魔力増幅のカツ丼

 魔王様が難しい顔をしていた。いつもよりピリピリしている。

 

「反乱が起きた!ちょっと行ってくる」

  

「大変ね……ちょうどカツ丼できたところだったのに……」


 あたしの持ってきたお盆に目を落とす。しばし沈黙。


「オイ。ルドルフ、天馬と剣を用意しとけ。後、サシャには軍を集めて置くように言っておいてくれ」


「えー!僕が!?ずるっ!魔王様ずるいっ!」


 座ってカツ丼を食べだす魔王様。


「これには理由があるんだ!さっさといけ!使い魔なら命に逆らうなよ」


 ブーブー言いながら、ルドルフが役目を果たすために走っていった。


 先にお肉、次にご飯。トロリとした卵を絡めて食べる。高速でかきこみ立ち上がる。


「よし。力が湧いてくる!じゃあな!オレが留守の間は絶対にルドルフといるんだぞ?」


「わかってるわ。気をつけていってらっしゃい!」


 バサリとマントをひるがえしたかと思うと姿が消えた。魔法だ。便利だなぁと見送る。


 しばらくしてルドルフが帰ってきた。カツ丼の残りを二人で食べる。


「出来たてが良かったのになー」


 そう言いつつも、ルドルフはぺろりと平らげた。

 

 食後、書庫に行きたいと言うとルドルフが横並びになってついてきた。


 魔王様専用の書庫はすごい!もう広さで言うと学校の体育館くらいはある。あたしの好きな場所だ。


 ところどころランプに照らされ、机が何脚か置かれて、棚も階段も金色と茶色を基調とした配色がされている。落ち着いた部屋。


「文字は日本語じゃないのに読めるのよね。不思議だわ」


「会話も普通だしね。お互いに言語を変えてるわけじゃない。僕らもマナの世界へあそびに行ったら言語を変えてないよ」


 ルドルフがそう言う。


「そもそも魔力の弱い魔族は姿、形もマナの世界では保てない」


「その理屈でいくと、逆パターンであたしがこの魔界で姿を保てるのはなんでなんだろう?」


「そのへんは魔王様にでも聞いてみたら?」


 めんどくさくなったのか、ルドルフはそう言う。


 あたしは本を何冊か選んで読む。料理本が多い。……でも参考になるような。ならないような。火トカゲのスープとかもしかして喜ばれる絶品グルメなのかもしれないけど、私が味見したくないから却下。


 それでもどんな料理があるのかは気になるので読みふける。


 魔王様達は意外と早く帰還した。と、いうか……今までで最速!?


「いやぁー、今回の魔王様、めちゃくちゃすこかったな!」


「強すぎる!!見たことない!!」


「かっこよすぎだろ」


 ザワザワと兵たちが帰ってきて話している。あたしとルドルフは魔王様を迎えに来た。魔王様は血しぶき一つかかっておらず、行った時のまま涼しい顔で現れた。後ろにいるサシャも同様だ。


「うん?なんだ?出迎えか?」


「早かったでしょう?」


 二人はそう言うと目配せして、ちょっと来い!と魔王様があたしを自室へ呼ぶ。


 こ、これは恋の告白!?まさか!?

 胸がドキドキとしてくる。


 すごい真剣な顔である。……でもサシャとルドルフも着いてきてるのが気になります。


「マナ……実はな……話しておく必要がある。おまえの……」


 部屋についた途端、私を真っ直ぐと見て口を開く。これは確定だ!私は叫んだ。


「魔王様!私も好きですっ!」


「……何言ってるんだ?おまえの作る料理についての話だ」


「はぁ!?」


 魔王様は黒曜石のような黒い目を呆れたように半眼にし、話し出す。


「あのなぁ……。真剣に聞けよ?おまえの魔力は高い。それが余りに余ってるのか……自然と料理に魔力がこめられてる。ここ一年食べていて感じていた」


 魔力!?料理に!?


「な、なんで!?あたしは普通の人なのに!?魔法使えないわよ!」


 サシャが溜息をついた。なにかを知っているような雰囲気の3人。


「実は魔王様、あなたが事故に遭われたときに思わず攫ってきて、回復させるときに自分の血を飲ませてしまったのです」


「うえー!?血?……不味そう」


 思わず舌を出す。


「おまえーっ!ふざけんなよ。助けてやったのにそんなリアクションかよ!オレの血はめちゃくちゃ貴重なんだぞーっ!他の魔族が口から手がでるほどほしいものなんだ!……まぁ、それはともかく、治癒魔法など使えんからしてみたら、思いのほか効きすぎてな」


 ルドルフが魔王様の説明につけくわえる。


「だからマナは魔界でも姿、精神などを保てるってわけだね」


「さらに眠っていた魔力を起こしてしまったわけだ」

 

 なんでもないことのように言う魔王様。


「魔王様がわざわざ専用の部屋を作って出ないようにしたり、ルドルフを護衛につけたりしたのもマナの身を守るためなんですよ。あなたは魔王様の魔力とあなたの魔力が混ざって強力になっているため、その血を飲めるなら、魔族にしたらレベルアップのチャンスですからね。またその体ごと乗っ取りたいと思う魔族もいるでしょう」


 サシャが説明する。あたしがよほどドン引きし、顔色が悪かったのだろう。

 魔王様が察して言う。


「大丈夫だ。守ってやる」


 きゃー!かっこよすぎ!と言いたいところを魔王様はぶった切るように付け加える。


「カツ丼はやばい。やばすぎるぞ。カツ丼はオレ以外には作るな!何を考えて作った!?」


「えーと……受験前の必勝って感じのイメージなのかも…」


 受験!?私の返事に3人はどんなイメージだ?と首を傾げた。


 ……とりあえず、料理をすると私のイメージが魔力となって食事に効果を付与してしまうようだ。メニューに気をつけようと思ったのだった。


 

 

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