75日目 ヒロの憂鬱
6月22日、部活の練習中修平は、いつも元気な美織が今日はあまり元気がないことに気づいた。
いつもなら部員に明るく声をかけ、練習に活気を与えている美織だが、元気がなくプレーも心なしか動きが鈍い。
修平は休憩中に美織に声をかけた。
「美織、どうした元気ないな?」
「心配してくれて、ありがとう。今日、女の子の日でちょっとだるくて。」
「女の子の日って?」
「大森君、そんなことは聞かない方がいいよ。鈍感な大森君にも気づかれるようだとキャプテンとして駄目だね。気合い入れなきゃ。」
美織はかるく修平の肩をたたいて、去っていった。女の子の日ってなんだ?という疑問が残ったままだった。
そのあとの美織は、いつものように元気に声を出していたが、どことなく無理している感じがした。やはり体調は悪そうだった。
部活を終えた修平は、校門のところで待っていたヒロに声をかけた。
「お待たせ。さあ、かえろうか。」
「うん。」
ヒロの返事はいつもより元気がなく、表情もすこし曇っているようだった。
「ヒロ、なんか元気ないな?」
「修ちゃん、心配してくれてありがとう。ちょっと部活で、いろいろあってね。」
いつも吹奏楽部の部員と仲良くしているヒロにしては珍しい。
「山下さんって子が元気なかったから、声をかけたら女の子の日だったみたいで、『ヒロちゃんは、いいよね。女の子の日なくて。女子のいいところどりしてズルい』っていわれちゃった。」
ヒロは暗い表情で、今日の出来事を話してくれた。修平は女の子の日が何なのかわからなかったが、
「女の子のいいところどりって、ヒロもヒロで苦労もあるのにな。」
ヒロが女の子になって2か月が過ぎ、その間男に生まれて女の子として生活することに苦労しているヒロの姿をみてきた。けして、「女の子のいいところどり」ではないことに、修平は憤りを覚えた。
「修ちゃん、ありがとう。」
「ところで、『女の子の日』って何?美織も女の子の日らしいけど、聞いても教えてもらえなかった。」
「修ちゃん、女子に聞いちゃだめだよ。」
ヒロがたしなめる様な表情で言った。
「そうなの、で、結局何なの?」
「生理の事だよ。」
「生理か、保健体育でやったけど病気じゃないんだろ。」
「修ちゃん、それも言っちゃだめだからね。私もわからないけど、ツライらしくて気持ちにも影響してくるみたい。」
「わかったよ。」
珍しくヒロに注意された。でも、最初に落ち込んでいるときよりかは元気になってよかった。ヒロは元気な方がいい。
その日の夜、翌日の提出予定の課題プリントを終わらせると、美織に「大丈夫?」とだけ書いたメッセージを送った。
数分後返信が来た。
「心配してくれるなんて、大森君も成長したね。」
美織らしい、上から目線のコメントだった。軽口を叩けるぐらい元気にはなったみたいだ。修平が用見終わった直後、もう一通メッセージが届いた。
「でも、心配してくれて嬉しかったよ。ありがとう。」
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