第33話 神崎梨音の考え


 私、神崎梨音。柚希が帰って行ってしまった。今日は上坂先輩と会うと言っていた。多分明日も明後日も会うんだろう。とても心が寂しいこのままでは何も進展がないままに時間だけが過ぎてしまう。


 今回の考査で柚希ともっと仲を深められると思ったのに渡辺さんや上坂先輩のお陰で全く出来なかった。


 何とか柚希を私の方に向かせる事が出来ないのかな。今のままでは何も進展がない。上坂先輩が柚希を諦めれる様にするか柚希が彼女を諦める様に出来れば、私にチャンスがある。


 柚希が私の部屋に来てくれれば、あの時の様に焦った形でのやり取りをしないでゆっくりと柚希に近付けば、また私を振り向かせる事が出来る。やはりこの方法が一番いい。何とかして部屋に柚希を呼ぶ方法を考えないと。


 私が下駄箱で靴を履き替えていると

「神崎さん、今から帰るんですか?」

「はい」

 この人、前に一度いきなり私に声を掛けて来た男子だ。


「もし、急ぎの用事無かったら少し話できませんか?」

「名前も知らない人にそんな事言われても。お断りします」


「あっ、済みません。俺1C組の前田健太と言います。前から神崎さんと話をしたくて」


 目の前の人をじっと見た。身長は柚希と同じ位だけど髪の毛が眉毛辺りまでかかっている。大体なんで私と話をしたいんだろう。


「前田君、私と何の話をしたいんですか。私はあなたと話す事なんて無いんですけど」

「えっ、いや普通に話すだけです」

「そういう理由ならお断りします。時間の無駄なので」

「でも少しだけなら」

「結構です」


 あーあ、歩いて行っちゃったよ。少し位話してくれてもいいのに。彼女少し寂し気な所有るけど、とても綺麗だし。一度でもいいから話したいだけなのにな。どうすれば話す事が出来るんだ。いきなり好きですなんて言ったら引かれちゃいそうだしな。



 私、渡辺静香。神崎さんと知らない男の子のやり取りを聞いていた。彼は神崎さんに好意を持っているみたい。これ利用できないかな。彼女が山神君から離れてくれれば私が彼に近付きやすくなる。


 真面目そうな子だけど上坂君と比較したらちょっと駄目かも。あの前髪ウザいし。でも利用できそう。


「前田君?」

「はい、あの?」

「私は渡辺静香。神崎さんと同じクラスよ。君あの子と付き合いたいの?」

「…。そう出来れば最高ですけど、話すら出来ないんじゃ難しいかなと思っています」

「彼女の気を引く方法あるわよ。彼女は清潔感のある子が好きなのよ。その前髪さっぱりと切ったら」

「えっ、これをですか。でも…。それになんでそんな事言って来るんですか?あなたには関係ない事ですよね」

「まあ、そうなんだけどね。君が神崎さんに一生懸命だからちょっと応援しようかなと思って」

「理由が分かりません。もう良いですか。俺帰ります」

「あっ、ちょっと」

 はぁ、ちょっと急ぎ過ぎたかな。まあいいや。



 なんだんだ。あの背の高い女子は。前髪切るなんていきなり言って来るなんて。でもそろそろ良いか。




 私、神崎梨音。私のマンションは学校の最寄り駅から柚希の家の方へ行って、一つ目の駅で降りて歩いて少しだ。


 駅から歩いて五分と掛からない。セキュリティはしっかりとしたマンションだ。両親が私一人では色々と心配だという事で買ってくれた。


 駅を降りてから近くのスーパーで買い物をしてから帰る。一人だから週に一回の買い物で済むけど、本当は柚希と一緒に買い物したり私の部屋でご飯を食べて貰うつもりだった。


 帰国してからまだ二ヶ月だけど。もっと簡単に柚希とよりを戻せると思った。私の正直な思いをしっかりと伝える事が出来れば簡単に分かってくれると思った。


 でも私の考えが甘かった。柚希は私の捨て身の訴えでも心は動いてくれなかった。信じて貰えなかった。


 だけど友達としてなら良いと言ってくれた。お弁当も週二日なら食べてくれると言った。だから遠からず昔の様に二人の関係が戻ると思っている。


 柚希は優しい。でも意固地な所もある。その所為で今の様になっているんだ。いずれは私の所に戻って来てくれる。今はそう思いたい。



 スーパーで一人で買い物を終わらせてマンションの近くまで来ると前から体の大きい男の人と綺麗な女の人が歩いてくる。


 あれっ、あの男の人って空手部のえーとそうだ真浄寺とか言っていた人だ。どちらかがこの近くなのかな。


 最初じっと見ない様にしながら見てすれ違う時もちらりと見たけど、向こうは全く私の事気付かなかったみたいだ。私も関係ない人だからどうでもいいと思いマンション向った。



「誠司。今の子随分綺麗な子ね。貴方の顔をじっと見ていたわ。うちの学校の子じゃない」

「そうか、俺には分からなかったが。俺はお前だけだ」

「そうなの。あの子、この二学期に転校して来てたった二ヶ月で、上坂さん、山神さんと競う程の人気者よ。知っているんじゃないの?」

「お前には隠せないな。あいつは山神柚希の元カノだ。従妹の瞳の事を考えてあの子にも手を出さない様に仲間に頼んでいる」

「優しいわね誠司は。そんなところも好きよ」

「そうか」


 瞳は可愛い従妹だ。山神柚希には、大事にして貰わないといけない。その為に俺は柚希に苛めや悪戯が無い様に運動部仲間に声を掛けて瞳の彼氏に手を出さない様に頼んだ。


 だが、瞳に会ってあいつの状況を聞いているとあれほど綺麗な従妹が苦戦しているらしい。信じられない事だ。うちの学校でも一、二を争う程綺麗な従妹が、あんな取り得も無さそうな男から軽く見られているとは。


 理由を聞いた所、どうもあいつは見かけによらずモテるらしい。神崎梨音はあいつの元カノだという事も聞いた。その子が変な事になればあいつは心が揺れるだろう。そうなれば従妹の心が悲しむ。だから元カノも手を出さない様に頼んだ。


 後は瞳と山神次第だ。山神が従妹を捨てるという事は無いと思うが。


―――――


 ふむ、そういう事。しかし梨音どう動くのかな?


次回をお楽しみに

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