第7話 領主の子

三つ子は揃って転生者と知ってから

片意地を張らなくなり

互いに率直に話せる相手ができて

心が少し楽になったようだ


――――――――

 

今日は初めて三つ子で領内を散策する


朝から母リエッドが

張り切って弁当を作ったのだが・・・

はっきり言ってリエッドの料理はマズイ!

食ったら地獄へ落ちる!

と思うほどに・・・マズイんです!


「母様はお忙しいのですから、気を使わずに」

 

頑張れラテル!

「僕たちは料理人の作る弁当で充分です」

 

いいいぞラテル阻止するのだ!

と心の中で応援していたのだが


「まぁ、子供が大人のような遠慮をして」

 

いや、子供じゃ無いですから!

中身は立派な大人ですから!

遠慮じゃありませんからホ・ン・キ!ですから


「可愛い天使ちゃん達のために

 母様が張り切って作るわねぇ」


かくして・・・

私達三つ子は

リエッドが張り切らなくていいところを

張り切って作った

地獄行きの弁当を抱えてのお出かけとなった。


――――――――


ゴコーゼッシュ家の邸宅は

領地の東側に位置している

目的地は

ゆっくり馬車を走らせ2時間ほどの距離だ


今回の散策はラテルが発案者である

同行者は馬車を操る御者と

ゴコーゼッシュ家の護衛係兼ラテルとルクトの

武術指南役でもあるディーゴ。


領民たちはゴコーゼッシュ家の馬車だと気付くと

皆お辞儀をするのでチョット気恥ずかしいですぅ


邸宅から少し進むと街があり

商店が軒を連ね人出も多く賑わい活気に溢れている

パン屋を発見!早速三つ子でサンドイッチを購入

これは旨そうだ~わ~い!


――――――――


街をはずれると

を浴びた新緑が

眩しいくらいにキラキラと耀き

開け放たれた窓から

晩春の心地よい風が馬車の中を吹き抜け

新緑の薫りに体が包み込まれる


こんなに気持ちがいいと言うのに何故か皆・・・

無口だ・・・

ラテルとルクトは本を読み

隣りに座るディーゴは・・・

出発した時から黙って腕を組み微動だにしない

時々顔を覗き込むと

目だけこちらを向くので寝てはいないようだ


別にいいんだけどさぁ~

遠足のバスの中でババ抜きとか定番じゃん

盛り上がると思ってさぁ

せっかくカード持ってきのになぁ


「さぁ、着いたよ」

ラテルに促され馬車を降りると

目の前には小高い丘がある

「この丘の頂きが目的地だ」


「それじゃあ、頂き目指して競争だな」

ルクト~余計な事を言う奴だぁ


「いいねぇ、そうしよう」

やるんかーい⁉

ラテルの合図で三人は頂上を目指し

息を切らしながら駆け上がった


「俺が一等だ!」

「ルクト早いねぇ。残念、フォーラは三等だね」


はいはい、ご親切に教えてくれて、ありがとうねぇ

でもね・・・


「見ればわかるわ!」

と言いながら、何故だか笑ってしまった

ラテルもルクトも笑いだした

なにが可笑しいのか明確な理由もないのに

腹の底から笑いが溢れてきた


「ほら、あれを見て」

弾む声でラテルが指さした丘の下には

一面の麦畑と花畑が広がっていた

麦畑では黄金色になりかけの穂が

風に吹かれ生き生きと揺れている


花畑は赤・黄色・青・白・黒など

色とりどりの花が色別に植えられ

色彩豊かな絨毯のようだ

三人はその美しさに息を吞んだ。


「ディーゴにこの丘から見える景色の美しさを

 教えてもらってね

 三人で一緒に見たいと思ったんだ」

「俺は感動した」

「うん、私も」

二人の言葉を聞いたラテルは嬉しそうだ


「遠くを見渡してみて

 高い山に囲まれているでしょ

 あの山並みが自然の防御壁となって

 カイッソウガを守っているんだ

 そのお陰でゴコーゼッシュ家は13代に渡って

 平穏に領地を治められているんだよ」

「なるほど、地図を見ただけじゃ分からなかったぞ」


私も同意見です・・・

って地図なんて見たこと無いですけどねぇ


「花畑が沢山あるんだね」

「あの花は染料を作る大切な材料だからね」

「そうなの⁈」

「おいフォーラ、家庭教師から習っただろ」


覚えてまっせ~ん

ってか、一々家庭教師の話なんぞ

真面目に聞いてられるかっ


ルクト元教授の講義が始まります

「花から作る染料で

 秋に収穫した綿花を紡いだ糸を染め

 冬の農閑期に布を織るんだ」

 

そりゃあ暇つぶしに丁度いいですなぁ


「織った布は他の領地に売られ

 農民は手間賃をもらい

 ゴコーゼッシュ家は仲介手数料が手にできる」

 

続いて元王子ラテルの講義

「王都でもカイッソウガの織物は評判が良くて

 高値で取引されているんだ」


おおっ、ゴコーゼッシュ家は商売上手じゃんねぇ


「染織物はキチェスが始めたんだよ

 何度も何度も染色にしても諦めずに・・・

 その努力は全てカイッソウガ領の農民達に

 冬の農閑期の貧困が原因で

 子供を口入屋に売るのを阻止させる為」


さすが元王子よく知てっおいでだぁ


「子供を売らないためか・・・」

ルクトが感慨深げにそう呟いた


――――――――


腹が減った~!

ので街で買ったサンドイッチを食べた

これにはトマト・レタス・ピクルス

皮がこんがり焼かれたチキンが挟まっていて

実に美味しかった~!


食べ終わると追いかけっこが始まった・・・

外見は5歳児でも中身は大人なのにねぇ


そして

なぜかルクトが「キャーキャー」言いながら

一番はしゃいでいて笑えるんですけど

・・・何で?

 

走り疲れて地面に敷いたシートの上に

三人あお向けに寝転んだ

「俺はキチェスの息子に生まれてよかった

 領民を思いやる父を誇りに思う」

「僕も、そう思うよ」


そして青い空を黙って見つめた

それぞれ思うこと、考えることがあるのだろう


空が近く感じて雲が掴めそうな気がして

私は手を伸ばした

むろん雲が掴めるはずは無いのだが・・・


でも今日は雲の代わりに

何か大切なものを掴めた気がする


そして、この空の彼方に地球がある・・・


――――――――


気が付いたら馬車に揺られていた。

5歳児の身体は

はしゃぎ過ぎて疲れ寝てしまったようだ

 

目を擦りながら起き上がり

「ディーゴ、馬車まで運んでくれてありがとう。

 それからぁ

 綺麗な景色を教えてくれてありがとう。

 それからぁ

 今日は楽しい思い出が作れたよ、ありがとう」

 

素直に感謝の言葉を口にして

自分で自分にビックリ!

 

ディーゴは相変わらず無表情だけど

「それはよろしかったです」

と言った口元が少し微笑んでいた

本当は優しい男なんだなぁ

顔は怖いけどねっ

マジ冗談抜きで顔怖いんですけどねぇ!


そうそう

リエッド手作り地獄の弁当ですが・・・


ラテルが

「遠慮なく召し上がれ」

と御者とディーゴに食べさせた

元王子も、なかなか悪よのを~

     

今日は楽しかったです!

  

でも・・・

ババ抜きはできなかったです。

残念!



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