甲子園用

@nya-nya-

第1話


 炎天下の中、僕は日陰一つない丘の上で線香花火に火をともしていた。

 火の玉が落ちるころ僕はようやく夏の出来事を理解した。

 

 それは、過ぎた夏を消化しきれなかった日のことだった。

 倉庫の整理をしていたら去年の花火の残りが出てきた。

 「なんで今出てきちゃうのかなあ」

 深いため息とともに横を見るとそこには今朝買ってきたばかりの花火セットがある。

 「余っているのは線香花火だけか......」

 今年もどうせ余るであろう線香花火をわざわざ取っておく必要がないと感じた僕は、家の裏手にあるごみ箱に向かう。

 だが急に使わずして捨てられる線香花火がかわいそうに思えてきた。

 昼間に花火をしてみたいという好奇心もあったのだろう、僕は家の近くの公園にバケツと花火を持って向かった。

 

『花火禁止』


 公園にはできたてほやほやの看板があった。

 そういえば先日大学生が深夜に公園でバーベキューをしながらありったけの花火を打ち上げて自治会で問題になったんだ。

 大学生になってもそんなことをするやつがいるのかと思い、深い溜め息が出る。

 しかし、花火をしたいという気持ちはなかなか収まらない。

 一度家に帰り母親に尋ねる。

「お母さん、ここらへんで花火できるところってあったっけ?」

「たしか、高校の裏手にある丘のところならできたはずよ、火事にだけは気をつけてね」

 軽い注意を聞き流しながら丘に向かって歩く。

 肌を突き刺すような日光を浴びながら。


 暑い中熱を発する棒を持つのは自殺行為とも言えるかもしれない。

 僕にマゾヒズムの癖があったとは、苦笑いしながらひをつけ続ける。


「ねえ、おねえ...お兄さん何してるの?」


 頭の上から声がし見上げると、そこには可愛らしい麦わら帽子を被った女の子がいた。

「花火をしているんだよ」

「こんなに明るいのに?」

「こんなに明るいからさ」

「花火って夜にやるものでしょ?」

「一体それは誰が決めたんだい?」

 質問を質問で返す会話が続く。

 バチバチバチバチシュボッ

 細い糸の先から真っ赤な光が落ちる。

「夕焼けみたい......」

 女の子はそうつぶやく、なるほど夕焼けか。

 朽ち果てた木の先のようになった線香花火の残骸をバケツに放り込み立ち上がる。

 女の子は立ち上がって見るとそこまで身長は変わらず、雰囲気から年が近いようにも思える。

 おそらく麦わら帽子イコール幼いというイメージが自分の中で勝手についていたのだろう。

 少女がかぶっている麦わら帽子はとても華やかなものだ。

 赤いリボンを主軸にきれいなひまわりや名前も知らない花々が散りばめらられそれはまるでティアラのようだった。

「お兄ちゃん私にもやらせて」

 そう言って僕が許可を出す前に少女は線香花火に火をつけていた。

 やれやれ、困ったもんだこれで火事になったりしたら僕も責任を取らされるんだぞ。

 そして僕は残りの線香花火をすべてを手に取り火をつける、その様子は少女の言うように語るのであれば世紀末のようだった。


「ねえ、君は何歳なの?」

「私?私は16歳高校一年生よ」

 どうやら少女は僕の一個下だったようだ。

 それにしてはあまりにも幼く感じる、中学1年生と言われても僕は納得するだろう。

 そして少女の線香花火に日没が訪れる、すべての線香花火を消化し終えたとも言えるだろう。

「ねえ、お兄ちゃん線香花火はもうないの?」

「もうない君が使ったのでもう最後さ」

 まあ、僕がさっきふざけずに一本ずつ使えばまだ残ってただろうけど。

「とりあえず帰ろう、こんなに暑いと頭がやられちゃうよ」

「そう、お兄ちゃんまた明日」

 僕は後半の聞き流し、じゃあねとだけ告げてバケツを持ち家に帰る。

 けたたましいセミの大合唱をBGMに歪んで見えるアスファルトの上を歩く。

 ボンネットで目玉焼きが作れるんじゃないかと感じる暑さにイライラしながら、花火の残骸を片付け家にはいる。

 そこには文明の風が吹いていた白い長方形の箱から流れる心地よい風は僕の体を冷やしてくれる。

 また明日といった少女は明日もあの丘にいるのだろうか? そんな疑問がよぎったがそんなことよりもアイスが先だと冷蔵庫を開けた。

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