第3話 おいでませ! 冒険者ギルド!

「ここが冒険者ギルドね!」


 街行く人に聞いたら、冒険者ギルドはすぐにわかった。


 異世界といえば、冒険者!

 冒険者といえば、怪我!


 怪我をした冒険者を魔法で癒やせばお金を稼げるんじゃないかしら?


 上手くすれば大金が……そして飲み放題……!

 夢が膨らむわ!


 私は守護妖精のバッカスちゃんを頭の上に乗せて、意気揚々と冒険者ギルドの扉を開いた。


「おおっ!」


 冒険者ギルドの中は、活気が満ちていた。


 奥のカウンターでは、商人風の人がギルドのスタッフらしき男性と丁々発止でやりあい、右手のテーブルでは革鎧を着て剣を携えた男たちが、何やら打ち合わせをしている。


 私はしばらく入り口からギルド内の様子を観察した。


 すると頭の上に乗せた妖精のバッカスちゃんが、心配そうに聞いてくる。


「マオ。どう?」


「すごく良い! 儲かっている会社と同じ雰囲気だよ」


「会社?」


「えっと、商会のこと」


「なるほど! じゃあ、マオの見立てだと、ここの冒険者ギルドは儲かってそうなんだね?」


「そうね! 良いと思う!」


 転生前は営業OLとして、色々な会社にお邪魔させていただいた。

 その経験でいうと、儲かっている会社や業績の伸びている会社は、社内の雰囲気が良い。


 ここの冒険者ギルドも同じように雰囲気が良い。


 カウンターのスタッフさんたちに笑顔が見られるし、話し声にもハリがある。


 出入りしている商人の服装は、素人目にも仕立てが良さそうな服だし物腰も柔らかだ。

 儲かっている上に、一定の品性や知性を備えている。

 つまり、ここの冒険者ギルドは、客筋が良い。


 冒険者たちもプロの顔つきで、打ち合わせの様子を見ていると、仕事に対して真剣なのがわかる。


 こういう人たちとお酒を飲むと美味しいのよね!


「マオ……お酒のことを考えてない? 子供はお酒を飲んだら、ダメだからね!」


 バッカスちゃんは、優秀な妖精だけあって勘が鋭いわ……。

 きっちり釘を刺してくるのね。


 私は、奥にあるカウンターの一番右手にいるお姉さんに相談することにした。

 彼女は笑顔がステキで、表裏がなさそうだったから。


「あの、すいません」


「えっ?」


 体が小さいから、カウンターから頭が出ない。

 スタッフのお姉さんは、私の声には気が付いたが、私を認識できていないみたい。


「よっ!」


 懸垂の要領で、カウンターにぶら下がり、なんとか両目をカウンターの上に出す。

 お姉さんと目が合った。


「まあ! かわいいお客様! ちょっと待ってね!」


 お姉さんは、カウンターから出てきて、私を椅子に座らせてくれた。

 そして素早くカウンターの中に戻ると、優しい口調で話しかけてきた。


「お嬢様。ご用を承りますわ」


 完璧な対応!

 この人を頼れば大丈夫そうね。


 私は自己紹介をすっ飛ばして、単刀直入に用件を切り出した。


「私は治癒の魔法を使えます。怪我をした冒険者さんたちを治療してお金を稼ぎたいのです」


 受付のお姉さんは、少しビックリした表情をしたけれど、すぐに笑顔で答えてくれた。


「可能です。私ども冒険者ギルドとしても、ありがたいお話ですわ。それで……、このお話を、ご両親様はご承知でしょうか?」


 なんだろう?

 受付のお姉さんは、ちょっと不安そうな表情を見せた。


「いえ。私に両親はいません」


「えっ!? では、お嬢様ご自身が爵位をお持ちなのでしょうか?」


「爵位? 爵位とは?」


「えっ!? あの……お嬢様は貴族では?」


「いいえ。違います。私は平民ですよ」


「……」


 受付のお姉さんは、ジトッと疑いの目で私を見ている。

 何で私を貴族と勘違いしたのだろう?


 まあ、でも、冒険者の治療をしてお金を稼げる!

 まずは、この世界で生活を安定させなくちゃ。


「私は、マオ・チョウタニです。この頭の上にいるのは、相棒のバッカスちゃん」


「冒険者ギルド受付のシンシアです」


「よろしく! シンシアさん!」


「よろしくお願いいたします。あの……家名をお持ちですよね? 本当に平民として扱って良いのでしょうか?」


「良いも何も、私は平民ですって!」


「はあ……わかりました」


 なぜかわからないけれど、シンシアさんに深いため息をつかれてしまった。


 何か色々と誤解されているようだわ。

 私はシンシアさんの誤解を解こうと話し始めたのだが、すぐ大声にかき消された。


「オイ! ヨハンが大怪我をしたぞ!」


 冒険者ギルドの入り口が、大きく開かれて怪我人が運び込まれてきた。


 怪我人は冒険者だ。

 革鎧の上から、ザックリと斬られている。

 血が凄い……。


 ここまで血の臭いが漂ってきた。

 私が少しビビっていると、シンシアさんがにっこりと笑った。


「マオさん。出番ですよ!」

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