第33話 自領地へ出発


無事に第一陣が出発して、留学生も決まった。

その半月後には第二陣が出発していった、第二陣は高齢者が居るので馬車が多め、そしてオリビア王女のご厚意により、領地の騎士10名が馬車の往復の護衛として着いてくれることになった。


留学生たちは自主的に読み書きや簡単な計算のできる者から苦手な者へ教えて勉強をしていると聞いたので、孤児院の院長に頼んで場所を提供してもらった。

毎日アリサや元騎士の二人、そして第一陣を送り届け帰還する馬車に便乗してついてきたアブド領お抱え商人のマッツォが炊き出しの前後に勉強会を開くようになった。


孤児院の子供や第三陣で出発する予定の者達も最初は見ているだけだったが次第に勉強会に加わり、今ではみんなでやっている。

そして何よりすごいのはアリサたち先生の教え方も良かったのだが、参加した者たちの意欲と勉強して新しいことができる楽しみを知った者たちの文字や計算を覚える速さに驚くばかりだった。


勉強会で計算能力の伸びがいい孤児など数名をマッツォが商会で雇いたいというので許可をすると、善は急げとばかりに5名ほどと雇用契約を結び市場に連れまわし目利きの仕方や交渉術など色々教えているようだった。


第二陣が出発して半月ほどが経った頃、送り届けた馬車が帰還すると、1週間程馬を休ませ馬車の整備をするとのことが説明され、俺たちが領地に帰還するのは10日後と決まった。

第一陣も二陣も道中は順調だったようだ、時折散発的に獣が現れたが盗賊とは出くわさず予定通りに進んだという。


俺たちの出発の日取りが決まると、マッツォ達商人組は馬車に荷物を満載にして先に出発していった。


「俺たちの出発ももうすぐだな、ここもこれから変わっていくんだな」


最初は100人近くいた炊き出しだったが今では数十人程度になった様子や貧民街の一角で建て替えの工事が始まっている風景を見ながら、俺はつぶやく。



第三陣の出発の日、俺の馬車の御者台には元騎士の二人、中にはアリサとオリビア王女とその侍女がひとり乗っていた。

てっきり王女は領地に残って領主として働くものだと思っていたが、ノア準男爵の叙爵も終わり任せても大丈夫だといい、アブド領について行く気満々だったために断ることができなかった。


「そろそろ出発しようか」

「畏まりました」


みんなが馬車に乗ったのを確認すると俺が号令をかける、その言葉に御者台で手綱を握っていた元騎士の一人が返事をし馬車を進める。


街の中から門に向かう時、移民の集団だと知っている者たちは馬車の集団や騎乗して護衛をする騎士に手を振ったりしてくれるが、知らない者たちは馬車の集団とそれを護衛する騎士をみて驚きぽかんと開けた間抜けづらで通り過ぎるのを見ていた。


門を超えると馬車の集団は速度を増し、すぐに街を囲む壁が見えなくなっていった。


「なんだかんだ言ってあの街にも数か月いたんだよな」

「そうですね、離れるのも寂しい気持ちもありますね」


感傷に浸りながらも俺たちは西へと続く道を進んでいった。


早朝に街を出て夕方には西の村に着くと、村ではノアから引き継いだ新村長が出迎えをしてくれて、軽いもてなしを受けた。

留学生の中にこの村出身の者が居たらしく、村人たちと楽しそうに話したり、家族を紹介されたりという一幕もあったが、他のみんなは初めての旅で疲れているだろうとすぐに切り上げて空き家や村長の家、それから空き部屋を提供してくれた村人の家で休んだ。


西の村を出て数日、立ち寄る村々でもなぜか盛大にもてなされていたので、不思議に思い聞いてみる。

すると先行して出発したマッツォたちが、数日後にアブド領主が移民団を従えてくると触れ回っていたという。

その際に移民団の食糧補充のための代金を多めに前払いして、日用品などを無償で置いていたという。


「無料でものを置いていくとは商人としてどうなんだ」

「そこはそうでもないのではないかと思いますよ」


俺の言葉にアリサが答えて説明をしてくれた。

近い将来、うちのアブド領とオリビア領で交流が始まると見ていて、交流が始まればこの村々に必ず立ち寄るので最初に印象を良くしておけば次から来る商隊や移動する旅人の対応も変わってくると踏んでの先行投資のような物ではないかという。

俺は後々の事を考えての行動だとしたらこれもありなのか、と納得する。


そんなこんなでイージ子爵領の領都に到着したのだが。


「何でここにヘントン王子殿下とミリア王女殿下がいらっしゃるのですか」


そう街の門をくぐるとすぐに領兵に囲まれてあれよあれよという間に移民団も含め全員が領主館に連れて来られたのだ。

そして領主館の入り口でヘントン王子とミリア王女が笑顔で立って待っていたのである。


「ようこそ、アブド男爵、いやアブド子爵と呼んだ方が良いかな」

「は?私は男爵で子爵では・・・」


ヘントン王子の言葉に俺が返すも途中で遮られ、何やら書状を差し出された。

それを読んでみたまえ、と言うので封を外しその場で広げて読むとそこにはこう書かれていた。


アブド男爵の功績により爵位を男爵より子爵に陞爵するものとす。

なお功績は以下の通り。

一、領地運営にて税収の増加による王国への貢献。

二、イージ元子爵のオリビア王女監禁事件において、オリビア王女の救出と保護。

三、ターブ元準男爵の悪事の暴露により査察官のヘントン第一王子への協力と貢献

以上、この書面をもって子爵へと陞爵するものとする。


「なんですと!?」


俺が書状を読み終わり驚くと笑顔の王子は肩をポンポン叩きながら「おめでとう子爵」と言っていた。

『そもそもこれすべて俺の力では無い、だからこれは受け取れない』と言おうとしたら先に王子から、国王自らお書きになって署名をした書状を受け取らずに拒否するなんてしないよね、と笑顔で言いつつも目が笑っていない。

これは素直に受け取った方が良いと直感的に感じた俺は


「ありがとうございます、つつしんでお受けいたします」


という事しかできなかった。













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