第42話 対策会議


 放課後、俺と瞳さんは駅前にあるファミレスに入った。まだ午後三時半。十分に時間は有る。


「柚希、明日の土曜と日曜は会えるのでしょう?」

「もちろんです」

 なんでこんな事聞くんだろう。土日はいつも会うと約束しているのに。


「なら良いんだけど」

「どうしたんですか?」


 柚希ともっと一緒に居たい。それも二人きりで。学校のお昼や放課後こうして会うのはいい、映画館も喫茶店もいい、でももっと柚希と二人だけの時間を過ごしたい。

 ゆっくりとした二人だけの時間が欲しい。それにあれもしたいけどあからさまになんて言えないし。


「ねえ、今度の土曜と日曜、私の家で模試向けの勉強会しようか?」

「いいですけど、二年と一年じゃあ、勉強している内容が違うから…」

「それはいいの。柚希の分からない所が有ったら教える事出来るし」

 それって二人だけになるって事だよな。そしたら…。でも俺の考え過ぎか。それより今日ここに入ったのは武田と渡辺さんの事。


「そうですね。そうしましょうか。ところで武田と渡辺さんの事なんですけど」

「その事かぁ。渡辺さんは、武田君と付き合う気は無いの?」

「どうも無いみたいです。心の中に好きな人がいるって武田が告白した時言っていたらしいです。でも一度断られたくらいでは諦められないから普段から渡辺さんと話せる状況を作って欲しいって言われて。

 俺は渡辺さんとは小林先輩の件で相談に乗った位で、後は朝の挨拶とかお昼みんなと一緒とか位なので、俺も渡辺さんにどう言って良いか想像つかなくて。皆でゲーセンとかカラオケとか行ければいいんですけど俺そういう所行った事無いし」


 柚希は、ボッチ気質じゃないけど誘われない限りそういう所は行かない子。そうだこれを利用して。


「ねえ、ゲーセンとかは私も分からないけどカラオケとかだったら二人で行ってどんなところか見てみない。その後、柚希の友達と一緒に行って渡辺さんと武田君を話せる様にすればいいじゃない」

「うーん、瞳とカラオケかあ。俺歌知らないし」

「私は少し知っているから。二人で覚えようか」

 二人でカラオケで身を寄せ合って歌を歌う…。そして見つめ合い段々唇が近づいて来て。キャーッ!


 あれ、瞳さん顔を両手で挟んで赤くなっているどうしたんだろう?


 瞳さんの歌って女の子の歌だよなあ。俺が覚えてもなあ。

「それは何か無理がある様な?カラオケなら亮とか詩織が知ってそうだから。ちょっと聞いてみます」

「そ、そう」

 カラオケ作戦は失敗かぁ。武田君の事考えるより柚希と一緒に行きたいのに。


 結局、いい案が出ないままに時間が過ぎ、

「あっ、もう午後五時過ぎだ。入ってから一時間半近くなります。そろそろ出ましょうか」

「もっと柚希と一緒に居たい」

「俺もそうしたいですけど外も暗いし」

「じゃあ送って行って」

「分かりました」

 

