第2話 謎の少女
「おーい」
「・・・・・・・」
目の前の少女は呼んでも返事は無く、ぶつぶつと何かを呪文のように呟いているだけであった。
「おいってば、どうしたんだよ」
少女の肩を掴み揺すると、はっと気づいたように顔をあげてこちらを見た。
「どうしたんだいきなり」
「えっ、いや、何でもございません、いきなり御貴族様に会ったもので・・・」
どうも俺が貴族だと知ってびっくりしてしまっただけのようだった。
たき火の近くに移動して、アリサが火を焚きお茶の準備を始めたのを見て話し始める。
「一応俺は男爵で領主だが、この地は名産も無い辺境の地でな、俺も何のとりえのない貧乏貴族なんだわ、だからそんな畏まらなくていいぞ、ははは」
「リゲル様、初対面の、しかもこのような少女に言うようなことでは」
「ん?だって本当の事じゃないか」
「ですが・・・」
「えっとこのうるさい奴がベックでうちの執事兼護衛だ」
「うっ、うるさい奴!?・・・」
ベックの言葉を無視して少女に順番に紹介をしていく。
「これはどうもご丁寧に、私は、
少女はそう言うときれいな所作でお辞儀をして来た。
「家名持ち!!ケイコ嬢はどこかの国の貴族令嬢だったのか?」
よく見れば身なりも綺麗だし、着ている服なんてこの国では見たことない高級そうな生地で作られた物だった。
「いえ、私は貴族でも貴族令嬢でもございません、ただの平民です」
「えっ、そうなのか?」
この大陸で家名持ちなんて王族か貴族しかいない、各国の王族でながのなんて家名は知らない、という事はどこかの貴族かと思ったが、それも違うという。
「私の国は遠くにあり、そこでは平民も家名を持つことが許されているのです」
「なるほど、『海の先に別の大陸があると聞いたことあるが、そこから来たのだろうか』ところでケイコ嬢は・・・」
「あっ、けいこでよろしいです、私は平民なので」
「そうか、ではケイコ殿とでも呼ばせてもらおう、それで、なぜこのような所で生活を?」
俺の問いかけにケイコは何やら考えるしぐさをして、
「えっと、祖国で魔法の実験中に暴走しましてここに飛ばされてしまいまして、行く当ても無くてここで生活をしておりました」
「「「まほう!?」」」
その場に居る人全員が驚く、この大陸では魔法が使えるのはごく一部、しかもその者たちも長年訓練などをして初めて『多少は実務で使える』程度、それも剣や槍に弓を同じだけ訓練した者には戦闘で全く歯が立たない程度なのだ、それをこのような幼い少女が研究・実験が出来るほどの魔法が使えるというのには驚いた。
「ケイコ殿はその若さで魔法の研究や実験ができるほど使えるのか?」
「えっ・・・」
俺の問いにまた何やらぶつぶつ言いながら固まってしまった、何か失礼な事でも言ったか?と内心ビクビクしてくる。
「えっと、この国でも魔法を使える方が居るのではないですか?」
「居るがごく一部で、長い訓練を得てまともに使える者は高齢な方が多い、この国でも若くても40代くらいですな」
しばらく考えた後のケイコの問いに俺が答えると、またぶつぶつ言いながら考え込んでから「そうですか」と一言だけ言ってまたぶつぶつと言いながら固まってしまった、多分ケイコの考え込むときの癖なのだろう。
「ケイコ様は行く当てがないと言っていますし、御使い様の可能性もございますし、一度館の方にお招きしてみては?」
ベックが俺の耳元でそっと声をかけてきたので頷く。
「ケイコ殿、先ほど行く当てがないと言っていたのだが、もしよかったらしばらくうちの館に来ませんか?、といっても貧乏貴族だから大したもてなしは出来ませんが、ははは」
「リゲル様、一言多いですよ」
「いいじゃないか、本当の事だろうがよ」
俺の提案に少し考えた後ケイコは頷き。
「そうですね、・・・それではしばらくお願いします」
と綺麗な所作でお辞儀をして来た、それを見てこの場にいた者は全員がケイコはほんとに平民なのか?と疑問に思うのだった。
その後はケイコが捕ってきた角ウサギと俺たちが持って来た乾燥野菜を使いケイコがスープを作ってくれて、スープとパンを食べたのだが、今まで食べたどの料理よりもおいしくて俺たちはおかわりをしまくってしまった。
そして食事が終わり時間も遅いという事で今日はここで野営をして明日の朝に帰ることにする。
食事後から村に戻るまではずっとケイコからこの国の事や大陸の事などを聞かれたので、答えられる範囲で答えた、中には俺の知らないようなことも聞かれたりして困る一幕もあったが、ケイコは楽しんでいるようだったので一安心といったところである。
村で一晩過ごして、村長にはケイコの事は秘密にするよう徹底して、領主邸のある町に戻った。
馬車に揺られながらも窓の外を楽しそうにずっと眺めてはぶつぶつ言っていた。
「我が領都『アブドール』へようこそ、ケイコ殿」
そしてケイコをアブド男爵邸に招待したのであった。
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