19話 お買い物




 生暖かい……ザラとしたものが頬をつたう。


「んっ!」


 ハッとして目が覚める。


”ニャー”


目の前に猫……三毛猫。


「ふぁ~」


大きく伸びをする俺。



≪テンタ君おはよう~≫


「おはようオトア」


 こちらに来てから、三毛猫オトアに起こされるのが


日課になった俺。


 ようやく昨日から、地下室生活から、自分の部屋で生活で


きるようになった俺達。


\コンコン/


俺達の部屋の扉をノックする音が聞こえる。


「テンタ、オトア起きてるか~」


と扉の向こうからトムさんの声が聞えた。


「あ・はい」


俺は三毛猫オトアを抱いてベットから出ると、俺の返事を


聞いて、”ガチャ”と俺達の部屋の扉を開け、


「入るぞ~」


と言いながら、トムさんが入ってくる。


「おはようございます」


≪おはようございます≫


「おう、おはよう」


俺達の挨拶にトムさんが答えながら、


「これな」


とおもむろに、小槌を俺の前に出すトムさん。


「昨日、渡すの忘れてたんだ」


「あ、はい……」


その小槌を受け取りまじまじとその小槌を俺が見ていると……。


「んっ……」


俺が小鎚を渡されその意味が分からないのを察して、


「ああ、昨日の試験、合格だってよw」


その言葉を聞いて、


「ああ」


と俺が納得した顔をすると、この小槌の使い方を説明してくれた。


 トムさんの説明によると、


この小槌は、お金とアイテムを収納したり出したりできるらしい。


お金は、冒険者ギルド協会の銀行と直結していて、入出金ができる


だけでなく、両替もできるそうだ。


 ただ、当然だが出金については預金額以上は出せない。


アイテムなどは、アイテム名を言いながら小槌を振ると出せるら


しい。


 具体的には、 小槌の持ち手を下にして、五芒星のマークを正面に、


右の青いリングが付いた方を下にしてアイテム名を言いながら小槌を


振ると異空間に収納されているアイテムが出てくる仕組みで、収納す


る時は、ただ、そのアイテムの上で振るだけでいいらしい。


 因みに収納されているアイテムは、小槌を握ると脳内にリストが


現れるとか、ついでに言うと、収納されている所が異空間なので、


出来立ての料理などを収納して置くと、冷めないどころか腐らない


と言う利点もある。


 で、その反対の左側のリングがはまっている方を振るとお金が


取り出せる。


 お金の方も小槌を握ると脳内に残金が浮かぶ仕組で、出したい


金額を言いながら小槌を振る。


 なので、違う国の通貨でも、その金額を言えば、両替した状態


でお金が出せる。



(なかなか便利だね)














 冒険者の試験に合格したと言っても、まだ、実技試験がある。


本来冒険者になるには、3ヶ月ほど学院で座学と戦闘訓練を受け


、尚且つ、最終の実技試験を受けなければならないのだが、その


辺は、トムさんのコネと言うか、クリスタル教会からの推薦って


訳で、俺は免除されてるとは言え、最終の実技試験は受けなけれ


ばならない。



 と言うことで、3日後に最終の実技試験を受けるため、冒険者に


必要な道具などを買い出しに行くことになった。


 買いに行くと言っても、今までの俺は1文なしでとても物を自分


で買うことなど到底できなかったんだが……。


実は、今俺は少々お金を持っている。



で、


 なぜ俺がお金を手にできたか?


ってことだけど、それは昨日倒した悪魔の報奨金。


 本来、冒険者は魔物退治などを一般……場合によっては、国や町から


のクエスト(依頼)を受け、そのクエスト(依頼)の成功報酬を手に入


れるのだが、悪魔に関しては、クリスタル教会からのクエスト(依頼)と


なる。


今回、俺は、トム(バルジャンン)さんと共同ではあるが、悪魔男爵


バンバの幹部のベビルデーモン級のデケム(執事風の姿)を倒したって


ことで俺にも報奨金が出たらしい。



ベビルデーモン級の悪魔の報奨金は、


20万クリスタル(日本円で大体400万円)なのだが、その


報奨金が丸々俺に入るわけではない。


報奨金は、クエストの報酬と同等とみなされ。


 クエストは冒険者協会に対して行うため、当然、冒険者協会は自身


の手数料を取る。


その手数料が金額の3割。


200,000÷2×0.7=70,000クリスタル


となるんだけど、そこからさらに、所属チームに2割支払うことになる。


70,000×0.8=5万6,000クリスタル


(日本円で大体112万円)