 瞳さんの家は俺の家とは反対方向に二駅、ここからならそんなに遠くは無い。二人で電車に乗り、瞳さんの家の最寄り駅に着くと

「瞳、バスで行きますか?」

「ううん、歩いて行こう」


 瞳さんが手を繋いで来た。

「柚希、明日何時に来てくれる?」

「瞳の都合に合わせます」

「じゃあ、午前十時でいいかな?」

 その頃にはもう両親はいないから。


「分かりました」



 家の前まで送った後、瞳さんは俺の顔をじっと見てから軽く抱き着いて

「また明日ね」

 そう言って玄関の中に入って行った。



 家に着いたのは、午後六時半。まあ普通の時間だ。

「ただいま」

「お帰り柚希」


 キッチンの方から母さんの声がした。もう帰っているんだ。母さんは看護師でシフトがある。今日は朝早く出たから帰って来ていたんだ。


 父さんは東京から帰って来るのは月に二日、月末に帰って来るだけ。もう少し父さんとも話したいんだけど我が家では仕方ないか。


 部屋に戻って着替えていると


コンコン。


ガチャ。


「柚希ちょっと良いかな?」

「何?」

 俺が着替えているのも無視をして入って来ると


「あなた何処のクラブも入っていないでしょう。生徒会手伝わない?」

「えっ?!なんで俺が?」

「庶務が一人欲しいんだけど、いい子が見つからなくてね」

「庶務って何?」

「まあ、言わば雑用係。私のお願いを聞いてくれればいいだけ、そんなに忙しくないわ。それにお昼に生徒会室使えるわよ」

「それはちょっと」

 昼間も姉弟で顔を合わせてお昼を食べるのはちょっと止めたいのが本音だ。それに瞳さんや梨音達と食べた方が美味しい感じがする。


「でも上坂さんとお昼食べる所困っているんじゃない?」

 そこを突いてくるか。あっ、良い考えが有った。


「姉ちゃん、それって男女二人じゃ駄目?」

「えっ、まさか上坂さんも入れる気。まあいいけど」

「違う。俺のクラスに武田という奴がいるんだけど、そいつと渡辺さんという人を一緒にいれられないかなと思って」

「何となくあんたの考えている事は分かるけど、男女の恋愛促進の為に生徒会は使わせないわ」

 やはりだめか。


「その返事直ぐにしないと駄目?」

「上坂さんの事ね。いいわ来週まで待ってあげる。でも入ってね」


 そう言うと部屋を出て行った。何となく拒否権無さそうな感じがする。取敢えず明日相談するか。そう言えば明日の模試の勉強って言っていたけど…。取敢えず数学と英語持って行くか。




 翌朝、俺は約束通り午前十時に瞳さんの家の玄関に着いた。


ピンポーン。


 玄関の横に付いているインタフォンを押すと直ぐに瞳さんが出て来た。


「柚希入って」

「はい、お邪魔しまーす。…あれっ?」

「もう両親は出かけたわ。二人だけよ」

「…………」

 

 瞳さんの部屋に入るのはこれで三度目だ。

「柚希、座っていて。今飲み物とお菓子持ってくる」

「はい」


 カーペットに座りながら部屋の中を見ている。とても女の子らしい部屋だ。それにとても瞳さんの匂いがする。


 下手に触ったりすると悪いからそのままにしていると瞳さんが戻って来た。ローテーブルに飲み物とお菓子を置くと俺の隣に座った。


「柚希何を持って来たの?」

「数学と英語です。学校のテストと違うだろうし、どんなところが出るのか分からないからもう一度見直そうと思っています」

「ふふっ、柚希は真面目ね。じゃあ私も同じ教科にしようかな」


 科目は違うけど同じ教科という事で始めた。俺がペンを止めると直ぐに瞳さんが横から覗き込み直ぐに教えてくれるので結構進んだ。


 ぐーっ。


 一時間半位するとお腹が鳴ってしまった。恥ずかしい。


「ふふっ、お昼ご飯作ってあげる。二人でダイニングに行こうか」

「すみません」


 一階に降りると

「柚希はダイニングで座っていて。直ぐに作るから」

「はい」


 この前も作ってくれたが、俺が手伝えるのは食べ終わった後の片づけ位だ。少し待っていると

「はい、今日はトマトチキンライスよ。召し上がれ」

 ご飯がトマトケチャップで炒められて、そこに鶏肉や細かい玉ねぎ、コーン、マッシュルームが合わさっている。上には柔らかなオムレツが乗っている。見るからに美味しそうだ。スープは中華風スープだ。


「頂きます」

「どう?」

「めちゃくちゃ美味しいです」

「ふふふっ、良かった」



 食べながら

「瞳、相談がある」

「何?」

「姉ちゃんから生徒会手伝わないかって言われた」

「生徒会?柚希が?何するの?」

「庶務だって。姉ちゃんの言われた事をするんだって」


「それって放課後や土日も出るって事」

「細かくは聞いていない。土日は流石に断るけど放課後は分からない」

「えーっ、会う時間減ってしまう」

「でも、お昼生徒会室使えるって」

「でも他の生徒会役員だっているでしょ。意味ないわ。ねえそれ入らないと駄目なの?」

「うーん、姉ちゃんの頼み事だと断り辛くて」

「じゃあ、私も一緒に入る」

「二人は入れるのかなあ。姉ちゃんに聞いてみる」

 山神さんどういうつもりなんだろう。私と柚希の関係は知っているのに。




 食べ終わって、シンクに食器を下げると瞳さんが洗い終わるのを待って部屋に戻った。


「お腹一杯ね。直ぐに勉強しても頭に入らないわ。少し休みましょ」


 そう言うとベッドに座った瞳さんはまだ立っている俺を見て自分の隣を手でポンポンと叩いた。座れという事なんだろう。言われた通りにすると肩に首を掛けて来た。


「ふふっ、こうしていると落ち着く」

 そのままにしていると瞳さんは一度立ち上がってから跨ぐように俺の腿に座った。彼女の柔らかいお尻が思い切り腿に伝わる。俺の両肩を彼女が両手で持つと唇を合わせて来た。


 そのままゆっくりと倒されると

「ねえ、柚希。まだ残っているわよ。あれ」

「…………」


 今日は勉強会と思っていたけどやっぱりこうなったか。俺も嫌いじゃないけど…。まあいいか。



………………。


 ふふっ、週一回って約束だけど、明日もして貰っちゃお。


―――――


 武田君、渡辺さん対策進みませんね。


次回をお楽しみに

カクヨムコン8に応募中です。応援してくれると嬉しいです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る