片想いのフルーツパフェ

 魔王様には婚約者がいる。時々、魔王様のお城へやってくる。


 ホワイトアッシュの長いウェーブの髪に赤いルビーのような目。胸は大きく女性の魅力が有り、気圧される程の美人さんである。


「アナベルのために何か気に入るものを作れ」


「かしこまりました」


 あたしは魔王様の命を受けて調理場に立つ。婚約者のアナベル様が気に入るものを……か。

 

 平気であたしにそんなことを言えちゃう魔王様はあたしなど恋愛対象の眼中にすら入っていない。…片想いの辛さよ。

 

 いやいや!しっかりしてあたし!そんなことを考えている場合ではない。今は仕事中です。女の子の好きなものと言えばアレでしょ。


 冷蔵庫からフルーツを出して切る。りんごはウサギさん。バナナは輪切りで細かく。オレンジの皮に食べやすいように切り込みを入れる。キウイフルーツもあると色のバランスいいかしら。


 透明なグラスにコーンフレークをサラサラとスプーン2杯ほど。バナナを入れる。生クリームを間に挟む。アイスクリームディッシャーでバニラアイスとストロベリーアイスを丸く作ってのせた。そこにさらに生クリーム。

  

 カットされた果物を飾っていく。おっと、ブドウも丸くて可愛いから忘れず盛り付けよう。いちごはヘタのところを切り込み、ハート型に。


「かわいすぎる!」


 自画自賛してしまったが、カラフルなフルーツパフェは思ったより豪華で色とりどりだ。


 スマホがあれば写メしていたところだ。家庭の経済状況的にスマホは持ったことないけどね。


 1つのパフェを二人で食べれるように……なんてことはさせない!そこまでお人好しではないと、ちょっと反抗的になってみる。

 

 お盆にドーンと二人分にしては大きいパフェをのせて運んでいく。


 アナベルが妖艶な赤い唇をニッコリとさせた。


「まぁ!素敵だわ~っ!魔王様、アナベルのためにありがとうございます」


 表情を動かさず、魔王様は食べろと言う。可愛すぎたかしら?魔王様にはこの可愛さ合わないとクスッと笑いたくなった。


「美味しいですわ!」


 それは良かったと魔王様は感情のあまりない声でそう言う。あたしは失礼しますとお辞儀して去る。


 とりあえず婚約者のアナベルは喜んでくれたようで、役目を果たせてホッとする。


 可愛いパフェを目つき悪い無愛想な魔王様が食べるところを見たかったが、ずっといるわけにはいかない。


 廊下へと行き、階段を登った上の窓から二人が座る中庭のテーブル席を眺める。どんな話をしてるのだろう。


「遠いなぁ……」


「やれやれ、懲りないですね」


 後ろから声を掛けられるが驚かない。声で誰なのかがわかる。


「サシャ、いきなりレディの後ろに気配なく立つのは無礼だと思うの」


 ダークブラウンの髪に紺色の目をしている青年。人型の姿をとれる魔族は力が強い。サシャは魔王様の護衛係であり、右腕と言われるだけあって、かなり強い。


「なにがレディですか。子どものくせに……」


 呆れたように言われる。


「言っておくけど、そんな子どもじゃないわよっ!?」


 どうも魔族に比べると、子どもっぽく、体型もチマッとしてるので、年齢よりかなり若く見られ、子ども扱いされてしまう。


「魔王様から頂いた、使い魔のルドルフはどこへいったんですか?」


「食材買い出しに行ってくれてるわ。そろそろ帰ってくるかしら……」


「魔王様の使い魔を買い出しに使うなんてあなたぐらいですよ。後、わたしのことをサシャと呼び捨てにして堂々たる態度なのも……力無き人間のくせになかなかの人ですよね」


「だって、怖いところは見たことないもの。実感沸かないわ。私は自分の目で見たもの、耳で聞いたものしか信じないわ」


 やれやれとサシャが肩をすくめる。あたしは頬杖をついたまま、魔王様とアナベルのパフェを食べる姿を窓から眺めていたのだった。




 


 



 

 

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