 一見、引かれる金額が、多いと感じるかもしれないが、冒険者協会は


協会で、各支部の転送魔法円の維持管理費や、小槌システムの構築及び


管理、その他施設の管理費用が掛かるためなのと、チームはチームで、


チームハウスの家賃及び維持管理費や、スタッフの費用(ガンブレイブで


言えばマネージャーのヴィクセンさんのお給料)などの経費に充てるため


らしい。


(まぁ、俺に不服はないけどね)


そのお金は、先ほどトムさんが渡してくれた小槌にすでに振り込まれている


そうだ。











三毛猫オトアを頼みます」


と言って俺は悪特隊(悪魔特捜隊)のオーブ隊員に三毛猫オトアを預けた。


「はい、テンタ君も気を付けてねw」


俺から三毛猫オトアを受け取ったオーブ隊員が俺にそう声を掛ると、


三毛猫オトアを抱いたまま魔法の絨毯で、悪特隊(悪魔特捜隊)本部


へと飛び立った。


 実は昨日、デケム(執事風の姿)に襲われた時、三毛猫オトアが咄嗟に


俺を守ろうとしてバリアーのようなものを張ったのが、三毛猫オトア


ブランチスキル”テンタへの愛”と関係してるか?ってことをウエン・ディア


教授に調べてもらうために三毛猫(オトア)を一旦、悪特隊(悪魔特捜隊)


本部に預かってもらうことになっていた。


 俺は三毛猫オトアとオーブ隊員の乗った魔法の絨毯を見えなくなる


まで見送ると、シェリーさんが俺に声を掛ける。


「じゃ、私達も行きましょう」


「あ、はい」


俺はシェリーさんに促され、買い物に出かけるのだった。












「こっち、こっち~w」


やけに張り切るタミーさん。


今回、俺の買い物に付き合ってくれるのは、シェリーさん、タミーさんに


護衛のCG隊(クリスタル警備隊)のアンヌ隊員。


 ガンブレイブのチームハウスから、歩くこと約20分ほどで、ギルド協会


本部の建物が見えてきた。


この教会本部からまっすぐ南に延びる大通りは、冒険者関係の集まる北区から


、クリスタル教関係並びに商業施設の集まる中央区を抜け、倉庫や工房それに


各支部へと転移できる商業用トランスポート(転移魔法円)がある南区まで


伸びている。



 まずは、この大通り東側にある道具屋さんに入ることにした。


数々ある道具屋さんの中で、シェリーさん、タミーさんのお勧めのお店『ドッヂ』。


(武器、防具は俺の場合いらないからねぇ~)


 レンガ作りの3階建ての建物で、1階は小物系、2階はポーションなどの薬系、


3階はテントなどの大型のものを扱ているらしい。


 ポーションなどの薬系を道具屋が扱ってることに少し驚いたが、この世界では


普通なんだとか。


 まずは、3階から見て回る。


 今回、冒険者学院での実地試験は、聖クリスタル国南西にある『ジャスタン』


の砦を拠点にするので、基本テントやキャンプ道具的なものはいらないと聞いて


いる。


 それに、基本ダンジョンには、セーフティーハウスと言って、魔物から襲われ


ない部屋と言うのもあり、ましてや、トムさん達ガンブレイブと行動を共にするの


で、道具関係はチームで購入したものを使うので、本来は購入の必要がないのだが


……。


 しかし、万が一、チームとはぐれたりした場合、持っていた方が生存率が上がる


と言う理由で、新人冒険者達は一応購入しておくそうだ。



(オトアは猫だから、1人用テントで良いよな……)


って思っていたんだが、テントを見ていて”びっくり!”


どれも、5,000クリスタル(10万円)を超える値段。


「これがいいんじゃない?」


と無邪気にタミーさんが薦めるのは……『1万クリスタル』(約20万円)。


値段を見て驚く俺に、そっとシェリーさんが言う。


「それくらいは普通よw」


(そーなのか!?)


