第25話 王女の領都へ帰還



「これはおいしい、なんだこれは。なるほど、これならうちの者が作った料理などおいしくないと感じるのは当たり前だな」


アリサとケイコが作った晩御飯を食べつつ昼の事に納得する王子が居た。

その横では王女二人がこれでもかと口にほおばり、王子の言葉に頷居ているが、多分内容は頭に入ってないだろうなと思いながら、俺もご飯を食べる。


今日のご飯はベーコンと野菜のトマトシチュー、来る途中で近衛兵が倒した獣の肉で作ったハンバーグ、それに村長からいただいたパン。

ハンバーグにした以外の獣の肉は従者や近衛兵、それに村のみんなに分けられた。


村人も最初身なりの良い騎士が大量に来た事で警戒していたが、馬車から俺とアリサとケイコが降りてくるのを見て安心したのかちらほらと顔を出してきてくれた、そして肉や保存食を村長に渡し分配が終わると、村人は近衛兵たちが泊まれる建物やテントが張れる場所を案内したりと積極的に動いてくれた。


翌日は王子が村を見たいと言い、村長の案内で畑などを見て回り夜は少し離れた草原で近衛兵が訓練中に遭遇して倒した獣の肉を焼いたり、村人が焼いてくれたパンを使ってケイコとアリサでサンドウィッチを作り、村全体で宴会が行われた。


「こういった食事は初めてだがいいもんだな」


従者によって安易テーブルが設置されたが、「どうせならおれもみんなと同じように食べる」と王子の一言で王子たちを中心に広場で座って食事をとった。

最初は俺たち一行を王子と王女に貴族、それを護衛する近衛兵という身分に村人たちは近づきがたい雰囲気を出していたが、子供を中心に王女やケイコたちが仲良くなって次第に輪ができて、今じゃ村人や近衛兵が入り混じって料理を食べ酒を酌み交わしていた。


そして王子はノア村長と領地の方針などについて話していた。


「やっぱり民が元気でないと領地、ひいては国は潤って行かない、締め付ける政策は駄目なんだ・・・」

「たしかに、ですが上に立つ者には堂々とそして強者の風格を見せていただかないと民もついて行かないかと・・・」


俺は横で聞いては頷くだけだったが、二人の話には共感できることも多く、勉強になった。


宴会が盛り上がってきた時に王子から言われたことをノア村長から村人に伝えられた。

税の軽減の事を伝えると、村人はこれからは余裕ができると喜んでいた、他にもノア村長がこの領地の代官になるため領都に行くため後継者を決めることを話すとあちこちから惜しむ声が聞こえてきた。

それだけノア村長が村人から頼りにされてたんだなというのが伝わってきた。


数日村に滞在した後、ノア村長は引継ぎなど終わり次第領都に向かう事にして、俺たちは王女の領都に戻ろうかとしていたが、王子と一部の近衛兵だけはこのまま西のイージ子爵領に向かうため別行動になると言われる。

王族の仕事だからというので詳しく聞かずに、俺達と王女二人で戻ることになった。


「アブド男爵、楽しかったよ、今度会う時は王宮で行われる陞爵のときかな」

「さすがにそれは無いかと思います。私なんかが陞爵なんてありえませんよ」


俺は否定するが王子は笑いながら「謙遜を」といいながら馬車に乗ってイージ子爵領に向けて出発していった。


「さてわたくしたちも出発いたしましょう」


ヘントン王子の一行を見送ると今度はミリア王女の一言で俺たちも領都への帰還の途に就くのであった。

来る時は俺とアリサは王子の馬車だったが帰りはオリビア王女の馬車に俺とケイコと女神様が、ミリア王女の馬車にはアリサと侍女が数名乗る形となった。



「ところでパルミール様はいつまで地上にいるのかな」

「えっと、それはその・・・」


帰りの馬車でケイコの一言に視線をそらし冷や汗をかき始める女神様にみんなの視線が集まる。


「もしかして、帰れなくなったとかはないですよね」

「そ、そんな事ないわよ、いつでも帰れるのよ。でももっと地上の事を見てからでもいいかと思ってね。ほら、そうした方が女神として色々とやりやすいでしょ」

「そうですか、帰れなくなったのですね」

「・・・」


ケイコの一言に女神様はうつむき目に涙をためてプルプルと震え出した。

次の瞬間顔をあげたかと思うと、


「そうよ帰れなくなったのよ、天界からは呼ばれていないのに勝手に出て行ったからって罰で50年帰還できなくされたのよ。だから、だから・・・」


女神様の言葉にみんな静かになってしまった。


「帰れなくなっても、べつに今と変わらないんじゃないか?帰れるまでうちの客人として過ごしていればいいわけだし。なっ」


流石にこの空気は居心地悪かったので場を何とかしようと思った事を言ったのだが、なんだかみんなの視線が痛い。


「リゲル様、さすがにもっと言い方があるかと思いますよ・・・」

「うっ、ごめん」

「まあまあ、ケイコ様もアブド様もその辺にしてくださいな。女神様、いざとなったら私を御使いだという事にして王宮でも私の領地でもいてくださって構いませんわ」

「うん、ありがと」


まだ落ち込んでいる女神様をみんなでなだめながらも、この話題はもう出さないようにしようと三人で目を合わせて誓い合った。

そこで俺は思い出す、イージ子爵領でオリビア王女の事を女神の御使いだって公表したことに・・・。

そして今これ言ったらめんどくさいことになるだろうなと黙っておくことにした。


そして夕方には無事に領都に到着した、俺たちはこの度の疲れをいやすために館に戻りゆっくり休むことにした。













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