ハラハラドキドキ・チキンレース
そしてこうなれば最後だったのか、今では最早「誰が何を言ったか」なんてことを問題にする人は、世間からいなくなってしまった。
以前は規制されていたSNSや広告、漫画、映画といった娯楽も、世の為かなんなのか緩和されていったし、またいっその事とち狂った方がマシとも言うように、痴漢、万引き、強盗、ひき逃げ、殺人だって増えてきた。
私の妹が引きこもったのも、同級生から受けた強姦未遂が原因だったらしいが、私にはその同級生に罰を与えられる気力がないし、また彼らにも、罰を受ける余裕はない。
私たちサイコパスは、今わの際目がけて全力疾走するハラハラドキドキ・チキンレースで、一人ひとり忙しく生きている。
しかしこうはいっても、あれからの私自身に、大きな変化があったわけじゃなかった。職場で多少の異動があったのと、定期的なカウンセリングがなくなったのとくらいで、ちょっとの期間通院してからは、社畜たる毎日を続けていた。
もちろん、私だけのサブスクも続けていた。本来なら通院も続けたかったけれど、どうやら私よりもよっぽど大変な、不幸の瀬戸際を歩く人が大勢いるようで、首の痣がなくなってすぐに、追い出されてしまった。
また一度だけ、職場の先輩から治験バイトに誘われて参加したことがあったが、それも大したことはなかった。ブルーバードの失脚で、医薬品業界の諸企業はまたとないビジネスチャンスに直面したらしく、それも新サプリメントの臨床試験だったのだが、私にはいまいち、ブルーバードとの違いが分からなかった。
確かに臭みがなくなって、ちょっと飲みやすくなったとは思った。
ただ治験後のカウンセリング会場付近、涙ながらに叫び続けるデモ行進を見て、「この人たちは長生きできるのか」と考えた自分を憎んだきり、もうどうでもよくなった。
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