と思い、タミーさんとアンヌ隊員の顔を見ると、2人とも黙って頷いていた。


(そーなのか……まぁ、お金はあるからいいか)


 3階では、テントの他、スマホ充電用の魔法円と、コンロとして使う魔法円を


合わせて購入。


予備の魔晶石も買った。


大体1万4,000クリスタル(約28万円)


(殆どテント代だけどね)


 次に2階で、ポーション回復薬、エーテル(魔力回復薬)それに解毒薬などを


購入……中でもフルポーションが、1万クリスタル(約20万円)したのには驚い


たが、俺が驚くたびに、シェリーさんが俺の肩に手を置き、


「そんなものよ」


と少しあきれ気味に言われる。


 最後、1階では小型の鍋とフライパンに、金属製の食器、それと泉の水筒


(魔法で水が沸く仕組み)などを購入し、この店での総額4万5,000


クリスタル(約90万円)ほどの買い物となった。


俺の所持金残高は1万1,000クリスタル(約22万円)となった。


(まぁ、いいか、ほかに何かに使うでなし……)












 次に武器屋による……。


さっき武器屋には用がないと言っていたが、今から行く武器屋はただの


武器屋ではない。


ギルド協会の会館の前のメインストリートから、東に通り1本入った


ところにあるお店。


武器屋『リッキー』。


ここは、元々ガイゼルさんが経営していたお店で、今は弟のカール


さんが後を継ぎ経営している。


「はやくはやく~w」


またもや1人、はしゃぐタミーさん。


「そんなに急がなくても店は逃げないわよ~」


はしゃぐタミーさんに、少々呆れて言うシェリーさん。


 2階建ての石造りの小さなお店『リッキー』。


”ガチャ”


”カランコロンカラン”


(ドアベルってこっちのはやりなのかな?)


と思いながら、タミーさん、シェリーさんに続きお店に入る。


俺の後からCG隊のアンヌ隊員も続く。


店の両側の壁には、いろんな武器が飾ってあり、左右には


ガラスケースに入った小物の武器も並んでいた。


「カールおじさん久しぶり~w」


とフレンドリーに声を掛けるタミーさん。


店の奥正面にカウンターがあり、そこでお客さんの相手をしている


ドワーフが居た。


(この人がカールさん?見た目ガイゼルさんそっくりだな)


兄弟だから似ているのか、そもそもドワーフだからか区別がつかな


いのか……俺には分からないが。


タミーさんに声を掛けられ、目を向ける店主(カールさん)と、そこに


居たお客さん。


「おー、タミー久しぶりだなぁ~」


と声を掛けたのは、店主ではなくお客の方だった。


身長172cmほどの普通体系のイギリス系白人風の中年の男。


「あら、ケヴィンさんもいたんですか?」


とシェリーさんが声を掛ける。


「おう、シェリー大人になったなぁ~」


と親し気に話しかける白人風の中年の男。


「あら、だって私もう18よw」


とにこやかに返すシェリーさん。


「おう、そうか、道理で色っぽくなったと思ったよw」


とシェリーさんに返す白人風の中年の男。


そこに、割り込むようにタミーさんが、


「ねぇ、ねぇ私は~ケヴィンおじさんw」


と無邪気に聞く。


「えっ、うん……大きくなったよタミー」


と少し困った感じで答える白人風の中年の男に


「じゃなくて、じゃなくて!」


と駄々っ子のように言うタミーさんに、


「タミーはいつ見てもかわいいよw」


とドワーフのカールさん(店主)が笑いながら言う。


「そうお、そうおw」


と照れながらもセクシーポーズをとり言うタミーさん。


「ところでシェリー今日はお揃いで、何しに来たんだ~」


と聞く白人風の中年の男に、カールさん(店主)の方が、


カウンターの裏から何やら箱3つを出してきて、カウンターに


”ボン”と載せ言う。


「これだ、兄貴から聞いてるぜ」


と言いながら、顎をクイっとやって俺を見て言う。


それを見た白人風の中年の男が俺を見て言う。


「なんだ、テンタの用事できたのか!」


と納得の御様子だが……。


(誰……この人?)


俺が、頭に?状態でいると……。


シェリーさんが、俺に


「この人はケヴィン・ロックハートさんよ、テンタ君


会ったことあるでしょ~」


と言われ、


(ケヴィン・ロックハート?どこかで聞いたような……)


少し考えていると、


(んっ!)


