わからなくても大好きな <シオネ視点>



 用意された夜着の裾を摘まみ眺める。

 可愛らしく繊細な刺繍はシオネの好みでもあるし、印象に合わせた物でもあるのだろう。

 することもなく刺繍を観察しているとリトスが入って来た。


「シオネ、何してるの?」


「ん? 可愛いなあって見てたの」


 ほら、と回ってみると本当だと返ってくる。

 リトスはと見るとシンプルな白一色の物だった。


「リトスのは普通ね」


「寝間着は心地よさが一番じゃない?

 シオネのそれは可愛いからいいけど」


 可愛いと繰り返すわりに表情が変わらないと思っていると視線が微妙に逸れている。

 ここでそれを指摘するほどシオネも意地悪じゃない。

 それよりも今日は聞いてみたいことがあった。


「ねえねえ、リトスは私のどこが一番好き?」


「は!?」


 動揺で声が裏返った。

 ほんのり顔が赤い。


「一番ってそんなのないよ」


「どうして?」


 女官たちに聞いたらここが伴侶の好きなところですって明確な答えを上げてくれるのに。

 じっと見つめていると溜息を吐いて瞳を覗き込んでくる。


「……婚礼衣装を着た君は最高に美しくて僕の語彙力では表せないほどだった。

 僕の言葉を待って期待に目を輝かせる君も可愛かったし、拙い言葉での褒め言葉を嬉しそうに受け取ってくれた顔なんてもう直視できないくらいだったよ」


 頬に当てられた手が熱い。

 表情は変わらないのに、恥ずかしさが体温になって伝わってくるみたい。


「式の最中は友人と笑い合い幸せを振りまき周りまで幸せにする君が誇らしかったし、時折僕を見上げる素直に喜びを口にする君は愛くるしくて。

 正直式なんて途中で抜けてもいいんじゃないかと思ったくらいだ」


 ずっと隣でにこにこと来客と挨拶を交わしていたのに。笑顔の裏でそんなことを考えていたなんて知らなかった。


「今この瞬間は僕が自分をどう思っているか知りたいと願う切実さと不安を宿した表情が堪らなく愛おしくて……、今すぐキスしたくなる」


 瞳を合わせたままふわりと唇が触れる。

 至近距離から覗き込む瞳は真っ直ぐな愛情を伝えていた。


 どこかなんて難しい。

 もうこれ以上は聞かないでと囁くリトスに口を噤む。


「君があの時の答えを探してるのは知ってるけど、それはもういいから。

 そんなに気にするとは思わなかった」


「気にしてるわけじゃ」


 反論しようとした唇にまたキスが落とされる。


「理由がわからなくても僕が好きでしょう?」


 覗き込む瞳とそろりと撫でられた頬のどちらにぞくりとしたのかわからなかった。


「好きよ」


「なら、それでいいじゃない。

 大切なのはこういうことを許すのが僕だけってこと」


 そう言いながら唇を指でなぞる。

 されるがままにしていたシオネの唇が笑みを描いた。

 豹変したように思えたリトスの指が震えているのに気づいたから。

 リトスに触れるとぴくりと動いた肩が思いのほか強張っていて、ぎゅっと抱き着く。

 一瞬固まった後、焦ったように身体を震わす。

 そのままぎゅうぎゅうと抱きしめていると遠慮がちに腕を回して抱きしめられた。

 思っていたよりも筋肉質な身体は安心を感じるというよりドキドキする。


「リトスはやっぱり男の人ね。

 身体が硬いわ」


「当たり前でしょう」


 こんなこともできるからと抱き上げられベッドに落とされる。それほど身長も変わらないのにすごい!


「リトスすごい、カッコいいわ」


 驚いた気持ちそのままに褒めると堪えていた反動かゆで上がったように顔を赤くする。


「頑張ってたのに……」


 赤くなった顔を覆って俯いた。

 そんなリトスに胸がきゅうんと締め付けられる。


「頑張ってるリトスも頑張らないリトスもどっちも良いわ」


 だから大丈夫よと自分でもよくわからない励ましを送ると嬉しそうな困ったような顔で微笑んだ。


「じゃあかっこよくて可愛い僕を堪能してて」


 はにかんだ笑みを浮かべながら告げたリトスは最高に可愛くて、カッコよかった。




 後から思い出して羞恥に震えてたけど本当に本当に素敵だったのよ?



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