第36話 上坂瞳はお怒りです


 私、上坂瞳。今自分の部屋に居る。柚希は今日のお昼は神崎さんと一緒、帰りも一緒、はっきり言って頭の中がついていけない位、むしゃくしゃしている。


 私は柚希の彼女。もう体も合わせた立派な彼女。なのに私の彼である山神柚希は元カノとお昼を食べ、一緒に下校している。


 柚希は優しい。優柔不断と言いたい位。でも私と体を合せたから次の日から全て今までの事は無しというのはあまりに横暴だ。


 向こうだって体の経験はあるんだから。だから今学期中だけは許した。でもなんか納得いかない。


 明日は思い切り柚希に甘えてやる。そんな事を思いながら自分の部屋で何も意味なく本に目を落としていた。


ブルル。


 あれっ、こんな時間に誰だろう。画面を見るとえっ、誠司さんどうしたんだろう。画面をタップして通話モードにすると


『瞳か、俺だ誠司だ。今いいか』

『良いわよ。何、誠司さん』

『実はな。……』


 私は従兄の誠司さんからの言葉にスマホを落としそうになった。


 あり得ない。柚希が私を裏切るなんてありえない。


『もしもし、瞳大丈夫か?』

『えっ、ああ大丈夫です』

『とにかく、その後の事は分からない。ただお前に伝えておいた方が良いと思ってな』

『分かった。ありがとう』

『瞳、もしあいつがお前を裏切ったら、明日の朝陽は見れなくしてやる。でも焦るなよ。相手の神崎も相当に落ち込んだ様子だったから。俺が伝えたいのはこれだけだ。じゃあな』

『ありがとう』


 どうしよう。今はまだ午後七時。直ぐに柚希に電話しないと。場合によっては…。


 私は直ぐにスマホで柚希に電話した。


 ルルル、ルルル、ルルル、ルルル、ルルル、ルルル、ルルル、ルルル。


 出ないどうして?!まさか。


 直ぐにもう一度コールした。

 ルルル、ルルル、ルルル、ルルル、ルルル、ルルル、ガチャ。


『はい柚希です』

『柚希今どこにいるの?』

『今、電車降りて自宅に向っています』

『今まで何処にいたの?』


 えっ、どういう事。瞳さん今日は会わない約束だし。なんでこんな事聞いてくるんだろう。どうしようか。でも嘘ついても…。


『梨音と会っていました』

『どうして?何処で会ってたの?』

『瞳さんどうしたんですか?』

 瞳と呼んでくれない。


『柚希、今から直ぐに会える。そっちに行く』

 柚希が嘘をついていれば直ぐに分かる。


『あっ、ちょっと待って下さい』

 保留になった。怪しい、怪しい、絶対に怪しい。まさか本当に、嘘でしょう。


『もしもし上坂さん、私、山神理央。いきなり弟が電話代わってくれって言われて。柚希は今、家に着いた所よ』

『えっ、山神さん。どうしてこの電話に?』

『弟が何故か自分の居場所を証明してくれって言われて出たのよ。事情は知らないけど、弟は間違いなく家にいるわよ』

『分かりました。柚希に代わって下さい』

『柚希、上坂さんが変わってって』


 俺は、瞳さんの声の音から疑われていると思って、絶対的な証拠である姉ちゃんにスマホを交代した。何とか今自体は理解して貰えたようだ。


『柚希です』

『今、あなたが家にいるのは分かった。でも今まで神崎さんと会っていたの。何していたの?』

『梨音と喫茶店で話をしていました』

『何処の喫茶店?』

 うわっ、信用ゼロ状態。


『梨音のマンションのある駅の傍の喫茶店です』

『彼女のマンションある駅!どういう事?』


 俺は、仕方なく梨音の告白に付き合った事、不味そうになったので助けた事、その後、部屋に誘われたけど強く断った代りに喫茶店で一時間程話した事を説明した。


『…何となく筋は通っているけど。柚希本当に彼女とは何も無かったのよね?』

『瞳、俺を信じろ!』

『えっ?!』

 流石に頭に来て大きな声で言ってしまった。


 いきなり大きな声で言われた。スマホから柚希の声が耳の所から脳の中に入って来た。


 うわっ、うわっ、わっわっわっ…。瞳、俺を信じろ。俺を信じろ、俺を信じろ…。

 思い切り頭の中でリフレインする。

 

