第35話 放課後は賑やかです


 私、神崎梨音。昨日の朝、下駄箱に有った手紙の事は無視して帰宅した。他の人から何を言われようが私の心は変わらない。


 そして、今日の朝も下駄箱を開けたら手紙が入っていた。ちらっと見るとやはり昨日と同じだ。同じ人だろうか。こういうのは全く無視するか会って断るかだ。前者の考えも有るが後を引っ張る、やはり個別に対応した方がいいだろう。


 教室に入ってから早速私は柚希に声を掛けた今日なら一緒に行ってくれるはず。

「柚希、ちょっといい。廊下で」

「何だ梨音」



「これ見て、昨日と同じ物が」

 確かに昨日と同じ文面だ。同じ生徒だろうか?

「確かに同じだな。今日はいいぞ。校舎の陰で見ているよ」

「ありがとう柚希」


 どんな用事で有れ告白なら断るだけ。でも柚希と二人で居れるチャンスだ。



 俺、山神柚希。今日も午前中の授業で考査結果が返って来た。結果は、返却された四教科の内、八十点台が一つ、七十点台が二つ、六十点台が一つと結構な成績だった。今回ばかりは中の上と言ってもいいだろう。


 これなら明日掲示される順位表に載る事もない。世の中目立たないのが一番だ。

授業は多くの人が間違えた問題をピックアップして担当の先生が教えてくれるやり方だ。しっかりと俺も間違えた所を教えてくれた。




 午前中の授業の終り昼休みになった。いつもの様に亮が俺の方を向いて俺と亮、梨音と渡辺さんとで食べる。


 今日は梨音が作って来てくれた。なるべく早く言った方が良いだろう。でも言い方はよく考えないといけない。元カノとはいえ、今は大切な友達だ。それに新しい彼氏の事は分かる術もないが俺の為に帰国した事は事実だ。


「はい、柚希。これ」

「梨音ありがとう。亮お昼食べたらちょっと廊下に出ようか」

「おう、分かった」


 しかし、梨音のお弁当は上手い。俺の好きな物を良く知っているし、順番ずつおかずにしてくれる。こう言っては何だが、お弁当だけなら瞳さんより梨音だ。


 しかしそんな事はいずれ変わっていく。俺が瞳さんにお願いすればいい事だ。彼女もそれを望んでいるし。


「どうしたの柚希。真面目な顔をして」

「そうか。ちょっと考え事が有ってな。梨音お弁当美味しいよ」

「ふふっ、柚希嬉しい。もっと美味しくするよう頑張るね」

「ありがとう。これでも十分だよ」


 私、渡辺静香。山神君の優しさが、神崎さんに叶わない希望を持たせてしまっている。それを彼が気付いていない。


 彼は上坂先輩が好き。これからもっと好きになるだろう。彼女はそれが分かっていながら彼への実らない希望を持ち続けている。やはり神崎さんには新しい彼氏が必要なんじゃないかしら。



「梨音、ご馳走様おいしかったよ」

「うん」

「じゃあ、亮ちょっと良いか」

「ああ」


 俺は亮を校舎裏に連れ出した。話の内容が内容なの下手に聞かれたら不味い事になるからだ。


「亮、実は…」

 金曜日に有った事を一通り話した。まあ少し恥ずかしかったが。


「そうか、凄いな柚希。あの学校一の美少女をついにかあ。羨ましい限りだな。俺なんかまだ彼女さえいないのに。でもそこまで進んでしまうとどうするんだ神崎さんの事、流石に今の状況は良くないだろう」


「ああ、俺が瞳さんに今学期中には、梨音にはっきり言うからそれまで待ってくれとお願いしたら、彼女優しくて納得してくれた」


「ははっ、精神的な余裕だな。そこまで来れば先輩も安心してんじゃないか。柚希だからな」


「俺だから?」

「だってお前真面目だもの。先ず浮気なんてしないし出来ないだろう」

「まあそれは言えるな。とにかくそういう事だから今学期中は今までと同じだ」

「分かった」


 話を終えて教室に戻ると渡辺さんと梨音が楽しそうに話をしていた。



 午後の授業も終わり、梨音が校舎裏に行ったので俺もついて行く事にした。校舎の陰から見ていると梨音を呼び出した男子生徒は来ていた。一人だ。


「俺、2Bの岡島建夫って言います。神崎梨音さん、友達からで良いです。俺と付き合って下さい」

「ごめんなさい」

「誰か好きな人がいるんですか?」

「はい、います」

「誰ですか。そいつは?」

「あなたには関係ない事です。もう帰ります」

「ちょっと待てよ。もう少し話をしてくれたって良いだろう」

 

 あっ、梨音の腕を掴んだ。嫌がって離そうとしているのに離さない。仕方ないかあ。


「先輩、神崎さんが嫌がっているじゃないですか。腕を離して下さい」

「なんだお前は、いきなり出て来て」


 先輩はじっと俺の顔を見ると

「ちっ、山神か。お前でなければ」


 先輩はそれだけ言うと反対方向に走って行った。

「柚希、ありがとう」


 抱き着こうとしたので彼女の肩を掴んで止めた。

「柚希?」

「梨音、こういうのは無しだ。もう教室に行こう」

「でも怖かったの。少しだけでいいから」

「だめだ」


 俺が踵を返すと後ろからだ抱き着いて来た。

「少しで良い。ほんの少しで良いから」

「梨音離せ」

「駄目」


 仕方なく、抱き着かれた手を掴んで離すと

「じゃあ、一緒に帰って」

「それはいいけど」


 これでいい。なんとか部屋まで。



 俺達は教室に戻るともう誰も居なかった。二人でバッグを持つと教室を出た。下駄箱で履き替えてから校庭に出ると薄暗い所為か運動系の部活も切り上げ始めている。


「柚希、ねえお願いだからお休みの日何処かで会えない?」

「出来ない。俺は瞳さんと付き合っている。他の子と休みに二人で会うなんて出来ないよ」

「でも一度でいいから」

「無理だよ」


 梨音が悲しそうな顔をして下を向きながら歩いている。気持ちは分からないでもないが、もうそれは出来ない。瞳さんだけと決めたから。


 駅に着くと

「じゃあ、今日だけでいい。私の所の駅に降りて。部屋に来てとは言わない。近くの喫茶店で良いから話だけでもさせて」

「…その位なら」


 あくまでも友達として流れでこうなっただけだ。あまりにも無下に断るのは可哀想だ。梨音のマンションのある最寄り駅で降りると直ぐ側にある喫茶店に向かった。



 俺真浄寺誠司。今日は彼女の家のある駅に彼女と一緒に降りた。あれっ、あいつ山神じゃないか。隣にいるのは神崎梨音だ。そう言えば彼女この前もこの辺りで会ったな。家がこの辺なのかな。


 しかしどういう事だ。あいつは瞳の彼氏じゃなかったのか。まさか元カノと二股か?だとしたら叩きのめしてやりたいところだが、神崎の方が変に暗い顔をしている。

 事情があるみたいだな。取敢えず、後で瞳に連絡しておくか。


―――――


 なんか柚希の心の隙を瞳さんの従兄に見られてしまいましたね。


次回をお楽しみに

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