3日目 通学

 4月11日月曜の朝、修平は今日から本格的に授業が始まるかと思うと、少し憂鬱な気持ちで学校に向かっていた。

 修平は中学のころまでは自分では勉強ができる方と思っていたが、高校に入ると授業についていけずいつも赤点ギリギリだった。そんな状態で授業が楽しいわけはない。電車の中でも英単語帳を開き、努力はしているが成績は伸びない。

 電車が学校の最寄り駅についたところで、英単語帳を鞄にしまって、電車から降りる。ここから学校まで徒歩15分。バスも通っていないので歩くしかない。


「修ちゃん、おはよ。」

 改札を抜けたところで、名前を呼ばれたので声がする方を見ると、自転車通学で駅は利用しないはずのヒロが立っていた。

「なんで駅にいるの?ヒロって自転車通学だったよな。」

「駅の駐輪場に止めたよ。修ちゃんと一緒に学校行きたいなと思って。」

 家から駅まで自転車できて、待っていたみたいだ。そこまでしてくれたのに断るのも悪い気がして、一緒に歩き始めた。

 かわいい女子と並んで歩いている。学校に向かっている男子からは羨望の視線を感じるが、ヒロは男だと言ってあげたい。


「ヒロって、漫画やドラマでよくある、目が覚めたら女の子になってたとかじゃないよね?」

「うん、体は男のままだよ。」

「下着とかどうしてるの?」

 修平が聞いたところ、ヒロは下を向いて恥ずかしそうに小声で話始めた。

「修ちゃん、見たいの?まだ早いと思ったけど、修ちゃんが見たいなら、いいけど。」

 顔を真っ赤にして答えているヒロが、何を想像しているか分かったところで、

「バカ、何を想像してるんだ!」

 ヒロの頭をかるく小突いた。


 教室に一緒に入った瞬間に、その場のクラス中の女子がヒロのもとへ集まって

「ヒロちゃん、おめでとう。」

「早速、一緒に登校なんだね。」

 口々にヒロが修平と付き合い始めたことを祝福していた。

「大森、おめでとう。小島を幸せにしろよ。」

「まだ、付き合ってないから。」

「またまた、登校中にイチャつくところ見たぞ。」

 登校中の様子を見られており、修平も男子から祝福というか冷やかしを受けた。外堀が埋まっていく音が聞こえてきそうだった。


 その日、部活の練習を終え卓球部の同級生と帰ろうとしていると、校門にヒロが待っていた。

「修ちゃん、お疲れ。一緒に帰ろう。」

 それを聞いていた、卓球部の同級生が

「なんだ、大森、こんなにかわいい彼女がいたのか?」

「邪魔しちゃ悪いから、俺ら先に帰るね。」

 そう言って足早に去っていった。


 完全にヒロと付き合っていると思われてしまったことに、落ち込みながら帰っていると、口数が少ないことを気にかけたのか、

「修ちゃん、一緒に帰るの迷惑だった?迷惑ならやめるけど。」

 もともと漫画やゲームの趣味はあっているヒロと話すことは楽しいし、迷惑だと答えてヒロの悲しむ顔はみたくない。

「いいや、ヒロと話すと楽しいよ。」

「ありがと、で、あの漫画の展開ありえなくない?伏線もなく新必殺技って言われてもなえるよね。」

「わかる、何でもありの展開はないよね。でもあの作者、その展開よくやるよね。」

 その後駅に着くまで、漫画の話題で盛り上がった。やっぱりヒロと話している時間が一番楽しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る