エピローグ 8年後 

 仕事が終わった修平は、勤め先の銀行からでると待ち合わせの場所に向かった。金曜日ということもあり市内中心部は混雑していた。11月ということもあり、デパートのディスプレイもクリスマス仕様となり、華やいだ雰囲気がでている。

 待ち合わせの場所に着くと、先に着いていたヒロは修平を見つけたようで手を振っていた。

「修ちゃん、お仕事お疲れ様。」

 ヒロは黒のニットと白のスカートに、ベージュのロングカーディガンを羽織っている。ヒロはいつもあまり派手なのが好きではない修平の好みに合わせてくれている。アクセサリーも、以前修平がプレゼントしたシンプルなネックレスだけだ。

「お疲れさまって、ヒロも仕事だったろ。」

 ヒロは医療系の方がLGBTQに理解がある人が多いだろうということで、薬学部に進学したのち市内の薬局で働いている。実際、職場でも受け入れられているようだ。


「美織遅いな。自分で誘っておきながら、遅刻なんて。まぁ、中学校の先生って忙しそうだし、仕方ないな。」

 待ち合わせの時間から10分が過ぎていた。スマホからメッセージの着信音が鳴り確認してみると、美織からあと5分ぐらいでつくという連絡だった。

 5分後申し訳なさそうに美織がやってきた。

「ごめん、部活が終わって学校出ようとしたら、保護者から電話があってつかまっちゃった。」

「先生って、勤務時間って概念がないから大変だね。お疲れさま。」

 修平は美織の苦労をねぎらった。美織は市内の中学校で教師をしており卓球部の顧問もしていると、去年あった時に言っていた。


 3人で予約してあったお店に入り、席に案内されたのち、修平と美織はビール、ヒロはレモンサワーを注文した。

「美織ちゃん、久しぶりだね。去年の年末にあって以来だね。髪伸びた?」

「最近伸ばすことにしたの。ヒロちゃんも相変わらずかわいいね。」

 そんなことを話している間に注文したドリンクが届いたので、乾杯した。

「私、結婚することになった。」

 乾杯後ビールを一口飲んだ美織は、少し恥ずかしそうに報告した。

「おめでとう。で、相手は職場の人?」

「実は山下君。ほら、卓球部の。高校卒業した後は付き合いなかったんだけど、彼も卓球部の顧問していて去年部活の大会で再会したの。それで、結婚式来年あげるから、できたら二人ともきてよ。」

「ありがとう、絶対行くよ。」

 そのあと、美織の結婚を祝して再度グラスを重ねた。


「ちょっと、お手洗い行ってくるね。」

 そう言って、ヒロが席を立った。テーブルに修平と美織、二人になったタイミングで、美織が口を開いた。

「それで、大森君はどうするの?ヒロちゃんと結婚するの?」

「結婚って、ヒロは男だし、できないだろ。」

「そんな戸籍の事じゃなくて、けじめって意味でよ。大森君が一度別の人のところに行っても、ヒロちゃんずっと待っててくれたでしょ。ヒロちゃん、健気で可哀そうだよ。」

 大学時代、修平は同級生の女の子に告白されて付き合ったことがある。その時ヒロは「やっぱり、本物の女の子の方がいいよね。」といって、自分から身を引いてくれた。

 そのあと修平は初めて女の子と付き合ったが、ご飯を食べる時どこでもいいって言ってたのにラーメン屋に入ろうとすると怒ったり、毎日連絡してほしいとか、急に怒り出して理由を聞いても教えてくれなかったりとかで、疲れてしまい3か月もしないうちに別れることになった。

 やっぱりヒロの方がいいということに気づき、ヒロに頭を下げてもう一度付き合ってもらうことになった。そんな修平をヒロは責めることもなく、何もなかったかのように受け入れてくれた。


 夜中、修平はトイレに行きたくなり目を覚ました。用を済ませた後にベッドに戻る。ベッドには、美織と別れた後「今日、修ちゃんの家泊ってもいい?」と甘えた声でお願いしたヒロが眠っている。

 その寝顔を見ながら修平は、美織に言われた結婚について考えた。男同士なので結婚について、いままで考えたことはなかった。ただ、ヒロと一緒にいれればいいと思っていた。そしてそれがずっと続くと思っていた。


 翌朝修平が目を覚ますと、土曜日も仕事があると言っていたヒロはすでに仕事に出たようでいなかった。テーブルの上には、玉子サンドと「よかったら、朝ごはんに食べてね。泊めてくれてありがとう。」と書かれたメモがのっていた。


「修ちゃん、きれいだね。」

 光り輝くイルミネーションをヒロは楽しんでいる。美織との飲み会から1か月後、修平はヒロ誘って一緒にイルミネーションを見にきていた。

 無邪気に喜んでいるヒロをみると、年末で忙しく疲れた体を休めたいのを我慢して見にきてよかったと思える。


「ホットワイン買ってきたよ。」

 一通りイルミネーションを見て回り、歩き疲れたこともありクリスマスマーケットの広場のベンチで休憩することにした。修平は買ってきたホットワインをヒロに渡し、自分も一口飲んだ。冷え切った体に、熱いホットワインが染みわたった。

「なあ、ヒロ、俺は来年も一緒にイルミネーションを見たいと思っているけど、ヒロはどう?」

「私もみたいよ。」

「来年も再来年もずっと一緒に見にきたい。イルミネーションだけじゃなくて、春の桜も、夏の海も秋の紅葉も一緒にみて、同じ感動を味わいたい。結婚しよう。」

「結婚って、男同士だからできないよ。」

 ヒロは泣き出しそうな声で返事をした。

「籍をいれるだけが結婚じゃないだろ。一緒に暮らそう。」

「修ちゃん、いいの?銀行みたいな固そうな職種なのに、同性婚って変な目でみられない?出世にも響くんじゃない?」

「それよりもヒロと一緒に入れる方の人生の方がいい。」

「修ちゃん、ありがとう。これからもよろしくね。」

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