第41話 武田の再挑戦
俺、山神柚希。風邪で二日間学校を休んでしまった。普段あまり運動もしない俺は、雨に打たれた位で風邪になる位の体だと改めて知った。何か運動でもするかな。
今日も詩織と駅に向かっている。
「柚希、風邪治って良かったね。もうすぐ模試だけど進路とか決めた?」
「ありがとう詩織。まだ理系にするか文系にするか決めていない。多分理系」
「何で?」
「あまり意味ないけど。瞳が理系だから」
「そっかあ。そういう選択の仕方もあるのね。羨ましいな。私も早く誰か良い人いないかな」
「詩織は可愛いからその気になればすぐに出来るんじゃないか?」
「その気にならないのが問題なのよ」
詩織は黒く綺麗な髪の毛が腰まであり、顔は丸いけど目鼻立ちがはっきりしていて、胸もしっかりと出ている。性格だって優しい。幼馴染の俺から見ても可愛い方だと思っている。
小さい頃から一緒だからと贔屓目に見ている事を差し引いても本人がその気になればすぐに見つかると思うんだけどな。でも詩織の周りはいつも女の子だけだしな。分からないものだ。
途中で亮が乗って来て進路の話をしたが、理系に行くと言っている。俺もそうするか。二年になれば四クラスの内、理系と文系で二クラスずつに分かれる。学年上がっても一緒に居たいからな。
そう言えば亮も彼女の話を聞いた事が無いな。いる気配も無いし。今度聞いてみるか。いや止めておこう。俺が偶々瞳さんと付き合う事になったからってそれを聞けば、俺にその気は無くても上目目線と捉えかねない。
梨音にも進路の話をしたが、彼女は俺と同じと言っていた。詩織は文系志望だから残念だけど仕方ない。
学校に着いて教室に入って行くと直ぐ武田が寄って来た。
「山神、風邪で休んだと言っていたが、大丈夫か?」
「ああこの通りだ。もう問題ない」
「それは良かった」
最近、話しているとはいえ珍しいな。多分俺に声を掛けた理由は、渡辺さんが後ろに座っている事も大きいだろう。そう言えばこの前の事、途中までだったな。
「山神君おはよ。元気そうで良かった」
渡辺さんが嬉しそうな顔をして声を掛けて来た。
「おはよ渡辺さん。もう大丈夫だよ」
俺、武田信之。渡辺さんは山神に抵抗なく声を掛けて嬉しそうにしている。俺も何とかこの輪に入りたいが席は遠いし、昼休みは仲間がいるし、どうにかならないものか。
最初の授業が終わり中休みになるとまた武田がやって来た。
「山神、ちょっと良いか」
二人で廊下に出ると
「この前、話した渡辺さんと近づきたい件なんだけどな。あれ何とかならないか?」
「いや俺に言われても。それに渡辺さんとはお昼を一緒に食べる程度だし、その時は亮も梨音もいるからなあ」
山神としか接点が無い。松本もましてや神崎さんとも話をした事もない。どうにか出来ないものか。
「なあ、山神にしか頼れない。この通り」
俺より十センチ以上高い武田が、両手を頭の上で合わせて俺にお辞儀をするような恰好で頼んでいる。でも困ったなあ。渡辺さんともう一度話してみるか。瞳さんと相談して見よ。
「分かった。ちょっと考えて見るよ。でも今武田の周りにいる女の子達焼き餅焼かないか。渡辺さんが苛められるとかってならないか。武田女の子に人気あるし」
「それは何とかする」
何とかすると言っても出来るものなのだろうか。俺には縁が無いからなあ。
午前中の授業が終わり、瞳さんがお弁当持って俺の所にやって来た。
「柚希、お昼食べよ」
「はい」
神崎さんと渡辺さんがじっと私の事見ているけど構わない。私は柚希の彼女。貴方達がいくら羨ましがっても彼は放さないわ。
私、神崎梨音。昨日柚希が休んだので今週は一回しか柚希とお弁当食べれなかった。それも渡辺さんと話が有るからって昼食食べ終わったらすぐに席を離れてしまった。
何とかしたい。何とかしたい。絶対柚希と元に戻るんだ。
私、渡辺静香。上坂先輩。今山神君はあなたの彼だけどいつまでもそうだとは限らない。貴方は一年上。卒業したら山神君とは学校では会えない。でもそんなに待たない。必ず山神君の隣をあなたから奪って見せる。その為だったら…。
俺と瞳さんが学食に行くと思い切り視線を感じた。でも何か違う。視線の一部が別の方へ行っている。そっちの方を見ると、あれっ、姉ちゃんだ。いつも生徒会室でお弁当食べているって聞いたけどなんで今日はここにいるんだろう。
あっ、こっちに来た。瞳さんと俺が対面で座っていると俺の隣に座って
「柚希、体調はどう?」
「ああ、いいよ」
「えっ、どういう事?生徒会長が上坂さんの彼を名前呼びしている」
「生徒会長って、確か名前…」
「「山神!えーっ」」
「あの子この学校のNo1と2が彼女とお姉さん。な、なんと!」
「ぐぬぬっ。あの野郎。上坂さんを彼女にしただけでなく我らが女神会長、山神さんがお姉さんだと。許されねー!」
「でも仕方ねえだろう。現実だ」
「しかしなあ。悔しくないか」
「諦めろ」
何故か、別の意味で俺への視線が痛い。でも女神会長ってなんだ?
「ふふっ、柚希慣れよ」
「慣れよって言われても」
「柚希邪魔したわね。お姉ちゃん席を外すわ。上坂さん、弟を宜しく」
「はい♡」
周りの何人かの男子がまた定食のプレートに顔を突っ込んだり、前の人に噴き出したりしている。あーあっ、前の人顔がラーメンでぐちゃぐちゃ。皆顔を拭いておいてね。
俺と瞳は食事が終わった後、学食では話せないとまた外に出た。だいぶ寒くなっている所為か生徒はほとんどいない。
「瞳、相談が有るんだが…」
「何?」
俺は武田が渡辺さんに好意を持っているが、最初の告白は振られた事。渡辺さんの心の中に好きな人いると言っている事。武田がなんとか渡辺さんと日常的に話したいと思っている事を話した。
これは良い事を聞いたわ。渡辺さんは間違いなく柚希の事が好き。でも武田君という子が彼女とくっ付いてくれれば、要らぬ懸念が一つ消える。これは相談に乗る価値があるそうね。
「柚希。放課後作戦会議しようか」
「良いんですか。ありがとうございます」
ふふっ、また柚希と一緒にいれる。
―――――
ふむっ、柚希を取り巻く環境は変化していきますね。でも瞳さんどんな策があるんだろう?
次回をお楽しみに
カクヨムコン8に応募中です。応援してくれると嬉しいです。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます