第32話 中間考査が終わったら瞳さんの部屋
俺、山神柚希。やっと中間考査が終わった。瞳さんと二人で勉強していた時の彼女からの圧は凄かったが、とにかく考査優先でという事で勉強をする事が出来た。
梨音との二回目の勉強会は、渡辺さん、瞳さんが前回と同様に参加して来た。こちらは前準備がしっかりと出来た感じだけど梨音が終始不満顔だった。
お陰で一応考査の手応えは有った。来週早々に結果が分かるが、中の中を良しとする俺にとっては、問題ないと思っている。
今考査の終わった教室は潮が引く様に生徒が少なくなっていた。
「柚希、また来週な」
「おう、亮また来週」
詩織はもう友達と帰ってしまっている様だ。
「柚希今日はこの後どうするの?」
「梨音、今日はこの後瞳さんと一緒だ」
「そう」
梨音が寂しそうな顔をしているが仕方ない。しかし俺とよりを戻す事なんか出来ないんだから早く他の男子に目を向ければいいのに。
俺はそんな梨音を無視して下駄箱に行くと瞳さんが待っていた。
「柚希、遅い」
「えっ、でも考査終わってまだ十分も経っていないのに」
「十分は長いよ。それより早く行こう」
「はい」
下駄箱を出たとたん瞳さんが手を繋いで来た。
「ちょっと、せめて校門出てからでも」
「いいじゃない。私は柚希の彼女。皆にも早く分かって貰う為にはこれでいいわ」
まだ、校庭には下校する生徒が一杯いる。部活も始まっている。その中で校内一の美少女と手を繋いで歩くなんてまだまだ慣れない。周りからの視線が凄い。
でもそう言えば空手部の人が教室に来て以来、小林先輩を除いては男子の誰からも声を掛けられない、苛めや嫌がらせもない、もっと責められると思っていたのに。
「どうしたの柚希?」
「えっ、いや瞳さんと付き合い始めたらもっと他の男子から責められると思っていたんですけど、前に空手部の人が来て以来、誰も声を掛けられないので不思議に思っていたんです」
「空手部?あーっ、その事か。それは聞いている。でも運動部関係からは誰も柚希を責める様な人はいないわ。その他の男子も彼らを敵にする程馬鹿じゃないからこの学校では安心して」
「どういう事ですか」
「その空手部の人が柚希の所に行った時、あなたがやっつけた人と一緒にいた空手部の部長真浄寺誠司、彼は他の運動部の部長とも仲が良くてね。柚希に手を出さない様にと頼んだからよ。あの人は私の従兄よ」
「えーっ!」
通学路とはいえ大きな声を出してしまい周りの人の注目を集めてしまった。でもなるほどそういう事か。それで視線も大分柔らかくなっていたんだ。
「そんな事どうでもいいわ、早く私の家に行ってお昼食べよ」
学校の最寄り駅からいつもとは反対方向の電車に乗り二つ目の駅で降りた。
「柚希、歩いて行こうか。歩く道覚えた方がいいものね」
「はい」
高校一年でバイトもしていない俺にはバス代も馬鹿に出来ない。往復乗ればそれなりにお金が掛かる。
歩いて十分位。瞳さんの家に来るのはこれで二度目だ。瞳さんが玄関を開け先に入った。
「柚希、入って」
「お邪魔しまーす。…あれ静かですね」
「ふふっ、今日も夕方までは誰も居ないわ」
これって、前と同じパターン?
