。
「流石にあんな規模で来るような貴族ならこんなとこで出向かるわけにもいかないな。アリサ、館に戻って出迎えるぞ」
「はい」
急いで戻る途中、広場ではベックが手の空いている使用人見習いたちを集めて出迎えの準備をしていた。
俺が馬車の規模を伝えるとベックは顔をゆがめながら驚き、つつも使用人たちに細かな指示を出していた。
俺も館に戻り着替えたりと準備をして町の広場に行くとちょうど馬車の先頭が広場に入ってくるところだった。
何事かと遠目に見る町の人が居る中、ひと際豪勢な馬車の中から降りてきたのはウーデル公爵だった。
驚きつつも礼をして挨拶を済ませると、後続の馬車から降りてきた人たちをちらっと見て今回の来訪の用件を聞こうとした、がそれを見た公爵は先に話し始めた。
「かの者達は先日伝えた研究者や技術者たちだ、私が来たのはその顔つなぎといったところかな。それに・・・」
公爵が視線を巡らせた先にはオリビア王女とケイコ、それとパルミール女神がいた。
それを見て、なるほどオリビアの様子を見に来たという訳か、と思ったがどうも違う、視線はオリビアではなくケイコに向けられていたのだった。
「先日あまり時間が無くてあまり聞けなかったが、ケイコ譲の話に興味があってな、今回はじっくりと話したいと思って」
「なるほど、そうでしたか」
それを聞いてケイコを呼び経緯を説明すると、わかりました、と言ってオリビアとパルミールと一緒に公爵を連れて館に向かって行った。
俺たちはと言うと研究員や技術者と挨拶をしてから技術者はベックに任せ、研究員たちをまだ建設中の研究所に案内していた。
研究員たちは辺境の地でたいしたものはないだろうと思っていたらしく、建設中の建物を見て驚いていた。
「これは王都の研究所なみとは言えないがそこそこな建物が出来そうですな」
「中はどのような作りに?」
「こちらはいつ完成の予定で」
と次々と質問攻めに遭った。
建物自体の完成はあと半月ほどかかる事、内部に関しては皆さんの意見を聞いたうえで作っていく事など、一つづつ答えていくと、そのたびに研究員たちから笑顔と歓声などが上がっていった。
「そしてこちらが皆さんが住む宿舎となっており・・・」
先に建てられた研究所に併設された宿舎に案内するが、皆さん研究所の事で頭がいっぱいなのか宿舎の事ではなく研究所の事で盛り上がっていた。
その状況に仕方がないと研究所建設をまとめている工房の親方を呼んで、研究員たちに紹介すると、すぐに囲まれ内部の仕様など色々と話し始めた。
当の親方本人はいきなりの事に困惑して助けを求める目で俺を見てきたが、ごめんなさいとおもいつつ、よろしくお願いします、といって任せると親方が何やら言っていたが聞こえないふりをして俺はその場を後にした。
そして技術者たちの様子を見ようとベックの元に向かったが、やはりこちらでもジョイとルーイが囲まれて何やら質問攻めに遭っていた。
それを見てこれは声かけられないなと感じた俺は、ウーデル公爵の対応をしようと館に向かった。
館に着くとこちらでも公爵から質問攻めに遭い困惑しているケイコとそれを遠目に見ているオリビアとパルミールが居た。
俺もその状況にどうしたらいいのだろうと思っていると、アリサが助け船を出してきた。
「公爵様、お食事の方がご用意できました。食堂の方へご案内いたします」
アリサの言葉にはっと我に返った公爵は恥ずかしそうな顔をしてケイコに謝罪をして、こちらに振り向くと「ではごちそうになろう」と食堂に向かった。
その後は食事で気を良くした公爵を長旅で疲れているだろうと部屋に案内して、その日は終わった。
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