最期のサクリファイス

三点提督

最期のサクリファイス

 大好きだったあの子が唐突に息を引き取った。それを聞かされた時、僕は真っ先にその子の家に足を運び、その子が横たえられた場所へと歩み寄った。その子はまるで眠るかのようにその場にいて、僕は自分に、「嘘だ」と言い聞かせた。だが彼女が目を覚ますことはやはりなく、これが現実なのだと言うことを痛いほど知らされ、泣きたくなった僕は、しかしそのつらさを押し殺した。そして、変わり果てたそのむくろに向けてこう言った。

「ありがとう」

絶対に泣かない。彼女にそう誓って、その家をあとにした。その時、


「まって」


 背後から1人の少女の声が聞こえた。振り返ると、そこにいたのは、

 ――そんな。

 彼女だった。彼女は薄く微笑み、僕を見つめていた。そして、「うれしかったよ?」と言ってくれた。

「泣かないで、我慢して、最後にお礼を言ってくれて、私、本当にうれしかった」

 彼女の身体が、爪先から徐々に白骨化していった。その間も、「私はね?」や、「ずっと前から」など、その笑みを絶やさずに、その場から動かずに語り続けていた。もういいから、もうやめてくれ、お願いだから。

内心で願いこう僕の事など構うことなく、彼女は語り、語り、語り、


「好きだよ」


 そう言い残して、最期はその骨諸共砕け散り、

「……僕もだよ?」

 つい先ほどまで彼女がいたそこへと足を運び、残された髑髏ドクロを手に取った。

 心なしか、その目元が濡れているように見えたのは、或いは僕の素直な気持ちの表れだったのかもしれない。

 そして誓った。もう、何があっても泣かないと。

もう、誰も失わないと。

 彼女が、最期の1人だと。

 ごめんね……。

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