第7話 アイオルドの才能



 数日してアイオルドが持ってきてくれた装置に驚き息を呑む。


 次々に運び込まれた部品を組み立てていく。

 正方形の土台に細い柱を差し込み固定させ天井と組み合わせる。

 最初から持ち運んでその場で組み立てることを想定していたかのような形。

 四方を幕で覆い完成した舞台に感嘆する。とても半刻もしないで組み立てた物には見えない。

 幕はごく薄くてしっかり中が見え、視界の妨げにはならなそうだった。


 作業を終えたアイオルドに用意していた飲み物を勧め説明を聞く。


「この幕が日差しを遮る効果を持っていて、この台座に埋め込んでいる魔晶石が空間の冷却を可能に……」


 アイオルドの説明は澱みない。

 使われている幕の作り方から台座に使われた魔晶石の出力、効果の持続時間。

 この短期間で無理難題と思われた環境を作り出しただけでなくそれを長時間保つことを可能にしていた。

 すごさに言葉が出ない。

 黙っていたアクアオーラにアイオルドが説明を止める。


「アクアオーラ、何か気にかかることがあった?

 それなら何でも言って、改良の余地があるならすぐ直すから」


 心配そうな顔を向けるアイオルドに首を振って違うのと告げる。


「アイオルド、すごいわ。

 予想よりもずっと素晴らしくて驚いていたくらいよ」


「そう?

 でも使ってみないとなんとも言えないからね。

 あ、舞台までは日の光に当たらないように傘を差していって」


 細やかな注意に頷く。

 今日は曇っているので試用には向かないため別の日に試すことにしてアイオルドを労う。


「そういえば衣装は決まってるの?」


「え?」


 思わぬことを聞かれて言葉に詰まる。


「持っているものではダメかしら?」


 舞うための衣装ではないけれど、舞うのに支障があるわけではないから手持ちの服から選ぶつもりでいたのだけれど。


「よく似合っているし舞を見せてくれる時もいつも綺麗だけれど、せっかくだからもっと舞が映えるものにしたらどうかな」


 さらりと挟まれた褒め言葉にはにかみながらありがとうと返す。

 

「良かったら俺が用意してもいいかな」


「アイオルドが?」


 そこまでしてもらうのは申し訳ないのだけれど……。

 どう答えようかと思っているといいかな?とじっと見つめられる。


「……っ」


 期待を訴える目を見ていたら断りの言葉は出なくなってしまう。


「いいわよ」


「ありがとう!」


 了承を伝えるとぱっとうれしそうに笑う。

 お礼を言うのはアクアオーラの方なのにあんまりうれしそうに笑うから。

 なんだかふわふわした気持ちになる。


「アイオルド」


「ん?」


 女官と手持ちの装飾品のことで楽しそうに話し合っているアイオルドへ喜びのままに笑みを向ける。


「ありがとう」


 うれしくてうれしくて、ありがとう以外なんて伝えたらいいのかわからない。

 私の側にいてくれるのがアイオルドでよかった。


「特等席で見ててね」


 舞が一番よく見える席をエリレアにお願いしておこう。

 私が誰よりも舞を見てほしい人はアイオルドだから。


「……っ、もちろん!」


 満面の笑みでの快諾がもらえて笑みが大きくなる。

 アイオルドが側にいれば何も不安なんてなかった。



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