 一瞬で頭の中が真っ白になって、今まで話した事が全部飛んで頭の中が柚希だけになってしまった。


 会いたい、会いたい、とっても会いたい。


『柚希、会いたい。とっても会いたいよ。今すぐ会いたいよ』

『…分かりました。今すぐ行きます。家まで行きます。四十分待ってください』

『えっ!』


 本当に来てくれるの。本当に!

『分かった。待ってる』



 瞳さんが怒ったままじゃ、俺も寝る事も出来ない。仕方ない。

「姉ちゃん、今から瞳さんの家に行って来る」

「今からって、もう午後七時過ぎているわよ」

「とにかく行って来る。母さんに言っておいて」

「分かった。気を付けなさいよ」

「分かってる」



 俺は、制服のまま駅まで走って直ぐに電車に乗った。瞳さんの最寄り駅まで三十分。着いて直ぐにまた走った。そして家に着くと直ぐにスマホで連絡した。

「柚希です。ハァハァ今着きました」

「すぐ行く」


 帰宅部の俺としては走るなんてきつい。息継ぎが苦しい。


ガチャ。


 玄関が開くと瞳さんが飛び出して来た。

「柚希!」


 いきなり抱き着いて来た。

「柚希、柚希。来てくれたんだ」

「はい来ました」


 瞳さんは何も言わず俺をぎゅーっと抱きしめたまま、顔を俺の右肩に乗せた。俺も彼女の背中に手を回すと

「ごめん柚希、従兄から連絡が有ってあなたを見かけたって言うから…。

 何も冷静に考えられなくて

 一度電話しても出なくて

 やっと出ても何処にいるか心配で心配で

 あなたの声を聞いたらとても会いたくなって」


 今度は思い切り口付けをして来た。させたままにしているとゆっくりと唇を離して、また俺の右肩に顔を乗せて来た。彼女の大きな胸が思い切り俺の胸に当たっている。


「ごめん、重い女だよね。でも嫌いにならないで」

「瞳、俺はあなたを絶対に裏切らない。今日の事は迂闊だった。これからはこんな事は二度としないから」


 また唇を合わせて来た。少しだけそうしていると


ガチャ。


「「えっ!…」」

「瞳さん、家に入って貰いなさい」


 彼女のお母さんに唇を合わせている所をしっかりと見られてしまった。ゆっくりと彼女の体を離すと

「瞳、俺は帰ります。いきなり家を飛び出して来たので心配していると思いますから」

「ごめんね。柚希。勘違いして」

「良いんです。瞳に心配させるような事をしてしまった俺が悪いんです」

「うん、明日はずっと一緒だからね」


「はい、じゃあ帰ります」

「送る」

「駄目です。瞳の家族が心配します」

「分かった」


 俺は、瞳さんが玄関の中に入って行くのを見届けてから駅に向かった。



 家に着くと何故か姉ちゃんが玄関で待っていた。

「どうだったの?」

「何が?」

「上坂さんとの事よ」

「別に彼女の誤解で済んだ」

「柚希、あなたは私の可愛い弟だけど私の友人を裏切る様な事は絶対にしないでね」

「姉ちゃんに言われるまでもないよ。俺は瞳さんを絶対に裏切らない」

「そう言うなら、神崎さんとの関係を絶ちなさい」

「彼女とは友達なだけだ!」

「そう、分かったわ。手を洗ってダイニングに行きなさい。お母さんがご飯用意してくれているわよ」


 俺は母さんが用意してくれたご飯を温めし直して食べた。食器はもちろん自分で洗った。母さんは明日の朝が早いからともう寝ている様だ。


 しかし、梨音の事、もっと早くしないと不味そうだな。どうしたものか。


―――――


 ふむ、瞳さんのお怒りは相当でしたね。まあでも普通勘違いしますよね。その分柚希への愛情反動が凄かったです。


次回をお楽しみに

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面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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