「あっ、タッキーさんw!」


と俺がいかにもひらめいたって顔で、白人風の中年の男に言う。


「ピンポンw」


とタミーさんが人差し指を上げて俺に言う。


それを見たケヴィン(タッキー)さんは、


「ブランチ姿も男前だが、素の姿も男前だろう~テンタw」


と冗談ぽく言う。


「あっ、はい」


と作り笑顔でケヴィン(タッキー)さんに俺は返した。


 それを見て、ケヴィン(タッキー)さん、カールさん(店主)


にシェリーさん、タミーさんだけでなくCG隊のアンヌ隊員まで笑う。


(あら、皆わかってたのね……)










「ところで、テンタこの弾は44マグナム弾だが、お前の得物は


何なんだ?」


とケヴィン(タッキー)さんに聞かれたので、左脇のショルダー


ホルスターから銃を抜き見せた。



 因みにこれは、本来昨日ガイゼルさんが渡そうと思っていた


そうだが、俺と三毛猫オトアが拉致される事件が起き今朝、


ガイゼルさんから受け取ったばかりの銃だ。


「ほ~う、S&WM629ES(3インチ)モデルか」


と俺から俺の銃を受け取り、まじまじ見つめ、


「本来ステンレス製のこの銃をミスリル(真銀)で作ったか


……それにグリップをラバーに変えてあるとは、ガイゼル


らしいなw」


と言いながら俺に銃を返した。


そして、カールさん(店主)に向かって言う。


「これ、全部でいくらだカール?」


「んっ、これか?」


とカウンターに乗った俺用の弾を見て言うカールさん(店主)


に頷くケヴィン(タッキー)さん。


それを見て、計算しだすカールさん(店主)。


「マグナムの徹甲弾(12発)2箱で、600クリスタルで、


MPD弾 (12発)1箱 3,500クリスタルだから……」


と言いかけたところでケヴィン(タッキー)さんが口を挟む。


※(MPD弾とは、弾が命中した相手のMPを空中に拡散させる


弾のこと)



「なら、スピードローター3個つけてこれで足りるか?」


と懐から小槌を出して”チャリンチャリン”とエメラルドの硬貨を


5枚をカウンターの上に出した。


 因みに、スピードローターとは、弾倉へ、消費した弾薬を非常に速く


装填するために用いる器具のことだ。


「えっ、?」


俺がその光景に驚いていると、


「なぁ~に、これは俺からのほんのお礼だ」


とケヴィン(タッキー)さんが笑って俺に言う。


「お礼?」


と俺が不思議そうに聞き返すと、


「お前のおかげで、俺の宿敵のシルバースター(反社会的組織)


が壊滅できそうなんでな」


と笑顔で俺に言うが、俺は何のことかわからないって顔で


「でも……僕は何もしてないですよ」


と言い返すと、急に俺の肩を抱いて言う。


「お前達を誘拐したランドウってのは、シルバースター(反社会的組織)に


雇われた用心棒だったんだよ、だから奴を締め上げればシルバースター


(反社会的組織)の組織解明が進んで、俺がぶっ潰せるってことよw」


と言われたが、


「でも、僕は誘拐されただけですし、それも悪魔のせいでしたし……」


と、断ろうとしていたら、、カールさん(店主)に


「まぁそー言わず、受け取ってやれw」


と言われ、さらにシェリーさんタミーさんも、


「そうよw」


「そうだそうだw受けと取りなよ~」


と強引に言われたので、仕方なく


「では、ご厚意に甘えさせていただきますw」


と言う俺にケヴィン(タッキー)さんがニッコリ笑って、


「よし」


と頷いてくれた。


ケヴィン(タッキー)さんはおつりを受け取り、俺は弾を受け取り店を出た。


「じゃぁな、テンタ、シェリー、タミーw」


「うん、またねw」


「バイバイ、ケヴィン(タッキー)おじさんw」


と店の前で、ケヴィン(タッキー)さんと別れると……。


急にタミーさんが俺の顔覗き言う。


「あのさ、お金浮いたでしょw」


と聞いてくるので、俺は


「はい」


と素直に答えると、


満面の笑みでタミーさんが、


「じゃぁ~、そのお金で、みんなで”ミクドナルド”に食べに行こうw」


と嬉しそうに言う。


「?えっ、こっちに”ミクドナルド”あるんですか?」


と聞く俺に


「「あるある」」


とシェリーさんと、アンヌ隊員も頷く。


「お昼も近いですし、行きましょうか?」


って言ったら、


「当然、テンタ君のおごりよねw」


とタミーさんに言われ、


「えっ、あっ、はい」


と仕方なく了承する俺だった。


(ってか、初めからそのつもりだったでしょタミーさん)

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