おさななじみのきょり

743(名無しさん)

第1話 いつもの下校風景

 電気は付いてなく、太陽のオレンジの光が少し射しこむくらいの部屋で

紙をめくる音が一定間隔で聞こえる。

俺はそよ風が起こす音とその音を聞き、宿題を進める。

いや、外で部活をしている人の声も聞こえている。


 場所はグラウンドにではなく職員の駐車場に面している。

そして、校舎の端と本当に端っこの図書室。

空は沈みゆく太陽が放つオレンジ色の光に包み込まれている時間帯。

太陽光の通りが良くない部屋だが。


 自分なりにおしゃれに言うとこんな感じ。

普通に言えば、太陽の光が当たりにくく、教室から遠い特別教室。


そんな電気を付けていない図書室に俺と桜葉の二人はいる。


電気は桜葉がスルーしたから、俺もスルーしただけ。




宿題があと見開き半ページのとき、声が聞こえた。


「読み終わった」


桜葉の声を聞き、宿題で机の上に出していたものをしまい始める。


桜葉の方をちらっと見る。

仕舞しまった本の近くにあった本の背表紙を眺めていた。気になる本があったのだろう。


 図書室の窓を閉め、桜葉が出たあとに図書室の鍵を閉める。

図書室の鍵を返しに職員室に行く。

桜葉は後ろをついてきて、俺が職員室に入ると、その前で待っている。


こんなことは前にもあって

「先に靴箱で待っててもいいよ」って言ったら

「別にいい。ついて行く」という会話をしたことがある。

別についてこられて困ることも無いから「分かった」と返事した。


 靴箱で靴を履きかえて、帰路につく。

特に会話をすることもなければ、手を繋ぐこともない。


互いに隣を歩く以外何もせず、桜葉の家に着く。


「また明日」

「うん。また明日」


桜葉にいつもと変わらない短い別れ言葉を告げ、返事に浅く頷いて自分の家に向かう。




帰路が変わるとはいえ、

こんな下校を続けてもう九年になる。












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