領主になったけど辺境で貧乏で手に負えません

菊花

【第1章】貧乏領主と転生者

第1話 貧乏貴族の当主になった

新たに領地経営ものを書きました、宜しければ読んでいただけたら嬉しいです。





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俺はリゲル・アブド、15歳で半年前に成人の儀を終えたばかりで何のとりえもない辺境のアブド男爵家長男、だったと言っておこう。

なぜだったと過去形なのか、それは男爵家当主の親父が盗賊に襲われ死んで俺が当主になったからだ。


母は俺が生まれてすぐに亡くなった、4つ上の姉は『私は王太子様と結婚して玉の輿に乗るの、こんな貧乏生活は嫌』といって2年前に家を飛び出したまま、行方知れず。


領地持ちの貴族だからといってお金があるわけではない、うちの領地には、鉱山もない、特産品も無い、肥沃な土地も猫の額ほどしかない、そしてお金も無い、あるのは隣国のラルーサ帝国との国境に深樹の森と呼ばれる大きな森と町と呼ぶには小さすぎる町と寒村が一つだけ。


町にある領主館という名の一軒家(とはいっても三階建てで土地も平民の家の十倍以上はある)には一応の体裁を整えるためにメイドのアリサと執事のベックが居るだけでそれ以外の家臣などいない。

アリサは俺と姉の世話係兼メイドとして、ベックも親父の右腕として長く男爵家に居てくれて、二人とも仕事も無難にこなしてくれる。



そんな俺は領主館でやる事も無くボケーっとしている、なんてことが出来るわけもなく畑で領民と一緒に汗を流す毎日である。


「ぼっちゃ・・・、いえ、領主様自ら畑仕事をなさらなくても」


ベックに言われる。


「どうせ館に居てもやる事ないし、ぼーっとしてれば金儲けの策が浮かんでくるわけでもないだろ、それなら一人の労働力として領地に貢献するのが一番じゃないか」

「ですが・・・」

「とりあえずベック、口より腕を動かしてくれ」

「は、はい、わかりました」


ベックは何か言いたそうだがもくもくと鍬で畑を耕していく。


昼になり領民たちと一緒に具の少ないスープと硬いぼそぼそしたパンを食べ、また畑仕事をする。


ある日は畑仕事、そしてある日は東の隣領への街道の整備、そしてある日は町の掃除、と知らない人から見れば領主なのに何でそんなことを?という事をやって過ごしている。


そんな日々を過ごし半年が過ぎ俺が16歳になったある日、突然深樹の森に異変が起きたと村から報告が来た。


「異変といってもな、調べる為の冒険者の依頼なんて金なくて出せないぞ。そもそも異変とは何が起こったのかきちんと報告してもらわねば分からんっての」


俺は報告書を見ながら愚痴りまくる。


「それでは町や村の狩人たちに見に行ってもらうというのはどうでしょうか?」

「それでもそれ相応の賃金を払わなきゃいけないし、大量の狩人を長時間拘束したら町の食糧も無くなってしまうじゃないか、却下だ却下」

「ですが誰かが見に行かねば・・・」

「だったら俺が行く」

「「ええ」」


俺の言葉にアリサとベックは驚きの声をあげる。


「誰かが行かないといけないんだろ?、だったら俺たちでいけば金もかからないし、何が起こってるかすぐわかるだろ」

「ですが危険が」

「あー、うるさいな、俺だって剣の訓練もしてるしボアくらい倒せるんだ、それにアリサとベックも元冒険者なんだから戦えるだろ、これは決定だ」

「・・・わかりました、すぐ支度します」


そんなこんなで俺たちは森の異変とやらを調べるために寒村に向かって出発した。



深樹の森は浅い場所ならボアや角ウサギとたまにゴブリンがいる程度で比較的弱い魔物しか出ない、奥の方(国境付近)に行くとオークやオーガ、それにフォレストウルフといった強い魔物も目撃されたりするが、めったに浅い地域には出て来ない、来たとしてもはぐれのオークやオーガで1匹程度がほとんど、オークやオーガは頭が悪いから数人で囲んで一斉に攻撃すれば混乱して何もできなくなるので対処できる。


村に着いた俺たちは村長に有って状況を聞くことにした。


聞くところによると、半月前森に一筋の光が落ちたのを数人が目撃したという。


「それで、それは雷ではなく光だったんだな?」

「はい、まさしく一筋の光の柱だったと言います」

「ほう、その方向は?」

「村から見てあちらの方向だったと」

「わかった、では明日見に行ってみよう」


『光の柱が落ちる時、その地に神の御使い様が降臨される、御使い様はその土地を豊かにし、その土地に暮らす人々を豊かにしてくれる。』というこの国、というかこの大陸にはおとぎ話のような言い伝えがある。


ただもう一つ『神の怒りに触れし土地、神が御使い様を使わし破壊と滅亡をもたらす』といった真逆の言い伝えもある。


「鬼が出るか蛇が出るか、そればかりは神のみぞ知る、といったところか」


俺がつぶやくと周りにいた村人は膝まづき天を仰ぎ神に祈り始めた、俺も膝をつき神に祈った。



翌日俺たち三人と案内役に村の猟師で光の柱が落ちたとされる森に入っていく、最初は小動物が多く、次第に角ウサギがちらほら見え始めた頃、森の中に広い空間が現れた。


「光の柱を見た者の話によると光の柱はこの辺りだよな」

「はいこの辺りです」

「そしてこの開けた場所、多分ここが光の柱の落ちた場所で間違いないだろう、みんなこの辺に何かないか調べよう」

「「「はい」」」


開けた場所の真ん中にはたき火と野営をした跡が残っており、まだたき火には温もりがあったためこれを使ってた者はまだ遠くには行っていないと思い、皆に周辺を探すように指示を出した。

そして探し始めて10分もしないですぐに、アリサが何かを見つけた。

確認すると罠であった、それも小動物を捕獲するような物だと猟師やベックが調べた結果を報告してくる。


「となると誰かがここで狩猟しながら生活をしていた、という事になるな」


俺の言葉にみんなで頷く。


「だれ?」


すると背後から声がして慌てて剣を抜き振り返ると、そこには黒髪黒目で年は10歳くらいの少女が角ウサギを片手に立っていた。


「うひゃぁ、まって、切らないで、殺さないで」


剣を構えた俺たちにびっくりして尻もちをついて大慌てで手をブンブン振っている、手には角ウサギを持ったまま・・・。

さすがに害はないと見て剣を収めて、「すまなかった、いきなり後ろから声を掛けられたもので」と説明して手を差し出すと、少女はホッとしたのか、俺の手を取り立ち上がった、それを確認してから挨拶をする。


「失礼した、俺はリゲル・アブド、この土地の領主でアブド男爵家当主だ」


笑顔で言うと少女は何やらぶつぶつ言うだけでそのまま固まってしまった。













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