真実のスパゲッティナポリタン

 どうだった!?とあたしが扉の前で夢心地でいるとやってきて、尋ねる3人。


「ええーと……大きな鏡があったけど、特に何もなかったわ」


 当主とザカリアスは明らかに失望の色を浮かべる。魔王様の方を見ると、ホッとしたような……だけどほんのかすかだが、残念そうな感情が浮かんだことをあたしは見逃さなかった。


 ゴーシュ家からお城へ帰ってから、あたしは言った。


「魔王様に『黒薔薇姫』からの伝言を預かってます」


「は!?どういうことだ!?」


 不審な顔をした。


「私はあなたの傍にいるわ。そして私は私の選択を後悔してないと……言ってました」


 黒い夜の闇のような目を見開く。

 そして今まで見たことのない表情をした。切ないような悲しいような……?


「鏡のところにいたら『黒薔薇姫』と名乗る女性が現れて、そう伝えてほしいって言われたのよ」


「………ゴーシュ家の二人に言わなかったのはマナの判断か?」


 絞り出すような声で魔王様は言う。


「あの場で言わないほうがいい気がしたの……」


 魔王様は無言で、身を翻して、そのまま自室へこもってしまった。なんだろうか?言ってはいけないことだったのかな?でも伝えてほしいと言われたのだし……あたしだけ何も知らないのだから、素直に言うしかなかったのよ。あんな辛そうな顔をさせるなら言わないほうが良かったの?


 なんなのよ……恋人同士とかなの?美男美女で確かに、お似合いだけど!


 少しイライラしながら、自室のドアを開けると、ルドルフが部屋で待っていた。


「おかえりー!お腹すいたよー!」


 ピョコンと犬耳を立てて、起き上がる。ぐっすりと寝ていたらしく寝癖がついてる髪。


「なにか食べたいよ!」


「そうね。あたしもお茶とお茶菓子くらいだったし、何か作るわ。何がいい?」


「スパゲッティナポリタン!クルクルッと巻いて食べたいな」


 魔王様の分を作ろうかどうしようか迷ったけど……『黒薔薇姫』が言っていたことを思い出して作ることにする。


 パスタをお湯たっぷりの鍋で茹でる。

 フライパンにウインナー、ピーマン、玉ねぎ、人参を炒めていく。ジュワジュワと焼ける具材たち。


 パスタと具材をケチャップで絡めていく。

 

 ワクワクしながらルドルフが頬杖をついて待っている。


 鉄板のお皿を取り出してそこへナポリタンを盛り付ける。その上にポンッと半熟の目玉焼きをのせた。


 鉄板がケチャップソースをグツグツさせている。ルドルフが冷める前に魔王様の部屋に早く持っていくよ!と急かす。


 コンコンとノックする。


「魔王様、スパゲッティナポリタンを食べませんか?」


 食べる…とドアが空いた。


 机に三人分のせる。ルドルフは待ちきれず、一番にクルッとフォークで上手に巻いて口に入れる。


「お、おいしーい!鉄板にくっついて焦げてるところ香ばしくなってて良いね!」


 魔王様は目玉焼きを崩して、絡めて食べる。


「ケチャップソースがまろやかになって、美味しさがプラスになるな。美味い」


 食べる姿を見守る。うん。元気そう……先程のはなんだったんだろう。聞きたいけど聞けない。


 しばらく静かに食べていた。 

 食後に、さっぱりレモンスカッシュをあたしが作って持っていくと、魔王様はどこか上の空だった。


「スッキリ美味しいわよ」


「……ああ」


 あたしの顔を見て、プッと吹き出す魔王様。手を伸ばしてナプキンで口の端を拭いてくれる。


「子どもかよ!ケチャップついてたぞ」


 カーーッと赤くなるあたし。


「『黒薔薇姫』とはぜんぜん違うが、あいつもそんなボケたところがあった。マナ、座れ」


 何故……比較するのだろう?


 ルドルフが何かを察して、レモンスカッシュ片手に部屋から出ていった。


「オレは転生した『黒薔薇姫』を探しに人の世界に度々行っていた。そこで同じ魂だと感じたおまえをみつけた。声をかけようとしたが、できなくて、しばらく見守っていた。そんなときに、いきなり事故に遭っていて……オレが介入せざるを得なかった」


「ちょっと!?ちょっとまって!?」


 なんだ?と話を遮られ、魔王様は片眉を上げる。


「その流れで行くと、『黒薔薇姫』はあたしってこと!?」


「そうだ。オレが見間違うわけがない」


「でもなんの力もないし……鏡のところで初めて喋っただけよ!?」


「ゴーシュ家の鏡は自らの真実の姿を映し出す」


 口がポカンと開いているあたしに魔王様は続ける。


「魔王候補の一人であった黒薔薇姫は勇者一行がやってきて戦い……魔界と人の世界の空間のほころびを閉じようとして力を使い果たした」


 オレもその場にいたんだ……と、どこか悔いるような表情をした。

 これ以上、あたしも驚きで疑問もあったけれど、聞くことはできなかった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る