第17話 誰よりも愛しい人
「アクアオーラ!」
窓から身を躍らせたアクアオーラの下で手を伸ばすのは誰よりも愛しい婚約者の姿。
アイオルドの作り出した柔らかな風が落下するアクアオーラを包み込む。
「アイオルド!」
飛び降りたアクアオーラを難なく風の魔法で受け止めたアイオルドにぎゅっとしがみつく。
上を見上げると驚愕に顔を染めたお父様や兵士たちの姿が目に入る。
追いかけろと怒号が飛び兵士が慌てて走り出した。一階で警備にあたっていた反応の早い兵士何人かがこちらに向かって駆け出す。
彼らが建物の外に出る前に、手の中にある魔晶石から力を取り出す。
慣れ親しんだ水の力は難なくアクアオーラに応えてくれる。
――!
外に続く出口一面が氷で覆われた。
氷に阻まれてこちらに近づけない兵士たちを確認して上階の父に微笑む。
「ではお父様、ご健勝で!」
アイオルドの腕の中から手を振る。
険しい顔の父にアイオルドが頭を下げ、アクアオーラを抱えたまま走り出した。
正面からではなくアクアオーラの自室があった方角、裏庭の方へ。
途中何人かとすれ違うがベールを被り特徴的な水色の髪を三つ編みにして隠しているため、アイオルドの腕の中にいるのがアクアオーラとは気づかないようだった。
アイオルドの足運びは危なげなく、とても人ひとり抱えているとは思えない。
鍛えているのは知っていたけれど、それなりのスピードを出しているのに安定感がある。
抱き上げられていることに恥じらいを感じるよりも安心してしまう。
腕の中からアイオルドの琥珀の瞳を見上げていると視線に気づいたアイオルドが笑った。
「アクアオーラ、俺じゃなくて前を見てなよ。
初めて外に行くんだ、きっと見たことのないワクワクするものがたくさん見れる」
「そう、ね」
そう答えながらも、陽の光を受けて輝く琥珀色から視線が外せない。
アイオルドを見つめ続けていると裏庭を抜けるよと教えてくれた。
その先にいつも馬車を止めている場所があるという。
木立ちの波を通り過ぎると、光の色が変わった。
アイオルドの金色の髪が陽光を浴びてきらきらと輝く。
思わず息を呑んだ。
開けた視界に広がる青空に。
アイオルドの向こうに青く抜ける空に視線が吸い寄せられる。
建物や木々に遮られていない、こんなに広い空を見たのは初めてだった。
どこまでも続いている空は美しくて、言葉もなく見入る。
終わりない空に世界が無限に広がっているように感じられた。
震えるほどの感動が溢れる。
視界が曇らないよう瞬きで雫を払い落とす。
頬を拭うこともなく空に見入っているアクアオーラにアイオルドは何も言わず足を進める。
人を抱えているとは思えないほど早く馬車にたどり着き、易々と王宮から脱出したのだった。
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