魔王様に恋する料理人!

カエデネコ

始まりのカレーライス

 手にはオタマ、頭に白い三角巾、エプロンを身につけて、声をあげた。


「今日のメニューはカレーライスです。トッピングにトンカツ、唐揚げ、エビフライ、半熟たまご好きな物をのせてください」

 

 わー!カレーライスの日だったぞーーっ!と食堂が盛り上がっている。カレーの日はみんなのテンションが上がる。


「ちゃんとリンゴとキャベツのシャキシャキサラダも食べてください。野菜も大事ですっ!」


『はーい』


 可愛い光景と会話から想像できただろうか?決して小学校の給食時間の風景ではない。


 実際のところはおどろおどろしい。


 食堂のテーブルについているのはコウモリのような翼、鬼のような角と牙、半獣人たちなど全体的に黒い。真っ黒だ。魔物、魔族と呼ばれる種族たち。


「なんでコイツらの分まで作ってるんだ!?」


 後ろから声をかけられた。

 食べていた魔物たちは手を止め、声を上げた。


『魔王様ーーーっ!!!』


 ギロリと睨みつける魔王。ヒイイと怯える魔族たち。


 夜よりも暗い色をした艷やかな長髪を一つに纏め、黒曜石のような目は綺麗だが目つきがいつも悪い。高身長で顔立ちも美しい。


 日本人の私も黒髪黒目だけど、黒の色合いの深みがある。顔立ちもはっきりとしてて羨ましい。


「魔王様のはちゃんと作って先に出したじゃない。睨まないっ!みんな、怖がってるじゃないの」


 あたしにピシャリと言われて不機嫌そうになった。


「オレだけの特別な料理が良いんだ」


「今日は魔王様の好物のカレーだけど、みんなも大好きなメニューなんだもの。心が狭いわよ」


 なんだとー!と言っている心の狭い魔王様に私は1年前に召喚された。


 スーパーのタイムセールに間に合わない!と駆け出し、横断歩道を渡ってる……その先の記憶がない。


 魔王様いわく、事故にあいかけたところを魔界へ転移させて助けてやったんだとのことだ。

 

『ありがたくおもえ』そんな上から目線であったが、あたしはいきなりの出来事に驚いたけれど『ありがとう』そして『帰りたくない!』と言ったのだった。


 あの時の魔王様の顔は忘れられない。せっかく目の保養になる美しい顔が驚きすぎて崩れていた。


「なんで他の者に作る必要があるんだ。オレ様専用でいいじゃないか」


 ブツブツと拗ねたように文句を言うので、あたしはニッコリと微笑んでいった。


「魔王様には特別にデザートも作ってあるのよ。カレーライスは食べられましたか?」


「なんだと!それを早く言え!もうカレーは食べた!」


 慌てて、自室へ帰っていく。


 あたしは冷蔵庫からよく冷えたグラスにのっている物を出して持っていく。


「イチゴババロアです。辛い物の後に甘い物は合いますよ」 


 いちごも横に添えて出す。


「………うまい」

 

 怒り顔が優しくなった。

 この顔があたしの好きな彼の顔である。美味しい物を食べると柔和な表情を浮かべる。


「魔王様が気に入ってくれて、良かったです」


「二人のときは別に名前で呼んで良いと言ってるだろう?律儀なやつだな」


 それはできませんと笑う。名前で呼ぶ時は……あたしの魔王様への片想いの恋が実った時と決めているのだ。


「じゃあ、名前で呼ぶので、恋人になってください」

 

「ムリだ。人間と魔族は結ばれん」


 アッサリと断られる。このやりとりを1年前からずっとしてる。平行線のままなのだ。

 

 あーあーと残念そうに声をあげるが、城から追い出されず、元の世界に帰されないことに感謝はしたい。

 

 魔王様から離れて自分の居住空間へと戻る。


 広い調理場、居間が2つ、寝室、お風呂とトイレは別。高級マンションの一部屋のようである。わざわざあたしのために作ってくれた部屋だ。


 窓から外を眺めると、朝と夜が半分ずつの空が見えた。周囲は黒い森。不思議な景色。


 一人の時間なんて、元いた世界では持てたことはなかった。


 10人兄弟妹がいる家に生まれて、毎日毎日学校から帰ってきたら洗濯、料理、弟と妹のお世話係だ。学校の宿題をかろうじて終わらせて、人がギュウギュウの部屋でクタクタで眠る。そんな日々。


 今は好きな料理を楽しみ、一人の時間と空間を持ち、恋愛までしている!かなり贅沢と言える。


 何かこの世界で生きていくためにお仕事をして稼がなくちゃなと思っていたら魔王様から得意なことは?と聞かれて料理ですと答えると『それならばオレのための料理人になれ』と言われたのだった。


 そこからあたしは魔王様の専属料理人として働くことになったのだった。



 

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