19日目 部活

 4月27日の夕方、修平は卓球部の練習にいそしんでいた。あと1か月後、5月末にはインターハイ予選があるので練習にも熱が入る。

 新入生入れても男子10名、女子8名の小さな部で、強豪でインターハイを目指しているわけではないが、弱小というわけでもなく地区予選でベスト8に入って県大会に行くのが部の目標だ。

 

 休憩時間に修平は体育館の外に出て、中庭で練習しているヒロを見るのが習慣になってしまった。ヒロもわかっていて、修平の姿をみると手を振ってくれる。

 今日もヒロは自分の練習をしながらも、初心者の1年生に熱心に教えている。修平も卓球部の1年生に、男女構わず教えることはあるので、先輩が後輩に教えるのは当たり前と言えば当たり前だが、なんとなくヒロのことが気になってしまう。


 練習に戻ると、同級生で女子部員の坂下美織が話しかけてきた。

「大森君、練習に付き合って。」

 女子のなかでは一番上手な美織は、昨年の新人戦でも県大会まであと1勝のところまで進出していた。今年は県大会出場を目指してさらなるレベルアップをするために、最近は練習相手に男子部員に声をかけることがある。

 さすがに引退間近の3年には声がかけにくく、気心の知れた男子の同級生の中で、実力的に一番近い修平が練習相手になることが多い。


「バックハンドが練習したいから、そんな感じでお願い。」

 修平はバックハンドで打ちやすい位置にボールを返しながら、美織とラリーを始めた。正直、技術的な部分では美織に負けており、いつも力で押し切って男子の面目を保っている。

 卓球の男女差は他のスポーツに比べ小さい。このままではいつか美織に負ける時がやってくるとは思うが、男子の意地で3年の引退までは逃げ切りたい。


「明後日29日に練習試合があるから、その結果で団体戦メンバー決めるから、各自まずはその試合に向けて調子を整えていこう。」

 キャプテンが練習をしめくくる挨拶をして、練習は終わった。練習後は1年生が球拾いをして、2年生は卓球台を片付けることになっている。


 修平も卓球台を片付けるために、ネットを外し、卓球台を折りたたもうとしたところ、美織が手伝ってくれた。そのあと一緒に倉庫に運びながら話しかけてきた。

「大森君、昨日学食で一緒に食べていた女の子って彼女?」

「ちがうよ。小島だよ。女の子になった男子がいるって聞いてない?」

「あの子が小島君なんだ。かわいいね。付き合ってるの?」

「付き合ってないよ。男だもん。友達の延長線上って感じ。」

「その割に、仲良さそうにしてたけど。」

「もともと男のころから、ゲームや漫画の趣味があって仲良かったからね。」

「そうなんだ。」

「そうだよ。」

 そこまで話したところで、倉庫に卓球台を運び終わり、倉庫から出ようとした。

「よかった。」

 美織の独り言のような小さな声が、修平は聞こえたが、何が良かったのかまでは、聞こえなくてよくわからなかった。

 聞き直そうとしたときには、美織は他の女子部員と話しており、修平も深追いせずに聞き流すことにした。

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