「洗面所で手を洗ったらダイニングに行きましょ。今日は焼き豚チャーハンを作ってあげる」
「おっ、嬉しいです」
手を洗い、俺はダイニングテーブルの椅子に座り、瞳さんはキッチンに行く。制服の上着だけ脱いで眼鏡を外しエプロンを掛けると料理を始めた。
「俺何か手伝います」
「良いわよ。座っていて」
瞳さんは後ろ姿を見ていてもとても綺麗だ。背中の途中まである艶やかな髪、後ろから見てもしっかりと腰が括れていて大きすぎないお尻もしっかりある、スカートの下からは綺麗な足が伸びている。
変な気分になって来た。いけないなに考えているんだ。
いい匂いがしてくると瞳さんが二つのお皿に盛られた焼き豚チャーハンをダイニングテーブルに持って来た。おれの方が瞳さんのお皿より大盛りだ。
またキッチンに行くとトマトとレタスのサラダ、コンソメスープを持って来た。
「どうぞ、召し上がれ」
「はい」
「美味しいです」
「ふふっ、ありがとう。毎日だって食べさせてあげれるわよ」
「はい、とてもありがたいです」
「じゃあ、来週からそうする?」
「えっ、いやそれは」
「ふふっ、冗談よ。それより食べましょ」
この後どうするとか話しながら食べた。とても美味しかった。
「ご馳走様です」
「どういたしまして。座っていて。直ぐに片付けるから」
「あっ、俺も手伝います」
「じゃあ、食器をシンクに持って来て」
「はい」
食器を持ちながらキッチンに行ってシンクの中に入れた。ふと見ると瞳さんが立っている。エプロン姿が良く似合う。つい見ていると瞳さんが食器を洗いながら
「どうしたの?」
「いや、エプロン姿が似合うなあと思って」
「ふふっ、いつでも見れるわ柚希次第よ」
それって、そういう事だよな。でもそうなるには、うーん。
「なに真剣な顔しているの考えすぎよ。終わったわ、私の部屋に行こうか」
キッチンを出て廊下奥の階段を登って彼女の部屋に入った。
「そこに座って」
「はい」
俺はローテーブルの傍に座ると瞳さんも俺の横に座った。そして直ぐ近くで俺の顔をじっと見ると顔を近づけて来た。
俺の唇に彼女の柔らかい唇が触れている。腕を俺の背中に回して来た。俺も彼女の背中に手を回す。
どの位経ったんだろうか。ゆっくりと唇が離れると俺を抱きしめたまま顔を俺の右肩に乗せて
「柚希、今あなたが私の方を少ししか見てくれていないのは分かっている。私に魅力が無いんだと思う。
神崎さんの事が有るからかもしれない。渡辺さんの事が有るからかも知れない。でもね、女の子というのはそれでも好きな人を何とか自分だけに向かせようと一生懸命考える。そして行動するの。分かる私の言っている事」
どういう意味なんだろう。ただ今の言葉は一部否定しないといけない。だから俺は彼女の体を俺からゆっくりと離して正面を向けると
「瞳さん、勘違いしないで下さい。俺は瞳さんの事、思い切り好きです。梨音はただの友達です。もう昔の様には絶対になりません。渡辺さんはクラスメイトです」
また抱き着いて来た。
「じゃあ、何で私を抱いてくれないの。貴方が私を抱いてくれれば、心の不安が消える。柚希が側に居る事が分かる。私の事が本当に好きだと言うなら抱いて私の心を安心させて」
「瞳さん、俺は勇気が無いんです。もししてしまって妊娠でもしてしたらと思うと…」
「柚希、私はいいわ。貴方の子供なら産む。でもまだ早いのも分かる。だから」
彼女は一度立つと机の引出しから何か取り出した。
「買うのとても恥ずかしかった。でも柚希と私の為だと思って勇気を出したの」
ローテーブルに置かれたのは、誰でも知っているものだ。そこまでして俺の事を。心を決めるのか。俺がこの人しか見ないって。
「柚希、抱いて。私を安心させて」
「分かりました」
………………。
瞳さんの体はとても綺麗で、とても柔らかくて…。
「っ!……」
「瞳さん」
「大丈夫、来て」
柚希に抱いて貰えた。これで大きく一歩進めた。でもこんなに乱れるなんてちょっと恥ずかしい。それに思ったより痛かったな。でも嬉しい。私の大好きな人が横にいる。
横で俺の大好きな人がじっと俺を見ている。もう俺は余所見をする事は出来ない。
「ふふっ、どうしたの柚希。真剣な顔して」
「瞳さんの大事な物貰ってしまったなと思って」
「ねえ、柚希。もうさん付けるの止めて瞳でいい」
「でも言い辛いです」
「駄目、慣れて」
また、唇を合わせて来た。
「柚希、まだ元気だね」
「瞳さんが魅力…」
「瞳でしょ」
「瞳が魅力的だからです」
「じゃあ、もう一度」
午後五時になって俺達はベッドから起きた。俺は制服に着替え瞳さんは私服に着替えた。階段を降りる時大分歩き難そうだったので
「俺一人で帰れますから」
「ううん、駅前の喫茶店に行こう。バスで行けばいいよ」
でも直ぐ側のバス停まででも大変そうだったけど。
喫茶店で
「柚希、明日も会えるよね。明後日も会えるよね」
「はい、大丈夫です」
「ふふっ、嬉しい。じゃあ、この駅に午前十時で良いかな」
「はい」
その後、一時間位更に話してから喫茶店を出た。瞳さんがバス停からバスに乗るのを見届けて電車で家に帰った。
「ただいま」
「お帰り柚希」
「姉ちゃん、ただいま」
俺は玄関にいる姉ちゃんの傍を通り抜けようとしたところで腕を掴まれた。そしていきなり抱き着かれると
「柚希、上坂さんとしたの?」
「えっ」
「お姉ちゃん聞いている。したの?」
「うん」
姉ちゃんは俺から体を離すと少しだけ悲しそうな顔をしてから
「彼女を大切にしなさい」
そう言ってリビングの方へ行ってしまった。姉ちゃん何で分かったんだろう?今日はリップも顔にはついていないはずだし。
―――――
あーあ、柚希の運命どうなる事やら。
次回をお楽しみに
カクヨムコン8に応募中です。★★★頂けるととても嬉しいです。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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