箱入り王子の救世主
空島を出てから真っ直ぐ、悪魔の国があると地図に記されていた崖へ向かって飛んだ。
そして、とりあえず一度木や草の生い茂っている崖の上に降り、羽は仕舞って崖の下を覗いてみた。しかし、分かった事は崖がかなり高い事だけで、断崖絶壁ということもありここから崖の断面は一切見えなかった。
しばらくその場で、
「見る限り下に降りられそうなところは無い。が、天使だとバレてしまうので安易に羽を出して崖の下まで見に行くわけにもいかない。どうすれば良いだろうか」
と、崖の下に降りる方法を考えていた。すると、
「おや? 兄ちゃん、何か問題があったのかい。迷った?」
と、後ろから突然声を掛けられた。振り返ると、四十代程だろうか。重そうな棒を背負った笑顔の男性が二人立っていた。誰もいなさそうな暗い木の沢山生えているところから現れたので、少し驚いてしまった。
「ああ、これは失礼しました。こんにちは、ここで少し考え事をしていました」
まだ少し驚いていたが、どんな理由があろうと挨拶をしないのは失礼であると思い、すぐさまお辞儀をした。
「おや、礼儀正しい兄ちゃんだな。こんなところでどんな考え事をして居たんだい? 俺達、この森の中に家があってね。兄ちゃんがここで突っ立ってるのが見えて話しかけに来たのさ」
とても驚いたよ、と片方の男性が言った。しかし、森とは何であろう。
「森? もしかして木が沢山、所狭しに生えているこの場所のことでしょうか」
「そうさ。森を知らないのかい?」
「そうですね、こんなに木が生えているのは初めて見ます」
そうなのかと、男性二人はとても笑顔になった。
私を安心させようと笑顔なのだろうか?
けれど、何故か分からないがここから離れなければならない気がする。
「兄ちゃん、見たところ飲み物も持ってないみたいだな。喉乾いてないかい? 良かったら、うちへ来て飲んでお行きよ」
一人の男性が私の腕を掴んだ。きっと好意なのだろう、断わるのは失礼かもしれない。
けれど、何故か行きたくなかった。
「兄ちゃん、どうしたんだい? ほら、行こう」
もう一人が背中に持っていた重そうな棒をガシャリと音を立ててこちらへ向けた。
何故か、背中が急に汗をかき始めた。
「歩こう、ね?」
黙って歩く他なかった。腕を捕まれ、何かを向けられ。抵抗してはいけない気がした。
森を数十メートル進んだところで、急に男性二人が笑い始めた。
「金が無いから森に住んで自給自足してきたけど、これでやっと電話機とやらが買えるんじゃないか?」
「それどころか! テレビとかって言うんだったか? あれを買っても結構余るだろ」
何の話しをしているのか全くわからなかった。
お金が無いのに買える?
お金が余る?
理解が追いつかず目眩がしてきた。
その時だった。急に前から大きな衝撃を受け、身体が空中に浮いた。
いや、これは。誰かに持ち上げられて異常なスピードで走っている?
「「待て!」」
怒鳴る声が段々と遠のいて行く。ぱんっと何度か破裂音が聞こえたが、森を抜け、崖に出てきたところでほとんど聞こえなくなった。
何が起こったのか全く分からずにあっけらかんとしていると、急に走っていたやつが止まり、私を地面に降ろして
「おいお前、大丈夫か?」と、優しく声をかけてきた。
その人は、とても肌の白い私と同じ年くらいの青年だった。
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