第2話 1978からの物語
この一見、洋古書風のアンティークな香りがする素敵な本。
一度、
「
「ああ、美澄さん、それはお売りできない本なんです。おばあちゃんの自費出版の本なんですよ」
「へぇ。そうなんですか。あまりにも素敵な本なのでいつも気になっていたんです」
「ふふふ。おばあちゃんも喜んでくれます。ありがとうございます」
「中を少し覗いてもいいですか? 」
「いいですよ。でもきっと驚きますよ」
そう、この素敵な本はほとんどが白紙のページ。
物語が書いてあるのは真ん中の数ページのみ。
でも、それはかけがえのない素敵な物語なんです。
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時代は1978年・夏。
大学の帰り道、
「なんて暑さだよ。太陽が地球に100kmくらい近づいたんじゃねーか? もうダメだ。避難だ! 避難! 冷たいものでも飲もうぜ! 」
「じゃ、『純喫茶ロザ』に行こうぜ」
「ダメだ、『ロザ』は全然クーラーが効かねぇじゃん。アレぶっ壊れてるだろ。『まめ』に行こうぜ」
「いや~....『ロザ』がいいんだけどなぁ」
「......いや、だから『ロザ』はクーラーが壊れてるって言ってんじゃん」
「あ、あのさ、『ロザ』のアルバイトの子だけどさ、何か脈ありそうなんだよね」
「 ..じゃ、アイスティーおごりな」
「おぅ! 」
今も昔も大学生の男子は女の子の事と流行には敏感だ。
修一も自宅の青葉書店で『
今日は開拓のため、いつもとは違う方に道を進めていた。
適当に『純喫茶ロザ』のある通りを目指して歩く2人。
そしてある角に差し掛かった時
ジャカジャカジャカ ジャジャン ジャジャン ジャ ダン ダン!
ブゥーン ブブブンブ・・
アァン・・アアア~ アァンナ~
迫力あるエレキギターに、ドラムとベースの陽気に
「なぁ、徹。この音、バンドかな? ちょっと覗いていいか? 」
「ん~.... まぁ、ちょっとならな」
角を曲がりまっすぐ歩くこと80mくらい。
『JAZZ喫茶グリーン』
ハードなエレキギターの音が修一のハートを掻き立てた。
喫茶店のドアを開けるとより明確に音の骨格を感じる。
ドラムとベースの重厚で、やたら陽気なリズム、喘ぎのような声から歯切れの良いシャウトまで変幻自在なボーカル。
そして前を陣取るファンの隙間に見えるのは修一のハートをガッシリと鷲掴みにするハードながらもポップな音を出すギターリスト。
25才くらいの他のメンバーとは違い、それは自分と同い年くらいの女の子だった。
フラワー模様の派手なシャツに濃いアイシャドーメイク。
襟には夏なのに白羽のマフラーをまとっている。
そのメイクや服装にピンとくるものがあった。
青葉書店にも置かれる音楽雑誌の表紙を飾るマーク・ボランやデヴィッド・ボウイのそれであった。
そう、これは確か....『グラムロック』ってやつだ。
派手派手なステージ衣装にそのパフォーマンス、ポップな曲とキャッチーなコーラスが面白くてかっこいい。
修一はそのバンドがまるで魔法の国の楽団のように感じた
「おい、修一! 〇△□%◇」
「何? 聞こえない! 」
「『ロザ』に行こう! 」
「ああ、わかった! 」
修一たちは何も注文せずに、まんまと店をでて『喫茶ロゼ』に向かうことにした。
もう少し聞きたい名残惜しさに、店前先の掲示板に書いてあったバンド名『アイスボンブ』の名前を頭に叩き込んだ。
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