ナンテン


 赤い瞳がきらきらと輝いていました。


 それは小さなウサギの瞳でした。


 その目の前には一面に、白い雪が広がっていました。


 雪に反射した陽の輝きが、小さなウサギの瞳にも映ったのでしょう。


 小さなウサギが白い息をはきながら、後ろをふり返りました。




「お母さん! みて! 白いのがきらきらしてるよ! 冷たいの!」




 白い毛に雪をからめたまま隣に戻ってきた小さなウサギに、お母さんはそっと身をよせて、きらきら輝く雪のしずくをはらってやりました。




「雪だよ」


「雪?」


「そう。冬になったら雪が降るの」


「今は冬?」


「そうだよ。坊やは初めてだったねぇ」




 初めての雪にはしゃぐ小さなウサギがはぐれていってしまわないよう、お母さんはその手をにぎって雪のうえを歩くことにしました。


 ふわふわとやわらかい雪に足をとられてしまう小さなウサギを支えてやりながら、ゆっくり、ゆっくり。


 いっさいの重さを感じないほどにすぐ舞ってしまう雪が、ふたりの白い毛にくっついてきらきらと輝きます。


 ほどなくして、小さなウサギが目を細めました。




「お母さん、目がしばしばするの」


「雪に反射した太陽のせいだろうね。すこし休もうか」




 あまりの眩しさに目をこすってしまう小さなウサギの手をおさえる代わりに、お母さんはその目もとをなでてやりました。


 赤い瞳のまわりが赤くなってしまわないように、そっと、そっと。


 そばにあったナンテンの陰で休もうとふたりが行くと、そこにはすでに先客がいました。




「あれ? だれかがいるよ」




 小さなウサギが目を丸くしました。




「あれはだれかじゃないよ。雪だよ」




 お母さんはほほえみました。




 自分たちと同じ赤い瞳に白くて丸いからだ。

 ひとつ違うのは、長い耳のみどり色。


 そう、それは雪うさぎでした。


 小さなウサギはそれを仲間だと思ったのでしょう。


 お母さんの言葉に首をかしげました。




「人間が雪でつくった私たちだよ」


「雪でつくったぼくたち?」


「そうだよ」


「かわいいね! これはぼく? お母さん? ひとりしかいないよ」




 そう言って、小さなウサギが雪をこねはじめました。


 けれど、ふわふわとやわらかい雪はさらさらと、その小さな手からこぼれていくだけでした。


 小さな赤い瞳がしょんぼりしてしまう前に、お母さんは雪うさぎのよこに雪のおやまをつくりました。


 雪がべったりついていまった小さな手をはらってやって、ナンテンを指さします。




「坊や、あの赤い実とれるかい?」


「うん!」


「あと葉っぱもね。ふたつずつお願いね」


「うん!」




 元気よくうなずいた小さなウサギがたっと駆け、やわらかい雪のうえ、ぴょんぴょんと懸命に手をのばします。


 届くでしょうか。


 お母さんは見守ります。


 ぴょんぴょんと跳ねた指のさきがかすめて、ナンテンがふるっと揺れました。


 お母さんはほほえみました。


 両手に赤い実と緑の葉っぱ。

 ちゃんと、ふたつずつ。


 小さなウサギが嬉しそうにとってきました。




「お母さんの目はここらへん……お母さんの耳はここらへん……できた! これでいっしょだね」




 なんとまあ、小さなウサギが言いました。

 これまた嬉しそうに。


 お母さんはほほえみました。




「坊やの成長をみるたびに『私の愛は増すばかり』ね」




 大小ふたつの雪うさぎのまえで、お母さんはまた、小さなウサギについたきらきらの雪をはらってやりました。



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